第2話「投げるだけ、と思っていた」 ──中編──
地味なのに、熱い。
――そんな言葉が、今日の練習の帰り道、頭から離れなかった。
翌日も放課後、俺はモルック部の練習にいた。
もう自分でも「なんで来てるのか」は分からなくなっていた。ただ、なんとなく気になった。それだけだった。
この日は、部内での2対2の練習試合。
「じゃあ今日は、俺と凛太郎ペア、対、今井&佐野でいくかー!」
城戸先輩の提案で、ペアが決まった。
佐野という人は、城戸先輩と同じ3年生。ふだんはおっとりしてるのに、試合が始まった瞬間、まるで別人みたいな目つきになる。
そして、驚いたのは今井先輩だった。
彼は、**「倒す」というより「仕留める」**という言葉が似合う投げ方をしていた。
「……次、“8”を倒す。位置、右から3番」
言った次の瞬間、スパッと木の棒が飛び、8ピンだけがきれいに倒れた。
しかも、ほとんど無駄な力は入っていない。
「え、すご……」
思わず声が漏れた。
「ね? あいつ、職人なんだよ」
隣の城戸先輩が笑いながら言う。
「でもさ、これって単なる“投げゲーム”じゃないんだよ。
1本倒すのか、複数倒すのかで点の入り方が変わるし、狙った場所にピンを集めて次の展開を読んだり。けっこう、頭使う」
たしかに、俺の中にあったイメージ――
「ただのレクリエーション」っていう認識は、もう完全に崩れていた。
俺も投げた。狙ったピンは倒れなかった。
でも、城戸先輩がフォローしてくれる。
「今のはちょっと手首が早く返りすぎた。でも当てにいこうっていう気持ちはよかったよ!」
ふざけてるように見えるのに、ちゃんと見てる。
そのギャップに、また少しだけ信頼感が増した気がした。
点差はじわじわと開いていた。今井&佐野ペアのリード。
でも、負けてるのに、なんか“楽しい”と思ってしまう。
その理由は、きっと――みんなが本気だから。
真剣な空気、黙って息を呑む時間、投げ終えた後の小さな拍手。
どれも大げさじゃないのに、心が少しずつ熱くなる。
「凛太郎、あと2投で50点ちょうど狙えるよ。いけるか?」
城戸先輩がふっと笑って問いかけてきた。
まるで、ここに立つことが当たり前だと言わんばかりに。
俺はまだ分からなかった。
何が正解かも、どうしたらうまくなるのかも。
でも、少なくとも――“ただの投げ遊び”なんかじゃ、もうなかった。
(つづく → 後編)