第35話「卒業記念モルック、全員集合」 ──前編──
グラウンドの入口に、ひときわにぎやかな声が響いていた。
「うわー、変わってねぇ!」
「てか寒くない? この時期にやる!?」
「松岡ちょっと身長伸びた? いや気のせいか?」
次々と現れる懐かしい先輩たち。
赤間、佐伯、涼──誰もがモルックスティック片手に、少し照れながら笑っていた。
「おかえりなさい!」
現役部員たちが整列し、頭を下げる。
「って、部活のあいさつ堅っ!」
「そういうとこ変わんねぇな~」
笑い声があがり、自然とみんなが輪になる。
この日、“卒業記念モルック大会”は、現役・OB・OG全員参加の特別ルールで行われることになっていた。
「なつかしー! このグラウンドの泥、めっちゃすべるんだよね!」
佐伯先輩がしゃがみこんで土を触ると、後輩たちが「やめてください、そんな風に懐かしまないで!」と笑った。
凛太郎は、そんなやり取りを少し離れて眺めていた。
(始まりは、ただ“流されただけ”だった。
でも、こうして終わりを迎えられるのは、奇跡のような時間を積み重ねた結果なんだ)
スティックを持つ手に、少しだけ力が入る。
「さあ、主将からひとこと!」
赤間が凛太郎の背中を押すように声をかける。
「えっ、ちょ、先輩……」
ざわつく全員の前に出て、凛太郎は深呼吸をした。
「今日は、集まってくださって、ありがとうございます。
モルック部は、部員の数こそ多くはなかったけど……こうして並んだ顔を見ると、すごく、大きな部に見えます」
少し笑いが起きる。
「今日は、楽しんでいきましょう。全力で。泣くのも笑うのも、今日で最後かもしれませんから!」
拍手が起き、モルック大会はゆるやかに幕を開けた。
凛太郎は、投げる前からもうわかっていた。
これは、ただの遊びじゃない。最後の“モルック”だ。
(つづく → 中編)