第34話「きっと、続いていく」 ──後編──
朝練が終わったグラウンド。
ピンを拾い集める手はかじかんでいたが、どこかあたたかい空気が流れていた。
「この冬が終わったら、本当に“最後の大会”っすね」
松岡が、ふとつぶやく。
「なにそれ、やめて、実感わいてくるから」
と島田が茶化すが、声のトーンはほんの少しだけ寂しげだった。
凛太郎は黙って、スティックを最後の一本まで丁寧に拭いた。
自分が先輩から受け取ったものを、今、後輩に返している。
その実感が、じわじわと胸を満たしていく。
「俺たちは、卒業するけどさ」
凛太郎は、グラウンドを見渡しながら言った。
「この場所は、お前らのもんになるんだよな。……ちゃんと頼むな」
「もちろんっす」
「任せてください、主将!」
声に嘘はなかった。
部室に戻る途中、島田がぼそっと言った。
「先輩、さっき“終わり”って言ってたけど……
俺、終わりじゃないと思ってます」
凛太郎は立ち止まる。
「先輩がいなかったら、俺、今ここにいませんでした。
だから、続けます。いや、続けたいんです。ずっと」
その言葉に、凛太郎はただ静かに、うなずいた。
冬の空にかすかに陽が差していた。
息が白くても、心は晴れていた。
「そっか……そうだな。きっと、続いていく」
別れではなく、バトンだった。
モルック部という、小さな舞台でつながった意志が、確かに未来へと受け継がれていく。
凛太郎の背中に、後輩たちの足音が重なる。
彼らは、もう次の春を見ていた。
(第34話 完)