召喚3日目5:再会
「本当に……千穂なのか?」
「うん、そうだよ……直君のお嫁さん、京福千穂乃だよ。」
童顔気味なかわいらしく美しい顔立ち。親しみやすい話し方。髪の色こそが違うが、そこにいたのは間違いなく俺の知っている千穂だった。俺は、武器を投げ捨て駆け出した。強く彼女を抱きしめる。
「もう会えないと思っていた。」
「でも、こうして会えてる!すご~い。えっとね、色々話したいことがあるの!」
「ああ、聞きたいことは山ほどある。だけどまずはこれをしないとな。」
俺は千穂の唇に自分の唇を重ねた。彼女一瞬驚いたが、すぐに嬉しそうに受け入れる。
彼女の口の中に舌を入れ、絡め合わせた。千穂は心地よさそうに目を細める。
「ぷはあ……直君、いきなり大胆だね。」
「周りの目なんか構ってられるか。やっと再会できたんだ。」
千穂は顔を真っ赤に染めて、上目遣いで見てくる。その姿の何と愛おしいことか。とっくに諦めていた再開が果たされ、俺の目には彼女以外映らない。
イチャイチャしていると、横にいる吸血鬼が何だかうるさい。
「き、貴様、魔王様とキ、キ、キスなどと……」
「キスじゃねえ、ディープキスだ!」
「な、な、何とふしだらな!」
ノクシエルは、顔を赤らめて叫ぶ。折角見た目がかっこいいのに、こういうところは初心なんだな。まあ、今はサブキャラのことなんてどうでもいいが。
「ごめんね~、ノクシエル君。ちょっと黙っていてくれる?」
「あ、はい、申し訳ありません。」
千穂乃が言うと黙るのかこいつ。随分と慕われているみたいだ。
「ていうか。何で魔王なんか?なんか強大な力に操られていたりしないか?」
「失礼な!私は自分でやりたくて魔王をやっているの。」
「え、でもだって魔王だぜ魔王。」
「いいの!」
「まあ、千穂らしいかな。君が変人なのは前からだし、こういうこともあるか。」
新興宗教、SF政党、パンダカー、陰謀論……彼女には異世界魔王を超える変人属性がてんこ盛りだ。受け入れるのは容易い。
「何か、ものすごく酷い罵倒を受けた気がするよ!」
「細かいことは気にしなくていいじゃないかな。」
「なんか、誤魔化されている気分……」
ふくれっ面の彼女も久しぶりに見れた。その表情の一つ一つに癒される。彼女の頬を撫でてやると機嫌を直してくれた。
「よし、千穂が魔王やりたいなら協力する。勇者やめて魔王軍に入ろう。」
「え!あ、ありがと。嬉しい。でも、そのいいの?」
「当たり前だろ。俺は千穂さえいてくれれば、大概のことはできる。」
千穂が目の前にいる今、何を迷うことがあろうか。敵が王国だろうが何だろうが、千穂の邪魔をするなら、いくらでも叩きのめしてやる。この笑顔のためなら、無尽蔵のやる気がわいてくる。
「直君……」
「千穂乃。」
俺たちは静かに見つめ合う。
「だーいすき!」
「俺もだよ。愛している。」
俺たちは、再び抱擁を交わす。今度はじっくり、互いの体温を感じ合って。
召喚3日目。俺は王国を裏切り、魔王軍に与した。理由?嫁が魔王だったから。うん、これ以上ないくらいシンプル。
魔王軍は、勇者によって壊滅的被害を受けた神殿を放棄。俺たちは、ケルベロスの曳く馬車に乗り込み魔王城まで向かうことに。
「というわけでノクシエル君。改めて紹介します。私の旦那さんで、今日から魔王軍に入ってもらう直君だよ。」
「本名は常葉直太だ。さっきまで殺し合いしていて、気まずいかもしれないが、よろしくな。」
「勇者だと思っていた男が、実は魔王様の旦那だった。何だ、この急展開は……頭の整理が追い付かない。」
そりゃあ、そうだろう。俺だって、さっきまで魔王軍に入るなんて考えてもいなかったんだから。ノクシエルが混乱するのも無理はない。
「ごめんね、直君。ノクシエル君強くて大変だったでしょ。」
「ノクシエルは大したことなかった。」
「何だと貴様!もう1回言ってみろ。」
煽り耐性0のお猿さんは無視が一番。こいつ本当に四天王なんだよな?
「むしろ当然のように、ビームガンを防御魔術で弾いた千穂の方がヤバかった。あのまま戦ってたら、間違いなく死んでいた。」
「それはごめんね。でも、直君も直君だよ。柄にもなく仮面なんかつけちゃって」
「それはお互い様だろ。」
下手に仮面をつけて居なければ、もっと早く互いの正体に気づけていたかもしれない。結果論ではあるが、余計な事はするものではない。だが千穂には、弁解の余地があるようだ。
「私は、魔王だから舐められないように顔を隠す必要があるの。正直、私あんまり威厳とかないから。」
「そうか?意外と様になると思うぞ。」
「それ本当に思ってる?」
「……まあ。」
「思ってないでしょ。もおおお!」
牛になって、不満げに俺の胸をポコポコ叩く千穂。嘘を言ったつもりはない。魔王ヴァルメリアとして対峙していた時、俺は確かにそのオーラに圧倒された。が、中身が千穂と知ってからは、可愛い以外の感想が出てこない。
「いいよね、直君はソロプレイだからそういう苦労なくて。」
「ぐはあ!そ、ソロプレイ……じゃないねえし。勇者とはたまたまはぐれていただけだし、メ、メイもいるし。」
必死に否定する。だが、千穂はフォローに回るつもりで、追い打ちをかけた。
「あ……ごめんね。そうだよね、直君は、直君のペースを大切にしていいんだよ。無理に人に合わせようとしたら疲れちゃうもん。」
「やめてくれ、謝るな、急に優しくなるな!」
「よしよし、直君は何も気にすることないからね。」
千穂は、哀れみの視線を向けて、俺の頭を撫でる。久しぶりの嫁からのナデナデがこれって……ちくしょう、惨めすぎて余計に悲しくなってくる。
「やーいぼっちぼっち!」
「ノクシエル、後で覚えておけよ。」
精神年齢が小学生の吸血鬼には中指を立てておこう。マジでぶん殴りたい。
「で、さっきから何しているんだ?」
千穂が魔術をかけていたのは、吹っ飛ばされたメイの生首。
「メイちゃん、直しているの。」
「できるのか?この世界にロボットはいないし、君が得意なのはハードじゃなくてソフトだろ?」
「そうだね、でも多分、ゴーレム関連の魔術を応用すればできると思うよ。」
「ゴーレム?」
「お呼びでしょうか、魔王様。」
「おお!」
馬車の扉を開けて、ぬっと顔を出してきたのは岩を連ねて人形を形成するゴーレム。無骨な見た目だが、目の部分が光り輝いており、結構かっこいい。
確かゲームやっているとき、魔王城戦で何度か出てきた敵だ。ただなぜか、赤いリボンを全身に巻いている。自分をプレゼントにして誘惑するシチュエーションみたいで、非常に不似合いだ。
「えっと、そのリボンは?」
「魔王様の趣味でございます。」
「うわぁ……」
何となくそんな気はしていたが、やはり千穂か……なんでもかんでも、可愛くすればいいと本気で信じているらしい。
「ちょっと、直君。何その反応!ノクシエル君はこのリボン可愛いと思うよね。」
「ハ、ハイ。ソウデスネマオウサマ」
「何で片言なの?ねえ、目を合わせてよ。」
千穂乃さん、残念ですが真っ当なのはノクシエルの方ですよ。
「ノクシエル、初めて意見が一致したな。」
「貴様もやはりそう思うか。」
「どうせ、千穂が可愛くなきゃダメって泣きついたんだろ。」
「ああ、魔王様に涙目でしかも上目遣いでお願いされては、断れるはずもなく……」
「だよなあ。」
鬱陶しい奴だと思っていたが、意外と通じ合うところもあるようだ。




