表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末の歌姫と滅びの子  作者: キー太郎
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/111

第23話 注:主人公です

「ハンター協会の方だあ? 小物詐欺師みてーな事言いやがって……舐めてるのか?」


 エレナの()()を汲んでくれた、マフィアの一人がいきり立つ。その様子にマスク越しでも嬉しそうに見えるエレナが、小さく溜息をついている。何とか「ハンター協会発言」を有耶無耶にする事が出来たようだ。


 そんなエレナの思いなど知らないと言った具合に、ユーリは殺気立つマフィアを前に腕を組んだまま彼らを見回している。


「さて、どうしたもんかな。()()()()()()()()はヤバそうだしな……」


 呟くユーリの横で、「おい、マフィアハンマーは駄目だからな」とエレナが慌てている。


「わーったよ」


 不満気に鼻を鳴らしたユーリは、どうしたものかと自分達が殴り込んだホールを見回した。どうやらエントランス部分らしく、周囲に観葉植物や待合用のソファを備えた簡素な作りだ。


 唯一奥にあったであろうカウンターらしきものは、ユーリが蹴り飛ばした扉によって見るも無惨な状況になっているが、それ以外は奇跡的に無事である。


 マスク越しに周囲の状況を確かめるユーリに「テメー話きいてんのか?」と数人のマフィアが怒鳴り散らした。


 そんな声など聞こえないと言ったユーリがその目を細めた。


「ま、なるようになるだろ」


 ユーリの左足が床を捉え、その身を一瞬で運ぶ――

 無造作に横に伸ばされたユーリの腕が、一番近いマフィアの首を捉える。


 肉と肉が打つかったとは思えない激しい音が部屋に響き、音の発生源ではマフィアがユーリの《《ラリアット》》で綺麗に後方宙返り。


 ドサリと音を立てて床に落ちた仲間に


「あ、テメー――」


 マフィア達は慌てて懐から銃を抜き――


 それより速くユーリは、直ぐ近くにあった観葉植物に手を伸ばし、象の足を彷彿とさせる太い幹を掴んで、思い切りぶん回した。


 鉢植えが一人の頭を捉えて割れ、

 土が被ったままの根をユーリが別の男に突き刺す。


 衝突の衝撃で、砂が周囲に散らばり


「ブワ……ペッ」


 砂で奪われた目を男が払えば、その側頭部に突き刺さるユーリの左後ろ回し蹴り。


 吹き飛んだ男を尻目にユーリは回転。

 そのまま観葉植物を薙ぐ。


 別のマフィアの頭を捉えたそれだが、マフィアを吹き飛ばすと同時に、根本からボキリと音を立てて折れてしまった。


「流石に脆いな」


 苦笑いのユーリに「死ねこらぁ」と右横から突き出される銃口――をユーリが左手で引っ張った。


 つんのめるマフィアの腹に右拳を叩き込みつつ、思い切り放り投げた。


 背中から机に打ち付けられたマフィア。

 飛び散る机の破片。


「調子に乗るなよ!」


 その破片の向こうで一人のマフィアが銃を放った。


 響く発砲音とともに、ユーリがブリッジ。

 それと同時に近くに転がるパーソナル(一人掛け)ソファをユーリが蹴り飛ばせば、

 発砲したマフィアがそれに足を刈られて顔面から地面にダイブする。


「クソッタレ!」


 ブリッジするユーリの背を別のマフィアが蹴り上げ――

 その蹴りを跳ね上がるような倒立で躱したユーリ。


 ユーリは倒立のまま足を開いて旋回。

 蹴り上げようとしたマフィアを含む数人が、ユーリの倒立回転蹴りで吹き飛んだ。


「おらあああああ!」


 倒立のままのユーリへ向けて、マフィアがパーソナル(一人掛け)ソファを押しながら突進。


 ユーリが両手で床を押し飛び上がる。

 ソファを躱したユーリは、宙返りからの踵落とし。


 それがマフィアの脳天に突き刺さるとほぼ同時

 ユーリの尻がソファの背もたれを押し倒して着地。


 背もたれに座り、座面に凭れる格好のユーリ。

 それに向けて前後方向からマフィアが接近――


 ソファーを《《尻に敷いたまま》》のユーリが肘掛けを引っ掴んでそのまま後方に回転。


 起き上がるソファ。

 前からの一人が持ち上がった背もたれに蹈鞴たたらを踏み、

 後ろから迫ったマフィア二人の顔面に、ユーリの両足裏が突き刺さった。


 マフィア二人を蹴り飛ばしたユーリは、後方回転の格好で地面を捉える。

 着地と同時に飛び上がれば、ユーリの目の前には背もたれに手をついたマフィア。


 その顔面に飛び前回し蹴り。

 吹き飛んだマフィアが後続を巻き込み転がる中、

 蹴りの勢いで半回転したユーリが、ソファの上に尻から着地した。


「……良い座り心地だな。よし、()()()()()()


 そう笑ったユーリの左手が光れば、ソファーの姿が虚空へと消え去った。


「くそ! バラバラに戦うな! 射線を通せ!」


 誰かの声で、ユーリを囲んでいたマフィアが一気に距離を開けた。一定距離を保ち開きかけの扇状にユーリを取り囲むマフィア達が、一斉にユーリに照準を定めた。


 撃鉄を叩く無数の音がエントランスに響き渡る。


 飛来する無数の弾丸。それらが達する前にユーリは床を蹴り、天井へ――

 宙で縦に半回転、天井へと()()したユーリ。

 射出の勢いをタメに変換。

 ()()()穿()()踏み込みで、ユーリは狙いすましたマフィア二人の元へと、弾丸のごとく飛び出した。

 音を置き去りにするユーリがマフィア二人の頭を掴み、勢いそのまま地面に叩きつけた。


「くっ、離れろ! 援護だ――」


 現れたユーリに慌てて飛び退くマフィアを助ける為、再び撃鉄の音が響く――先程より()()()()なそれはフレンドリーファイアだけでなく、ユーリにも確実にビビっているようだ。


 狙いの甘い弾丸がユーリの脇を通り抜け、幾つかユーリを捉えていた弾丸は――


 マフィアたちの見ている前で、ユーリに当たらず()()してしまった。


「頼むぜ……いまさら()()なんかが効くと思ってんのか?」


 ユーリがその手を開くと「パラパラパラ」と間抜けな音を立てて、弾丸が床に散らばる。


「クソ! 魔拳銃マジックガンを使え!」


 再び距離を取ってマフィアが抜いたのは魔拳銃マジックガン魔導銃マジックライフルより威力と()()は落ちるが、取り回しがよく、安価なため裏の人間が好んで使用する武器だ。


 先程までの銃と違い、無闇矢鱈と乱射してこないところを見ると、()()に不安があるようだ。


 硬直するマフィアたちを他所に、ユーリは先程頭を叩きつけたうちの一人が握っていた拳銃を拾い――明後日の方向へと発砲する。


 ――チュン、チュン。


 何かが跳ねる音がしたと思ったら、「ぐァ!」と一人のマフィアが魔拳銃マジックガンを落とした。


 肩の後ろを押さえ、ユーリを信じられないもののように睨みつけているが、当のユーリは「あ、効いた」と少し楽しそうだ。


()()()()()()()、テメェら程度ならダメージが通るみてぇだし、ちょっと借りるぜ」


 そう言ってもう一つの拳銃を拾い上げたユーリが、楽しそうに両手に銃を持った拳銃を人差し指でクルクルと回転――かと思えば、再び加速。


 マフィアたちの目に映らないユーリが、文字通り光速で両手の銃を乱射する――。


 撃鉄の音とマフィアの悲鳴がエントランスに響き渡る。


「クソったれぇぇぇぇ!」


 一人のマフィアが、半狂乱になりながらも、再び視界に現れたユーリに向け、手の中の魔拳銃マジックガンを発砲。


 飛び出した赤色の魔弾は、ユーリへと吸い込まれ――瞬間再びユーリの姿が消えた。


「残念――」


 マフィアの後ろに現れたユーリ。その手の拳銃がマフィアに向けて火を吹いた。


「グゥゥ…」

「お、こいつ結構固いぞ」


 他のマフィアと違い、痛がってはいるものの血は出ていないそれに、ユーリは嬉しそうにその両手の銃を今もうずくまるマフィアに向けて乱射する。


 ――ダダダダダダ……。という音が今も撃たれているマフィアの悲鳴と、ユーリの笑い声を掻き消していく。


 ――カチン、カチン。両手の中で情けない音を鳴らすだけになった銃を、「ち、弾切れかよ」とユーリは興味をなくしたように放り投げたのも束の間、蹲る男の襟首を掴んで引っ張り上げた。


「――っと、死んでは……ねーな。セーフだ」


 今の今まで銃を乱射していた相手の命を気遣うユーリの姿は、マフィアたちからしたら恐怖以外の何ものでもない。


 そんな事とはつゆ知らず。「さて――と」放り投げた銃の代わりを拾い上げたユーリであったが「嘘だろ――」と驚愕の表情を浮かべていた。


「ソファ……ボロボロじゃねぇか」


 ユーリの視線の先には先程「良い座り心地だ」と言っていたソファと同タイプの()()がある。見るも無惨なその姿は、とても使えたものではない。


「テメェら……よくもやってくれたな」


 怒りに打ち震えるユーリに、一人のマフィア「いや、多分それはお前が――」と正論を――


「うるせぇ、テメェら全員弁償させてやる!」


 ――そんな正論をユーリの声がかき消した。


 再び姿を消したユーリが、マフィアたちを蹂躙していく。


 時に弾丸で、時に拳銃で殴り倒されて。


 広いエントランスが、むせ返るほどの硝煙の臭いで満ちた頃。その場に立っているのはユーリとそれを眺めていたエレナだけになっていた。


 ユーリは倒れ伏すマフィアの腕から、デバイスと魔拳銃マジックガンを回収していく。完全に犯罪行為……に見えるそれだが、エレナは止められないでいる。


 何故なら、相手が魔拳銃マジックガンを出した時点で、この突入はある程度の正当性を確保出来たからだ。


 一般人と言えど武器の不法所持は大罪だ。それどころか、連中が持っていたのは魔拳銃マジックガンである。魔力を弾丸に変えて放つ武器を使っていたということは、間違いなく一般人ではなく能力者であるという事の証左。その物証の確保はハンターに義務付けられた行為の一つでもあるため、エレナは敢えて黙って見ている。黙って見ている……つもりだったが――


「後で物証として提出するんだろうな?」

「はあ? あ……ああ。も、勿論そうに決まってんだろ?」


 声が上ずるユーリは動揺を隠せない。正直全て裏ルートで売却するつもりだったからだ。

 そんなユーリの考えを見透かしたようにエレナが溜息を一つ。


「幾らかは目を瞑ってやる」


 もう既に会則違反のオンパレードなのだ。少しくらい見逃したとて誤差のようなものだとエレナはもう一度溜息をついた。


「お前……意外に良い奴だな」


 悪事を見逃して良い奴とは、これ如何に。マスク越しでもそう言いたげなエレナだが、それ以上の追及は疲れるとばかりに盛大に肩を落しただけだった。




 ユーリが全てのマフィアから武器とデバイス、そしてアクセサリーを分捕るのに然程時間はかからなかった。あまりにも手慣れたその様子にエレナは「コイツが一番の問題な気が」と呟く中


「よし、行くか――」


 元気よく腕を振ってユーリが向かった先は非常階段だ。


 だだっ広いエントランスの端に設けられた扉。そこを開けるとそこまで広くない空間が一階から最上階まで吹き抜けになった構造が出現した。


 その壁際をグルリと囲むように伸びていく非常階段は、上が見えず何段あるのかも分からない。


「うーん。高いな……これ以上ザコに時間もかけてられねーし……跳ぶか」


 言うやいなや床を穿つ踏切が、ユーリをはるか上階の壁際まで運ぶ――。


 壁に着地したユーリは、先程天井を蹴った時と同様に、壁を蹴り再び上階へ。


 壁を蹴って昇っていくユーリに、時折階段途中からマフィアが発砲するが、もちろん当たるはずもなく。


 然程時間をかけずにユーリとエレナは最上階へと辿り着いた。


 非常階段から最上階へ出ると、右手に伸びる長い廊下。その先から飛来してくるのは魔弾。

 それを回避するために、一旦非常階段へと戻ったユーリが、そこから廊下の先を覗き込んだ。


 短い廊下の突き当りには豪華な両扉。廊下の途中にエレベーターの扉がチラリと見える。


 どうやら最上階はエントランス同様、ぶち抜きワンフロア丸々ボスの部屋のようだ。

 それを示すように、豪華な両扉の前には完全武装した男たちが今も魔導銃マジックライフル魔拳銃マジックガンを構えている。


「……どうする?」


 久々に口をきいたエレナは、チラリと階下を気にしている。下から怒声が迫っているからだ。


「正面突破に決まってんだろ。戸締まりだけ頼むわ――」


 エレナに非常階段へ通じる扉の封鎖だけを頼むと、笑うユーリが廊下に飛び出し、一気に加速――狙いを定めさせないよう壁や天井を蹴り、立体的にマフィアたちへと迫る。


 一番近くのマフィアにユーリの飛び蹴り。吹き飛んだマフィア。

 一瞬気を取られた別の男に、ユーリは飛び蹴りの勢いそのまま空宙で後ろ回し蹴り。


「テメー!」


 着地したユーリに向けられる銃口――突き出されたマフィアの手をユーリは左手で引っ張り、その顎に掌底をぶちかました。


 そのまま左手を軸に半回転。ユーリは男の顎に掌底を当てたまま、男の頭を壁に叩きつけた。


「く、クソ」


 ユーリの後ろで再び構えられた魔拳銃マジックガン

 それをユーリは後ろ足で蹴り飛ばし、呆ける男に左のハイキック――。


 吹き飛び、壁に頭から突っ込んだ男がピクピクと痙攣している。


「ま、こんなもんだろ」


 パンパンとユーリが手を払う。


「さ、ボスとご対面と行こうか――」


 ユーリは大扉に手をかけ、ゆっくりと押し開いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ