召喚3日目6:ロマンはないよ、どこまでも
西洋風の石造りの城。堀に囲まれ、堅牢な造りのその城は、魔王城と呼ぶにふさわしい風格を持っていた……らしい。
「お、おう、すごいな。」
今の魔王城にその風格はほとんど残っていない。城壁のレンガはカラフルに彩られ、あちこちで光が点滅している。城門を守っているのは、クマの着ぐるみ。中身は、アンデットらしい。
これは魔王城というより遊園地ではないだろうか。
「いいでしょ!可愛らしくて。」
「もはや何も言うまい。」
嬉々として、魔王城を紹介する千穂乃。俺は否定も肯定もせず、ただ諦めムードだった。この世界にロマンを求めるのはやはり間違いなようだ。
「実に千穂乃様らしく、可愛らしいお城です。」
至近距離でメイの顔がひょこっと現れる。思わず後ろに飛びのいた。
「うおぉ、出た!」
「何ですか、私は心霊現象ではありませんよ。」
「さっきまで首より下と上が分離していたんだぞ。幽霊以外の何だっていうんだ。」
俺の抗議に応えたのは、得意げに笑う千穂。
「とりあえず、魔術で直してみたよ!といっても応急処置だから、いろいろ見えちゃっているけど。」
「う、うんそうだな。」
首と胴体は、微妙にずれていて、首の皮がはがれているため、配線もむき出し。はっきり言ってグロい。それでも、魔術で本当に直るんだな。物は試しとはよく言ったものだ。
「ところでなぜ、千穂乃様がここに?」
「お前が寝ている間に色々あってな。今、千穂は魔王やっているらしい。」
「なるほど、さっぱりわかりません。」
「説明すると長くなる。雰囲気で理解しろ。」
「アンドロイドに対して、そんな非論理的なことを言われましても。」
状況が呑み込めておらず、肩をすくめるメイ。
だが、彼女にとってそれは重要な事ではない。
「まあ、とにかくご無事で何よりです、千穂乃様。信じて待った甲斐がありました。」
メイは穏やかにほほ笑む。そう、千穂の無事をメイだけはずっと信じていた。千穂は感極まったのかメイに抱き着き、頬をすり寄せる。
「メイちゃん、会いたかったよ~。やっぱり可愛いよ~。」
「よしよし、変わらず元気そうですね。」
頭を撫でられ、気持ちよさそうに目を細める千穂。これでは主人とペット、主従が逆転していないか。
何はともあれ、二人のイチャイチャは眺めると癒される。その尊さを堪能している最中だというのに、やかましい奴が口をはさんできた。
「認めん、私は認めんぞ。貴様が魔王様の夫に相応しいわけがない。」
「ノクシエル、お前何様だよ。」
「はっはっは、残念だったな。」
なんで得意げで上から目線なんだよ。と思っていると、次の瞬間、認めたくない事実を叩きつけられた。
「お前はこの世界では結婚していない。」
「ぐっ……なるほど、覚えておけよ。今に婚姻届けを出してやる!……でどこに出せばいいんだ?」
「させるものか!」
「黙れ!ちゃんと千穂の里親の了承は得たぞ。お義父さんだって『お前に娘はやらん……え、あ、待て、わかった。娘をやる、娘をやるからわしのパパ活の証拠は隠してくれ。』って言っていたし。」
「随分強引だな!そんなもの、認められるか!」
あ、やっぱりそう思う?あの頑固な義父を黙らせるには、手段を選べなかったんだよ。
「ノクシエル君?私の直君に何か文句でもあるの。」
見かねたのか、千穂が仁王立ちして、加勢してくれた。しかしノクシエルもしつこい。
「ええ、納得いきませんよ。確かにこの男は、敵にすると厄介な強さと、有事にも焦らぬ冷静さ、そして高い状況適応能力があるようですが!」
それは文句なの?褒めてない?
「何より魔王様への愛も十分なようですが……しかし、こいつは勇者ですよ!我々の仲間を何人も葬った。」
うん、そこを突かれると痛い。俺が魔王軍の古株だったなら、裏切った勇者の加入なんてとても認められないだろう。まあ、主に魔王軍に甚大な被害をもたらしたのはメイではあるが。
「“元”勇者だよ。それに、ノクシエル君もメイちゃん壊したでしょ。お互い様だよ。」
「う、それは……」
「よ~く~も~わ~た~し~の~く~び~を~。」
ここぞとばかりにメイが目を赤く発光させて、迫る。修理が完全ではないからか、微妙に首が傾いている。おどろおどろしいBGMも相まって、結構怖い。
「ひっ、ひやああああああ!」
ノクシエルは絶叫した後、気絶してしまった。
「それで、勢いで勇者やめちまったけど、どう伝えようかな?」
「王国に報告する義理はありませんよ。」
「まあ、そうだな。魔王軍に与することは、自動的に王国と対立するってことだもんな。」
無理に伝える必要はない。何なら、味方の振りをして王城に潜入などをした方がメリットは大きい。だが、俺には一つ気がかりなことがあった。
「進君とガルド様は音沙汰なしなら心配するだろうなあ。」
王国の人々にはあまりいい感情は抱かない。魔族に対する酷い差別は、人間として正気を疑う。だが、同じパーティーメンバーだった二人は別だ。彼らの勇敢さは、尊敬に値する。心配させるのも罪悪感があるし、味方の振りして再会するのも後ろめたい。
「退職代行サービス使う?」
「え?た、退職代行サービスって、そんなものまで。」
「うん、今結構人気なんだって。」
ねえ本当にここゲームの世界なんだよね。どうして現実世界の世相が生々しく反映されているんだよ。




