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終末の歌姫と滅びの子  作者: キー太郎
第二章

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第64話 飲み会とかも、いざ行く段になると途端に面倒になるよね

 街がまだ眠りから醒めていない早朝。陽の光よりも早起きの者たちが続々と建物の中に入っていく。


 人々が入っていった建物は――衛士隊の本部だ。その五階にある大会議場には、既に装備を身につけ席に座る衛士たちの姿。人数は一〇〇を下らない。分隊ごとに固まって座り、今から始まる事に気を引き締めているかのように真剣な表情だ。


 それもそのはず……イスタンブール奪還祭を控えた今日、衛士隊はここ数年でも五本の指に入る程大きな山場を迎えているのだ。


 違法武器の摘発に加え、住人による衛士隊員への暴行事件。度重なる違法行為を重く見た衛士隊によるクーロン地区への一斉捜査。それは衛士隊の半数近くを動員する大々的な一斉捜査である。


 過去にはレオーネファミリーの内部抗争時に、同等の規模での捜査が行われた。つまり今のクーロン地区は、マフィアと同規模の犯罪組織とみなされている訳だ。


 もちろんそんな大捜査のメンバーに、ユーリもしっかりと選ばれている。ユーリが選ばれた……というよりリンファの分隊として勝手にエントリーされただけだが。


 とにかく幸か不幸か呼び出しを受けたユーリは、眠い目を擦りながらも自分にあてがわれた席へと腰を下ろした。既にリンファも着席しており「おせーぞ、ナルカミ」と小言を漏らすくらいには早く来ていたようだ。


 白尽くめの中で一人異彩を放つ黒いアーマーギア姿のユーリ。ただでさえ目立つのに欠伸を隠そうともしないユーリを、「おい」と隣のリンファが肘で突付いた。


 既にゲオルグ隊長も大会議室に入り、会議室の前面にはクーロンの全容を捕らえたホログラムが浮かび上がっている。


 そのホログラムをボンヤリ眺めるユーリ。


 ユーリとしては一斉捜査など正直どうでもいい。どうせ行ったところで何も出ないだろうと踏んでいるからだ。それでも捜査に参加するのは、仕方がないからだ。


 ヒョウには「隠密行動は得意じゃない」とは言ったものの、流石に『カラス絡み』は気になる、とクーロンへと潜入したのが一昨日のこと。クーロンを唆している『誰か』……だがクーロンにはそれらしい人間の姿も気配もなく、結局その潜入は空振りに終わっていた。


 ユーリはサイラス支部長たちとは違い、|相手が描いている絵の内容《敵の作戦全貌》までは知らない。ただ一人で乗り込んでも見つからなかったし、衛士を目の敵にしている風だったので、一斉捜査で乗り込めば相手がヒョッコリ出てくるのかも、と全く別の思惑で参加しているのだ。


 相手が衛士を誘き寄せてる。と言う事は何となく分かっているが、その理由や目的は知らないし興味がない。


 サイラス達と連携して、相手の思惑を把握した方が良い事くらいユーリも分かっている。分かっているが、それを許せるかどうかは全くの別だ。


 必要以上の情報を持てば、いざという時の選択肢が増えすぎる。


 それをユーリは許せない。


 情報を扱うヒョウからしたら「情報屋泣かせ」と言いたくなる信条だが、ユーリが敵を前にしてやる事は昔から唯一つ。


 乗り込んで叩き潰す。


 それだけだ。その為に必要な場所、人、などの情報は欲しいが、それ以外の思惑などの情報は全く興味がない。相手の企みや狙いなど知ったところで結局やることは変わらないので、知っても仕方がない。というのが本音である。


 故に今回も乗り込んで叩き潰そうと意気揚々と潜入したのだが、会えずじまいだ。であればリングに上がってやろうと思った。だからエレナたちに動画で「リングで魅せてやるよ」と啖呵まできった。


 ……そう啖呵を切ってしまった。となればリングに上がらねばならない……思惑も目的も知らないのに。リングに上がると言った手前、一応この一斉捜査が必要なプロセスだと理解はしているのだが……


 ちょっとだけ面倒になっているのだ。正直一晩寝れば「何で俺が相手に合わせないといけねぇんだよ」、と既にリングに上がる事すら腹立たしく感じていたりする。


 人間一日も経てば心境も変わるものである。


 そんな苛立ちを外に追い出すように、ユーリは再び大きな欠伸をしながら集まった衛士達を見回した。


「ったく――朝っぱらからご苦労なこった」

「お前もその一員だからな」


 目に涙を溜めたユーリに呆れ顔のリンファ。同じ分隊ということで、隣に座っているリンファだが、出来れば呑気なユーリの隣は御免被りたいという所だろう。なんせ内心は気が気でないのだ。


 ユーリとは違いこの一斉捜査にかけているのだ。


(何とか見つかってくれたら……)


 今まで衛士隊を裏切っていながら、言えた口ではないなどリンファは理解している。だがそれでも、武器が見つかって摘発を受けて欲しいと、リンファは心の隅で思っていた。


 もう止まってほしい。これをキッカケに。


 一縷の望みを託した一斉捜査だけに、隣で興味なさげにしているユーリの態度が少々腹立たしかったりする。


(こいつ…ホントなんなんだよ)


 やることなす事メチャクチャで考えなしの馬鹿かと思えば、妙に勘が鋭い。そして少しだけユーリの鼻の良さに期待していたと言うのに、このやる気のない態度だ。今も出発前にゲオルグ隊長が違法武器の危険性を説いている中、「どうせ無駄だろ」とユーリは欠伸を噛み殺しながらボヤく始末だ。


 そんな爆弾発言に、リンファの肩とゲオルグ隊長の眉がピクリと反応した。


「なんでそんな事言うんだよ。やってみねーと分かんねーだろ?」


 ユーリの脇を突きながら小声で怒るリンファだが、


「無駄だ、無駄無駄。これで何か出てくるよーなら、あの化物ビルの連中アホすぎるだろ」


 当のユーリは隠す気もないのか、声を落とすこともない。そもそも一昨日クーロンに潜入した際に、怪しい男がいなかったのだ。普通に考えれば黒幕と武器や危険物諸々は既にクーロン以外に移っていると思っていいだろう。


 とは言え、ゲオルグ隊長も衛士達もその情報を知らない。と、言うより敢えて今は伏せられている。この一斉捜査が不発に終わって初めて敵が顔を出すのだ。下手に相手を刺激すれば、それこそ全員が深く潜ってしまい、捕まえる事が困難になる。


 ようは敢えて泳がす為に、サイラス支部長が情報を渡すのを遅らせているのだが……そんな事など知らない衛士隊の面々は、ユーリのフザけた態度に蟀谷をヒクつかせながら睨みつけている。


(…人の気も知らねーで)


 場の雰囲気が悪くなっていく一方なのに、ユーリは空気が読めないかのように、態度を改める事ない。一触即発の雰囲気であるが、流石に出発前にエネルギーを使うわけにはいかないようで、声を荒げるものはいない。


 緊迫感満載の捜査前会議が終了し、各々が会議室から出ていく中、ユーリもその後ろに続いて――


「ユーリ・ナルカミ! 貴様はやる気があるのであるか?!」


 額に青筋を浮かべたゲオルグ隊長が、そんなユーリの肩を掴まえた。


「『あるのである』ってなんだよ?」

「知らねーよ」


 肩を掴まれたユーリの視線は隣のリンファへ――そんな視線に「巻き込むな」と隣で額を抑えるリンファ。


「あるか無いかで言えば、やる気なんてカケラもねぇよ」


 肩を掴むゲオルグ隊長の手を、払い除けたユーリが吐き捨てた。無いと分かってるのに乗り込むという無駄な行為だ。自分で乗ると言っておきながら、レールの上を走らされるようで気分も悪い。それでなくとも、この一斉捜査には不満しか無いというのに。


「ぐぬぬぬぬ! 謹慎して少しは頭が冷えたかと思ったが――」


 怒りを隠せないように顔を真っ赤にし、震えるゲオルグ隊長。


 そしてリンファも「やる気のない」発言には怒りを通り越して呆れ果てている。


「見損なったぞ! ユーリ・ナルカミ!」

「勝手に言ってろ。こんな茶番にやる気出す方がどうかしてんだよ」

「ちゃ、茶番であると言うのか!?」


 思わぬ発言に、ゲオルグ隊長がユーリに一歩詰め寄った。


「茶番じゃなかったらなんだっつーんだよ」


 怒り狂うゲオルグ隊長を、ユーリが鼻で笑う。そうユーリからしたら、この一斉捜査は茶番である。相手のシナリオに乗っかっているから?――否。そうではない。ユーリがこの一斉捜査を茶番と言い切る理由は、そんな事ではない。


「貴様……一度ならず二度までも――もう勘弁ならないのである!」


 ゲオルグ隊長がユーリとの距離を更に詰めた――

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