第3話「初・交流戦、ガチすぎない!?」 ──前編──
「え、俺たち、出るんですか? 本当に?」
俺の問いに対し、城戸先輩は親指を立てた。
あっけらかんと笑いながら。
「そう! 初の“交流戦”! 相手は県内の強豪、晴陵高校! 超ガチ勢! ワクワクするよな!」
「ワクワクというか……普通に怖いです」
まだ仮入部のつもりだったのに、気づけば部の一員として試合に出ることになっていた。
断るタイミングを完全に失った、と言えばそれまでだけど。
でも、少しだけ――ほんの少しだけ――興味もあったのだ。
「他の学校のモルック」って、どんな感じなんだろうって。
そして迎えた土曜日。
晴陵高校のグラウンドに着いた俺は、開口一番、こう思った。
「ガチすぎだろ……」
ラインがきれいに引かれたモルック専用コート。
数メートルおきに設営された計測メジャー、ピンの並びを入念にチェックするスタッフ。
ユニフォームが揃っていて、全員、動きに無駄がない。
「これって……文化部のノリじゃないですよね?」
隣にいた今井先輩が、ぼそっと返す。
「うん、まあ、あれはもう……競技者ってやつだな」
晴陵高校は、過去に全国大会ベスト8に入った実績を持つ強豪校らしい。
こっちは新設1年目。初心者だらけ。場違い感がすごい。
「うち、なんで呼ばれたんでしょう……」
「新人校ってことで“経験積ませてあげよう”枠なんじゃない? わりとありがち」
若林先輩のその解説が、逆に辛かった。
ああつまり“試合形式の見学者”ってことか。
でも、試合は本気でやるらしい。
「当然、勝負だからね」と、相手校のキャプテンが笑顔で言っていたけど、目はまったく笑ってなかった。
最初の対戦カードは――俺たち。
「凛太郎、緊張してる?」
「……してます。死ぬほど」
「大丈夫だって。初試合はみんなそんなもん」
城戸先輩が背中を軽く叩く。その手が、やけにあたたかかった。
でも、いざ立ってみると、自分の足がふわふわと浮いている気がした。
モルック棒が重い。いつもより重く感じる。
「じゃ、先攻、モルック部・桜丘高校!」
試合開始の合図。
俺の初めての“公式戦”が、幕を開けた――
(つづく → 中編)