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召喚3日目7:遺志

「おのれ!」


 国王アルセリオンは、机に拳を強く叩きつけた。その怒りの要因は、当然、直太とメイの裏切りの件だ。


 退職代行のヤンを返した後、彼は王国中の貴族を集め緊急会議を開いた。題目は、裏切った勇者への報復と勇者パーティーの穴埋め。だが、世襲制の貴族をかき集めたところで、有用な案が出るはずもなかった。


「召喚できる勇者の人数は最大4人。枠は使い果たしてしまった。ガルドのような例外は除いても、伝説の武器を扱い、魔王軍に対抗できるのは召喚勇者しかいないのだぞ。」


「そもそも、ほとんど伝説の武器が活躍していないという話も。勇者など不要なのでは?」


 一人の貴族が言った。進太郎やガルドが伝説の武器を使いこなして敵を倒した辺り、決して不要とは言い切れない。だが、伝説の武器が絶大な戦果を挙げていないのもまた事実だった。だが、国王は首を振る。


「だがダイナマイトやビームガンのような、我々の世界にはない武器で魔王軍に確実に損害を与えていたと聞く。」


 勇者パーティーの情報は、逐次、ガルドを通じて報告されていた。そのため、直太たちがどれほど戦力として重要かは痛いほど理解していた。


「この損失は計り知れない。何とかしなければ。」


「ですが、王国が全軍で魔王城に突撃しても勝てる見込みはほとんどありません。」


「勝てずとも負ける程ではない。重要なのは王国の威信。裏切り者は許さないという姿勢だ。」


 焦りを隠せない国王。その覇気はすさまじく、肝の弱い貴族たちは意見することができない。そんな中、国王の一番近くにいた伯爵が、耳打ちをする。


「国王陛下、こうでもなれば、彼女を使うのはいかがでしょうか?」


 『彼女』、その言葉に国王の眉間がピクリと動く


「敵うのか?」


「物は試しです。使い捨ての駒なら有効に使わなければ。」


「確かに。常葉直太に精神的揺さぶりもかけられる。悪くはない。」


 国王は納得したようで、ゆっくりと何度か頷いた。




 魔王城に入ると、俺は客間に案内された。千穂の部屋は散らかっていて、急いでアンデットの皆さんたちがお掃除中とのこと。


 城内は思いの他、普通。魔王城らしく、暗い雰囲気でもなく、千穂に魔改造かわいくされた形跡もない。石造りの落ち着いた空間といった印象。ノクシエル曰く、生活空間である城内は万人に快適であるように設計されているらしい。千穂が魔改造かわいくしようとした際には、部下総出で泣いて止めに入ったとか。苦労してんなあ。


 ぼうっとしていると、客間に千穂とメイが入ってきた。驚いたことに、メイの首が何事もなかったように繋がれた状態で。


「遅くなっちゃってごめんね~、直君。」


「ここまで完璧に直したのか、すげえ。」


「はい、私も驚きました。全く違う魔術と科学技術のシステムを両方取り入れて、私が正常に機能しているとは……」


 素人の俺でも、科学技術に魔術を組み込むことの凄さはわかる。魔王といえば、武力に秀でたイメージがあるが、他の所に振り分けるとこんなことになるのか。


「えへへ。伊達に魔王様やっているんじゃないんだよ。」


 感心していると、千穂があることを言い出した。


「そうそう、2人とも翻訳機頂戴。」


「え?まあいいけど、発信機がついてるとか?」


「う~ん、それはわからないけど、王国の翻訳機は、魔族のいろんな言語に対応してないんだ。」


「なるほどな。ここじゃ、無用の長物ってわけか。」


 奴隷と見下している者たちの言語に対応させるはずはない。王国に奴隷としている魔族たちは、人間の言葉に無理やり合わせる羽目にあっているようだな。


 俺たちは耳に着けていた翻訳機を外し、千穂に渡す。すると今度は、ドクロマークの翻訳機が俺たちの手に渡された。


「はい、魔王軍御用達の翻訳機だよ。」


「おお!ドクロデザイン。かっけえ。」


「アンデットの皆さんをイメージしたらしいよ。私的にはリボンをつけて可愛くしたいんだけど、大量生産品だから、変更にはお金がかかるんだって。」


 なるほど、金を盾に千穂の魔の手から逃れたか。以後、この世界のロマンが危機に瀕したときは、参考にさせてもらおう。


 千穂は、魔術で魔王の衣装から部屋着に変化させる。へそ出しタンクトップに短パン。見慣れた千穂の自堕落スタイルだ。


 うん?ちょっとまて……今さらっと変身ヒロインみたいに一瞬でお着換えしたな。


 そんなことを突っ込む前に、千穂は俺のすぐ隣に座った。メイを抱き寄せ、自分の膝に載せると、少し真剣な表情で口を開いた。


「さて、直君。私が魔王になるまでのこと話すね。」


「ああ、そういえばまだ聞いてなかったな。」


 正直千穂に再会できたという事実が先行して、経緯はあまり気にしていなかった。改めて考えると、死んだと思っていた嫁がゲームの世界で魔王やってました。いくら何でも超展開すぎる。


「私ね、先代の魔王様に命を助けられたの。」


「魔王に?」


「あの日、私が戦闘中にビルの倒壊に巻き込まれたとき、偶然この世界へのゲートが繋がったらしくて。原因は不明なんだけど、私たちの世界とこの世界は時々つながることがあって、人が転送されてくることがあるんだって。


「私が転送された先は魔王城。ボロボロの私を、魔王様は助けてくれたの。」


「それが俺の知っている魔王ヴァルメリアさんだったわけか。」


 ゲームでの魔王戦は非常に苦労した。何度ゲームオーバーになったことか。それだけに、少し複雑な思いだが妻の命の恩人に違いはない。


「お礼を言いたい。今どこに隠居しているんだ?」


「実はもういないの。持病で亡くなったから。」


 確かにゲーム内でヴァルメリアさんは老婆だった。魔王やるだけあって元気そうではあった。だが、病魔が進行している裏設定があったのかも。


「先代魔王様は死期を悟り、後継者を探していた。私にはその素質があったらしいの。」


「強大な魔力を持っていて、その魔力を操る魔術の才能があったってこと。」


「そうらしいよ。そして、私は魔王になった。ヴァルメリアの名前を受け継いだの。命の恩人である彼女の遺志を継ぎたいと思ったから。」


「遺志ですか?」


 首を傾げるメイ。俺は何となくその内容が理解できた。


「魔族の解放か。」


「そうだよ。ヴァルメリアさんは、魔族差別と戦い、魔族のための国を作ろうとしていたの。」


 脳裏をよぎるのは、勇者として滞在した村での出来事。チップすら許されない猫耳姉妹、悲鳴を上げて燃えていったエルフの悲鳴、それを見ていることしかできなかった獣人の男。  


 それらの苦しみを終わらせるためには、戦い、独立国をつくる以外に選択肢はないのだ。

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