第35話「卒業記念モルック、全員集合」 ──中編──
「よし、1投目いっきまーす!」
佐伯先輩が勢いよく投げたスティックは、ピンをすべてすり抜けて後方に転がっていった。
「はい、ゼロ点~!」
「変わってないですね、佐伯さん!」
「うるさい! 昔はもうちょっと当たってたんだってば!」
和やかに、にぎやかに、試合は進んでいく。
OB・OGと現役部員が入り混じった即席チームで、笑いながら、でも妙に真剣にモルックを投げ合う。
凛太郎は、2年生の島田と組んでいた。
「凛太郎先輩、いつもより楽しそうっすね」
「ん? そう見える?」
「だって、笑いながら泣きそうな顔してるから」
思わず笑って、凛太郎は泥のついた手の甲で目頭をこすった。
「最後だって思うと、な。
でも、いい時間だよ。最高の、な」
フィールドのあちこちで、叫び声や拍手が上がっていた。
あのときの1年生だった後輩たちが、先輩にツッコミを入れたり、ハイタッチを交わしたりしている。
ほんの少し前まで、緊張して言葉も交わせなかったのに。
「……成長したな、みんな」
「え、急にどうしたんですか? 親目線?」
「うるさい。お前も、な」
島田が、ちょっとだけ照れたように笑った。
「でも俺、たぶん一生この日、覚えてます」
「そうか。だったら、ちゃんと残さなきゃな」
凛太郎は、スティックを握り直す。
「この日の“勝負”、俺たちでしっかり締めようぜ」
泥にまみれた笑顔と笑い声の中で、
それでも凛太郎は、一投一投に想いを込めていた。
ただ楽しいだけじゃない。
これは、ちゃんとした“卒業の儀式”なのだと。
(つづく → 後編)