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終末の歌姫と滅びの子  作者: キー太郎
第二章

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第40話 餅は餅屋。蛇の道は蛇

 青白い顔をしたリンファが、もう一度男たちの懐を弄っている。


「……くそ、どうすんだよコレ――」


 焦るリンファを他所に、騒動の発端であるユーリは「なに焦ってんだ?」と他人事のように苦笑いだ。


「な…に…焦ってる…って……お前のせいだぞ?」


 唇を震わせ立ち上がったリンファが


「どうすんだよ! ナルカミ!」


 一際大きな声を上げながらユーリに掴みかかった。


「どうもこうもねーだろ。『武器持ってたからぶん殴って無力化しました』でいいだろ?」


 そんなリンファの手を振り払ったユーリは、小指を片耳に突っ込み「デケェ声出すなよ」とボヤきながらアーチに突き刺さった男を引っこ抜いた。


「その武器がねーから――」


「そりゃ今は丸腰に決まってんだろ」


 引っこ抜いた男を地面に放ったユーリに「は?」と間の抜けた疑問符を返すことしか出来ないリンファ。


「衛士隊の前に出てくんのに、本当に武器持って出てくるバカなんていねーだろ」


 眉を寄せ「お前バカか?」と続けるユーリに


「馬鹿はお前だろ! じゃなくて、どうすんだよ!」


 ボルテージの上がったリンファが再び掴みかかり「お前が武器持ってるって――」グラグラとユーリを揺らした。


「喚くなって。理屈は通すもんだっつったろ?」


 ガクンガクンと頭を揺らしながら笑うユーリに、リンファが眉を寄せてその手を止めた。


「まあ黙って見とけって」


 そう言って笑うユーリが、男たちが出てきた路地の角へと足を進める。


 角を曲がれば、その先は住宅スペースのように、幾つかの扉が規則正しく並んでいた。


 切れかけの魔導灯がぼんやりと照らす薄暗い路地は、先程ユーリ達が居た場所と比べても、扉が幾つかあるくらいで対して変わらない。


 暫くその光景を見ていたユーリだが、何かに気づいたように、一つの扉の前に立ち、その様子をデバイスの記録装置で画像として保存しはじめた。


 扉付近を角度を変え撮影すること数回――「ま、分かる……かな?」撮影した画像を見ながら呟いたユーリが、ノブに手をかけ中へと消えていく――


 捜査令状もない勝手な住居侵入だが、既に丸腰の住民を殴り倒していので、リンファには今更それを指摘する元気もない。


 とりあえず中をメチャクチャにしないように、との思いだけを持ってユーリの後へ続いて扉へと入った。




 扉の中は小さな住居のようで、幾つかの部屋に別れた空間だ。


 足を踏み入れたユーリたちを出迎えたのは、家の住人ではなくロボット式の自動掃除機だった。


 少し大きめの動作音、そしてコンパクトとは呼べないサイズ感。


 スラムの住人ならゴミ捨て場などから拾って再利用していても可怪しくはないタイプのものだ。


 意外に思われがちだが、スラムの住人とて千差万別だ。


 小綺麗にしていながら、敢えてスラムに住む人間がいない訳ではない。


 勿論そういった人の多くが、脛に傷を持つ人間だ。

 ただ、それ(前科)があると言うだけで、今も現在進行系で罪を犯している訳ではない。


 ひっそりと暮らすためにスラムに暮らしているだけなのだ。


 恐らくここの住人もそうなのだろう。ベッドや机、椅子などどれも古いが、ホコリを被ることなく、綺麗に掃除されている。


 そんな光景をユーリが一つずつデバイスの記録装置で画像として保存している。


「お、おいナルカミ。一体何してんだよ?」

「見りゃ分かるだろ? 証拠写真だ」


 デバイスを操作しながら答えるユーリだが、正直リンファとしては謎の光景でしか無い。


 唯一今の行動原理を予想できるとしたら、現状の記録を撮っているとしか思えない。


 つまり現状を撮影し、家捜しした後に元に戻すつもりではないだろうか、リンファはそう考えているのだ。

 そう考えてしまえば、そうとしか思えない光景に、リンファはこれ以上余計なことをさせないとユーリの後をくっついて回ることにした。


 追いかけてくるリンファを無視するユーリ。今度はキッチンの戸棚を開け、その中を画像に収めている。


 ひとしきり画像を撮ったかと思えば、今度は中のものを出し始めた。


 どうやら戸棚の中を物色しているようだ。


(完全にガサ入れ(家捜し)だ……)


 リンファの顔から再び血の気が引く。


 別に家探しが悪い訳では無い――礼状がないので本来はアウトなのだが――理屈を通すと言った手前、家捜しくらいは予想できた。


 では何が拙いかと言うと、家捜しするのがユーリ(異常者)だと言う事だ。


 でっち上げで市民を殴る男が、大人しい家捜しなどするはずもない。完全に家中をひっくり返す事になる。


 先程撮っていた写真はやはり……そこまで思ったリンファが


「お、おいナルカミ――」


 口を開いた瞬間、一通り物を出したユーリが、それらを元の位置に戻していく。


 一つまた一つ、最初にあった位置に戻される戸棚の中身――意外に大人しい様子に毒気を抜かれたリンファの目の前で、ユーリは完全に元通りになった戸棚の中をもう一度撮影した。


 かと思えば、次は別の戸棚の中を開いたユーリ。だが今度は画像を撮るだけで、直に扉を閉めてしまった。


 戸棚を開けては画像を撮って閉め、

 開いては画像に収めて閉じ――


 偶に中の物を物色するように出すのだが、直ぐに元に戻すだけだ……画像撮影のオマケ付きで。


 家捜し……にしては良く分からない行動が多いユーリに、痺れを切らしたリンファが


「一体何してんだよ! こんなとこ見られたら――」


 声を荒らげた瞬間


「ビンゴだ――」


 戸棚を閉めたユーリが笑顔で手を払った。


 不思議そうにリンファがキッチンやその他の戸棚を開けるが、そこにあるのは幾つかの鍋や食器、それに服や小物と言った生活用品だけだ。


「ちゃんと説明しろよ。どーいう――」


 再びユーリを追いかけるリンファだが、それを無視して今度は床や天井を見ながら歩き回るユーリ。


「ここだな――」


 リビングにあたるであろう少し広めの部屋。その角で床を見ていたユーリが、不意に立ち止まり天井を見上げながら笑う。


「お前、さっきから何やってんだよ!」


 我慢の限界がきたのか、リンファが遂にユーリの肩を掴んだ。


「何って、決まってんじゃねーか。理屈を通すための工作中だ」


 そう言うとユーリは再びリンファの手を払い除け、近場にあった椅子を寄せ、その上に昇った。


 椅子に乗ったユーリが天井の板を押すと――天井が外れ、その先に空間が出現する。


「なっ――」


 驚くリンファを他所に、ユーリは天井裏を覗き込んで中をガサゴソ――。


「あ、この状態画像に撮っとけよ」


 天井裏から顔を出したユーリが、「ほれ、コイツが証拠だ」とリンファに魔拳銃マジックガンを放って寄越した。


「……嘘…だろ? なんで……」


 完全に混乱したようなリンファが、手元の魔拳銃マジックガンと再び天井裏に顔を突っ込んだユーリを何度も見返している。


「『なんで』って、武器持ってるって言っただろ?」


 天井裏からチラりと呆れ顔を戻したユーリが、「あんなタイミングで現れる時点でクロだろーが」と再び天井裏に顔を突っ込み、「やましい事がなきゃ、あんな所で現れねーよ」今度は魔導銃マジックライフルを放って投げた。


「武器……持ってるって――」

「隠し持ってるって事だな」


 天井裏に頭を突っ込んだままのユーリが笑うせいで、籠もった笑い声が天井全体からリンファに降り注いだ。



「いやー。あったあった……大量だぜ」


 一仕事終えた、と言わんばかりに腕を組むユーリの目の前には大量の武器――結局天井裏からは魔拳銃マジックガンや、魔導銃マジックライフルだけでなく、異形モンスター素材の刀剣類など結構な数の武器が見つかった。


 武器が出てくるたび驚きの声を上げていたリンファだが、最後の方は完全に能面のような表情で出てくる武器をただただ眺めていた。




☆☆☆



「それにしても……やっすい粗悪品だな」


 倒れる男たちを前に、魔拳銃マジックガンを持つユーリが溜息をついた。


「とは言え、これで証拠バッチリだな。コイツらの胸ポケットにでもねじ込もーぜ」


 言いながら本当に胸のポケットに魔拳銃マジックガンを詰め込んでいくユーリに、


「お前……マジでメチャクチャだな」


 リンファは完全にドン引きだ。


「あとは……ダメ押しの証拠画像だな」


 そう言いながらユーリは相手のジャケットの内側を晒し、その胸ポケットに入った魔拳銃マジックガンあらわにした。……もちろんつい今しがたユーリがねじ込んだ物だ。


 デバイスの記録装置でカシャカシャ画像を保存していくユーリに、リンファが口を開く。


「どうして、あそこに武器があるって分かったんだ?」


「隠すんならあーいうところ一択だろ?」


 一通り画像を保存したユーリが、転がったままの男たちを引っ張りながら答えた。


「一択って……普通の民家の天井裏が、か?」


 眉を寄せるリンファは完全に混乱している。民家の屋根裏に武器を隠すのが、いつから主流になったんだ、と聞きたいくらいだ。


「普通の民家? ありゃ誰も住んでねーよ」


 怪訝そうなユーリの表情は、まるで「何いってんだお前?」と言いたげだ。


「誰も住んでない? 嘘つけ。メチャクチャ綺麗だったじゃねーか」

「ああ。下っ手くそな偽装だったな」


 ユーリが、壁にめり込んだ男を引っ張りながら笑う。


「偽装――」

「おい、そんなことよりサッサとこいつらしょっぴくぞ。話はその後だ」


 何処からか取り出したのか、ユーリは既に男四人をグルグル巻きにしている。


「初任日から大捕物、こりゃボーナスなんか出るんじゃねーか?」


 笑いながら男四人を軽々と担ぐユーリが来た道を戻り歩いていく。


 その後を引きつった笑いのまま追いかけるリンファ。


 明るい方向へ向かっているはずなのに、なぜかドンドン暗闇へと進んでいるような錯覚に襲われながら、


(めちゃくちゃだ……やることなすこと全部……考え方も)


 ユーリをここに連れてきてしまったことを激しく後悔していた。

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