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第36話「僕の3年間は、ここにあった」 ──前編──
3月。
グラウンドの端にまだ少しだけ雪が残っていた。
白い制服、白い息。
校門の前で写真を撮る人、笑う人、泣く人。
卒業式の朝。
笹崎凛太郎は、制服のポケットに、くしゃくしゃの手紙を入れていた。
(最初は、ただの間違いだった。
誰かが勝手に出した入部届。間違えて入った、モルック部)
けれど、
「投げて当てるだけ」のその競技が、
気づけば、自分の毎日になっていた。
手紙には、こう書いてあった。
> 入部届が勝手に出されていたあの日から、
> 僕の3年間は始まりました。
> あれが“偶然”だったとは、もう思いません。
> 今では、それが“必然”だったと信じています。
「卒業生代表、笹崎凛太郎」
名前を呼ばれたとき、
体育館の空気がふっと静かになった気がした。
一礼して、壇上に立つ。
マイクの前に立つと、
3年間の声、笑い、土、悔しさ、拍手、すべてが一気に胸を満たした。
(ちゃんと、伝えよう)
深く息を吸って、凛太郎は語り出した。
(つづく → 中編)