第36話「僕の3年間は、ここにあった」 ──中編──
壇上から見渡す景色は、どこか遠くて、でも懐かしかった。
保護者席の奥に、顧問の先生が立っていた。
後輩たちも来てくれている。島田が、小さく頷いた。
そして……OBの赤間先輩や涼先輩の姿も、体育館の後方にあった。
凛太郎は、原稿を見ずに口を開く。
「3年前、僕は“勝手に入部届が出されていた”という理由で、モルック部に入りました」
笑いが起きる。知っている人たちは、頷きながら笑っている。
「モルックなんて知らなかったし、やる気もありませんでした。
でも……気づけば、モルックが、僕のすべてになっていました」
言葉が震える。
「100回投げても当たらない日も、
倒れて怒られた日も、
“そんなのカッコ悪い”って言われて迷った日も、全部……仲間がいたから越えられました」
「“本気でやる”って、ちょっと恥ずかしいです。
でも、本気でやったから、今、ちゃんと終われます」
涙がこぼれそうになり、凛太郎は一瞬だけ目を閉じた。
大丈夫。隣にいなくても、みんなの顔が浮かぶ。
怒ってくれた先輩、支えてくれた同期、目を輝かせてくれた後輩。
「モルックは、ただのスポーツじゃありませんでした。
誰かと支え合って、一緒に悩んで、前に進む練習でした。
人生みたいだなって、本当に思っています」
体育館に、静かな拍手が広がる。
凛太郎は、最後にこう言った。
「僕の3年間は、ここにありました。
今、誇りを持って言えます。
モルック部に入って、本当に、よかったです」
(つづく → 後編)