第5話「モルック熱中症」 ──中編──
氷嚢を首に当てながら、グラウンド脇のベンチに座る。
目の前では、午後のミニゲームが始まっていた。
日差しは少し和らぎ、風も吹いている。
でも、俺はまだその輪の中に入ることができなかった。
(……情けない)
チームメイトが汗を流して走る中、こうして何もせずに座っていることに、居心地の悪さしかなかった。
「無理すんなって言ったの、俺だからな?」
そう声をかけてきたのは若林先輩だった。
「……はい。でも、やっぱり俺、足引っ張ったなって……」
思っていたことが、つい口からこぼれた。
「そりゃ、お前がいない分、チームは回し方を変える必要はあった。
でもな、“誰かが倒れたら終わる”ようなチームだったら、そもそも勝てないんだよ」
若林先輩の言葉は、冷静だけど優しかった。
“倒れたこと”じゃなくて、“倒れた誰かをどう支えるか”を当然のように話していた。
「……俺、迷惑しかかけてないのに……」
「凛太郎」
今井先輩が、いつの間にか隣に来ていた。
そして、まっすぐ俺を見て言った。
「お前、今、誰が“迷惑”って言ってると思ってんの?」
「え……?」
「誰もそんなこと言ってない。
それでもそう思うなら、今の自分がそう言ってるだけだ。違うか?」
図星だった。
誰にも責められていないのに、俺は勝手に責められてる気になっていた。
“倒れた自分”が、“ここにいていいのか”って勝手に悩んでいた。
「……すみません」
自然と、その言葉が出た。
謝罪というより、感謝に近かった。
「じゃあ、後半戦だけでも戻ってみるか?」
今井先輩の問いに、俺は首を横に振った。
「……今日は、まだ無理だと思います。
でも、明日は絶対戻ります。今度は、ちゃんと最後まで」
その言葉に、先輩たちはうなずいてくれた。
夕暮れが近づくころ、練習が終わった部員たちが戻ってきた。
タオルを肩にかけた城戸先輩が、ぺたんと俺の隣に座る。
「お疲れー。明日、返り討ちの投げ、見せてくれるよな?」
「……返り討ちって、誰をですか」
「暑さを!」
しょうもないことを、真顔で言ってくれるその感じが、たまらなくありがたかった。
チームメイトに囲まれて笑っている時間の中で、
俺はふと、今日の“唯一の収穫”を思い出した。
チームって、“いてくれて当然”じゃない。
でも、“いさせてもらえてる”だけでも、十分価値がある。
(つづく → 後編)