第34話「きっと、続いていく」 ──中編──
ピンの並びをじっと見つめながら、凛太郎はスティックを振る。
**コーンッ!**という乾いた音。
一本、的確に弾かれたピンが、雪混じりの土の上に転がる。
「ナイスショットです、主将」
松岡が目を細めて拍手を送ってくる。
「もう、そう呼ばれるのもあとちょっとだな」
凛太郎がぽつりとこぼすと、島田が「え?」と振り返る。
「……そっか。あと、二週間で引退ですもんね」
誰かがその言葉を言うたび、空気がすこしだけ澄んで、冷たくなる気がする。
でもそれは、決して寂しいだけじゃない。
「なあ、春になったらさ。新入生、どれぐらい入るかな?」
「目標は10人っすね!」
「無理だろ」
「いや、文化祭プレゼンの映像、ちゃんと残してあるんで! あれ絶対刺さりますよ!」
無邪気に話す後輩たちの姿に、凛太郎は笑った。
思い出すのは、一年目の自分。
勝手に入部届を出されて、流されるように始まった部活。
だけど――
それが今じゃ、この空間を「守りたい」と思っている自分がいる。
「なあ」
凛太郎は、ぽつりとつぶやいた。
「お前らが主役になる時が、もうすぐ来る」
「……はい」
「そのとき、ちゃんと笑えてたら、それが一番嬉しい」
しばらく無言だった島田が、ふいにポツンと言った。
「でも、まだ終わってないっすよ。
主将、まだ引退してないですから」
その言葉に、凛太郎は苦笑してうなずいた。
(そうだ。まだ、最後の大会がある。
最後の一本を投げるそのときまで、俺はこの“今”の一部でいられる)
朝陽が少し高くなり、グラウンドの霜がやわらかく溶け始めていた。
(つづく → 後編)