第2話「投げるだけ、と思っていた」 ──前編──
モルックって、ただ木の棒を投げるだけだろ。
――正直、最初はそう思っていた。
部の見学に通い始めて3日目の放課後。そんな認識のまま、俺はまた、グラウンド裏にいた。
「おーい凛太郎ー、今日は実戦練習ね! 10点以内で試合決めよう」
城戸先輩が例によって元気よく声をかけてくる。
その隣では、今井先輩が無言でピンを並べていた。目が鋭い。
「10点以内って……?」
「モルックのルールだよ。倒したピンの点数がちょうど50点になるように狙う。んで、今回は“10投以内”に決着つける練習バージョン!」
そう言われても、ルールの全体像はまだよく分からない。けど、とにかく投げる。
投げて、倒す。
また投げて、数字を狙う。
ただそれだけ――のはずだった。
だけど。
「……っち、またズレた」
城戸先輩がちょっと悔しそうな声を漏らす。
それにすかさず今井先輩がメモをとっていた。
「風が少し変わってきた。左前方、体感1〜2メートル。狙う角度、2度右に調整してみたら」
「お、ありがと!」
……え、風? 角度?
モルックって、そこまで考えるものなのか?
なんとなく参加している俺の隣で、彼らは当たり前のように**“競技”**として向き合っていた。
「凛太郎、次投ね。狙える? 7ピンと12ピン、どっちにする?」
「え? えっと……12の方が近い……ですかね」
「距離はそうだけど、12ピンは後ろにもう一本ある。倒し方ミスると2本落ちるかも」
今井先輩が、低い声で助言してくる。
……すごい。立ち位置と、倒れる方向まで読んでる。
俺は、12ピンを選んだ。狙いはあくまで1本。
モルック棒を握って、足を踏み出して、スッと手を振る――
カタン。
12ピンだけが、ころんと倒れた。
「ナイス! ちゃんと1本だけ落とした! やるじゃん!」
城戸先輩が笑う。
その瞬間、なんだかよく分からないけど、少しだけ誇らしかった。
「……偶然です」
「偶然でも当てるのはセンスだよ。次に“必然”にすればいい」
今井先輩の声が妙に重く響いた。
この人、静かだけど、本気なんだ。
この部活も。――意外と、いや、かなり“本気”でやってる。
俺はまだ、ただ投げてるだけ。
でも、彼らは違う。「狙って」倒してる。
モルックって、想像してたよりずっと――地味で、でも、熱い。
そのことに、初めてちゃんと気づいたのは、たぶんこの日の帰り道だった。
(つづく → 中編)