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終末の歌姫と滅びの子  作者: キー太郎
第三章 後半

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第178話 三人よれば文殊の知恵。って言うけど、結局は集まる人によると思う

 リリアによる陣中見舞こと、オペレーション・ディーヴァが終わってしばらく――あの作戦を成功へと導いた面々は、思い思いの日常を過ごしていた。


 東征の手伝いに奔走する者。

 軍の下働きに飽きて、普通のハンター業に精を出す者。

 まとまった収入を得て、しばしの休暇を楽しむ者。


 多くのハンターが参加した一大プロジェクトの完遂は、明らかにハンター達に自信と若干のやりきった感をもたらしている。


 端的に言えば少々空気が緩んでいると言えるだろう。とは言え、彼らも数日間ひっきりなしにモンスターと戦い、経験したことのない大群と相対し、まる一日以上荒野で緊張しっぱなしだったのだ。


 ユーリやヒョウといった、常に危険と隣り合わせで生きてきた人種でなければ、少しばかり羽を休めたくなるのも無理はないだろう。


 そんな少々緩んだ空気の中、ユーリはと言うと――


「それで? 私に話したいことがある、と言っていたが?」


 ――サイラスの運営する商会、その会長室へと足を運んでいた。相変わらず右腕を吊ったままのユーリの目の前に広がるのは、ハンター協会の時と殆ど変わらない綺麗で整頓された会長室だ。違う点があるとしたら、背後にかかっていた巨大なモニターが、大きな窓になり明るく室内を照らしている事くらいか。


 とにかく、ユーリがわざわざこの場所まで足を運んだのには理由がある。だが、ユーリはサイラスの質問に答えることなく、ただ腕を組んで黙ったまま目を瞑っているだけだ。


「ユーリくん――」

「まあ慌てんなって」


 目を瞑ったままのユーリが掌を向けて、サイラスの言葉を遮る。そうして何かに集中していたユーリが、不意に踵を返して会長室の扉に触れて――


「遅えぞ」


 ――開いた扉に呟けば、そこには一人の男が立っていた。


「ゴメンゴメン。ちょい遠回りしとったさかい」


 顔の前で片手を上げるヒョウに、「まあ入ってこい」とユーリが部屋の主を無視して室内を顎でしゃくる。ユーリとサイラスを見比べるヒョウだが、サイラスは気にしていない、とばかりに肩をすくめるだけだ。


 ヒョウは若干の呆れ顔を見せながら、既に室内へと戻ったユーリの後を追った。


「……ジジイ。あんたに話があるって言った件だが」


 ユーリは部屋に入ってきたヒョウを横目に見ながら、ドサリと音を立ててソファへと腰を下ろした。


「リリアの事だ」


 背もたれに思い切り身体を預けたユーリが、「お前も座れよ」とヒョウに目の前のソファを勧める。


「ユーリ君の部屋とちゃうやん」


 呆れ顔のヒョウに「良いんだよ」とユーリが笑って「だよな?」とサイラスに視線を向ければ、サイラスがどうぞと言わんばかりに、再び肩を竦めて笑ってみせた。


 執務机にサイラス。その目の前にある応接用ソファに、向かい合うように座るユーリとヒョウ。男三人、なんとかポジションが固まった事で、「リリアくんがどうかしたかね?」とサイラスが再び話をするようユーリを促した。


「ああ。リリアの事だが――」


 そう切り出したユーリが話し始めたのは、あの作戦中に見た異様な光景の事だ。


 リリアの歌がモンスターを引き寄せている。

 だがその歌はモンスターを弱体化させる。


 そして――


「治癒能力か……」


 机の上で指を組んだサイラスが「俄には信じられんな」とその眼鏡を光らせた。まるで何らかの証拠が欲しい、とでも言いたげな視線だがユーリはそれに臆する事なく「事実だ」と言って身体を起こした。


 吊ってある右手を気にしないような前傾姿勢。両膝にそれぞれの肘を乗せるような格好に、ようやくサイラスもヒョウも先程ユーリが言った「事実だ」という言葉の意味に気がついた。


「ユーリ君、その腕――」

「ああ。もう既に治ってる。正確には……」


 そう言いながら三角巾から腕を取り出したユーリが、問題ないという具合に包帯でグルグル巻の腕を叩いてみせた。


「正確には、帰ってきた翌日には……な」


 そう言いながら再び腕を三角巾の中に引っ込めたユーリが、あの後に起きたことを話しだした。


 あの場ではエレナの衰弱ぶりと、魔力の枯渇により折れた骨の位置を戻す程度しか出来ていなかった事。

 そのまま添え木で固定し、三角巾で吊って街まで帰った事。


 そして――


「次の日、興味半分でリリアくんの歌を聞いてみた訳か」


 ――サイラスが引き継いだ内容に「そうだ」とユーリが頷いた。


「なるほど……頑なにエレナくんの治療を拒むと思ったら――」

「そういうカラクリかいな」


 二人してもらした溜息がピッタリと重なった。治っているならエレナに治療など頼めはしまい。なんせ治療しようとした時に、エレナに気づかれてしまう可能性が高いのだ。そうなれば「なぜ既に治っている」という事になる。


 それを隠すため、ユーリはわざわざ治療を断り続けていた。しかも「怪我人だから優しくしろ」などと、ユーリらしい横柄な態度を取って『治療を拒む』という、普通では考えられないおかしな行動を正当化させていたのだ。


「だが、そうだとしたら……今までその事、治癒能力が話題にならなかったのが不思議だな」


 考え込むようなサイラスに、「確かにせやな」とヒョウも同じ様に顎に手を当て、視線を下げた。二人の言う通り、リリアの歌に傷を癒やす効果があるならば、この何年もそれが発見されなかったのは奇跡に近い。


「そりゃ話題にならねぇよ……なんせリリアの歌が効くのは、モンスターから受けた傷だけだからな」


 ユーリの言葉に二人がほぼ同時に、「は?」と疑問符をこぼして眉を寄せた。


「この前、打ち上げしたろ?」

「ああ。オペレーション・ディーヴァのやつやな」


 ヒョウの言葉に頷いたユーリが、「あの日――」と言いながら服をめくって左の脇腹を見せた。そこにあるのは拳大の青アザだ。


「あの日、クロエをバカにしてたら……これだよ」


 肩を竦めて服を戻したユーリだが、二人の表情は「お前が馬鹿にするから」と微妙な反応だ。だが、ようやくその意味に気がついたヒョウが、顔を引き締めた。


「ちょい待ち。その傷、少佐に殴られたんやろ?」

「ああ。おもっくそ、な」


 頷いたユーリが「その後何回も歌を聞いてるぞ」と、ヒョウやサイラスが望んでいた言葉を紡いだ。


 ヒョウとサイラスがお互い目を合わせて、再び視線をユーリに戻した。二人が驚くのも無理はない。ユーリの言葉が本当なら、オロバスに折られた腕は治り、クロエに殴られて出来たアザは治っていない。


 ユーリの言う通り、モンスターに付けられた傷は治り、それ以外の傷には作用していないということになる。


「ありえるんか……そないな事」

「サンプルが少なすぎる……が」


 否定する二人だが、ユーリがそんな下らない嘘を吐く必要はない。それに、ユーリの言うとおりだと仮定すると、今まで露見しなかった事にも納得が行くのだ。


 喧嘩や日常で受けた傷は癒せない。今まで街の外に出たことがないリリアだ。モンスターに傷を負わされた人間を前に歌う事自体皆無だったのだろう。

 そもそもモンスターに怪我を負わされて、リリアの店に飯を食いに行く人間などいやしない。


 普通は病院、もしくは回復薬ポーションなどで傷の治療をするのが先なのだ。


 どんな小さな傷でも、モンスターに負わされたのであれば、治療をすることは能力者としてはマナーである。傷を負ったまま街中をうろつけば、最悪の場合未知のウイルスなどを周囲に撒き散らす可能性もあるからだ。


 加えてレオーネファミリーとの一件もだ。


 彼らのせいで客足が遠のき、そもそも人前で歌う機会もなかったのだろう。


 もしかしたら掠り傷程度の人間ならいたかもしれない。だが、掠り傷だ。翌日にそれが治っていたとして、誰がそれに気がつくだろうか。


「偶然が隠してきた奇跡か……」


 指を組んだまま呟いたサイラスに、「だがこれからは、そうもいかねぇ」とユーリが首を振って再び背もたれに身体を預けた。


「人気が出過ぎた……そのうち骨折程度なら店に顔を出すバカが、現れてもおかしくはねぇ」


 三角巾から引っこ抜いた腕を、ひらひら振って見せるユーリ。確かに骨折の治療の途中で店に立ち寄る人間がそのうち出るだろう。そうすれば、ユーリ同様即座にそれが治ってしまう。


 そうなれば、その噂は光よりも速く街中を……いやこの世界を駆け巡るだろう。


「それを私に相談しに来たという事は――」

「ああ。サテライトシステムの一般化の催促と……」


 サイラスを見るユーリの顔はいつになく真剣だ。なんせ、少しでも大怪我のリスクを減らせれば、リリアの歌に込められた能力が露見する確率が減る。


「あとは、少しだけ知恵を借りに、な」


 笑って誤魔化すユーリだが、内心はかなりの屈辱だろう。なんせ自分一人では手一杯だ、と言っている様なものなのだ。


「アンタとヒョウは、俺が認める俺よりも賢い人間だ」


 そう口にしたユーリに、ヒョウは「へー」と声をもらした。ヒョウが知る限りユーリと言う男が、彼ら(ヒョウ達)以外を頼った事などない。


 つまりユーリにとって、サイラスという男は信頼に足る存在なのだろう。


 今も「差はこんくらいだけどな」と顔の前で親指と人差指を近づけては、「いや、こんくらいか?」とその間を更に縮めるユーリを見ると、その予想に少々疑いが持たれるのだが……。


 そんなユーリに、小さく溜息をついたサイラスが


「サテライトシステムの一般化は私としても望む所だ……が」


 眼鏡の奥で瞳を鋭く光らせた。


「そもそも私は隠す必要があるとは思えないが?」


 その鋭い視線を受け止めたユーリは、そう言われる事が分かっていたかのように頭を掻いて溜息をついた。


「アンタの言いたい事は分かる」


 頷きながらユーリは「分かる。分かる…」ともう一度呟いた。確かにサイラスの言いたいことは分かるのだ。


 モンスターを集めるが弱体化する力。

 モンスターから受けた傷を癒やす力。


 どちらも別に悪い事ではない。確かにモンスターを呼び寄せるのは微妙だが、それでも集まったモンスターは弱体化するし、何よりリリアの歌が届く範囲にいれば、怪我をしても瞬時に治るのだ。


 損耗率の概念を覆す強力な支援を隠せ、という方がどうかしている。


 だがユーリの隠したいという気持ちに変わりはない。だからこそサイラスを説き伏せに来たのだ。その思いを胸にユーリが再び口を開いた。


「言いてぇ事は分かる。が、駄目だ」


 頑なに首を振るユーリに「何故かね?」とサイラスがその眉根を寄せた。


「君の言うことが本当であれば、彼女の歌は人類にとっての切り札だ」

「違うな。ジョーカーだ……何が起こるか分からない、ジョーカーだ」


 そう言ってサイラスを遮ったユーリが、あの時感じた世界が脈打つ感覚をゆっくり話す。リリアの歌がどの程度の災害を引き起こすか分からない。仮にそれが想像以上の規模になった時、責任を問われるのはリリアだ。


 加えてモンスターを弱体化させる力が、能力者達の能力にどの程度の影響を与えるかも定かではない。モンスターが弱まったとしても、もし能力者も――モンスター由来の――能力が使えなくなるとしたら……ただの人と何ら変わらなくなってしまう。


「確かにそれは一理ある……だが、検証を重ねれば良いのでは?」


 サイラスも今までになく真剣な表情を見せている。サイラスは感じているのだろう。ここでユーリの気持ちを掴みそこねれば、最悪ユーリがリリアを連れてサイラス達の前から消えるかもしれないことを。


 だから丁寧にリリアという特異点の有用性を説く必要がある。そしてユーリとてそんなサイラスの腹の中を理解している。だが、だからこそ――


「検証はいい。だが公にするのは無しだ」


 ――だからこそ、ユーリが首を縦に振れない理由がある。


「何故かね?」

「世間は常に自分勝手だからだよ」


 ユーリの言葉にサイラスが怪訝な表情を浮かべるが、ヒョウだけは一人納得したように大きく頷いていた。


「望んだわけじゃねぇ力……そのくせアイツらは『力があるなら人々の為に使え』と勝手を抜かしやがる」

「しかも、期待に添えんかったら罵詈雑言の嵐やしな」


 肩をすくめるヒョウに、ユーリも「糞みてぇな集団……それが世間だ」と大きく頷いた。


 どうやらユーリ達の話にサイラスも思うことがあったようで、「それは……一理あるな」と盛大な溜息をついた。


「君達がその年齢で、いつどこで、そんな経験をしたのか気にはなる所だが……」


 眼鏡を光らせるサイラスに、ユーリが「ほっとけ」と鼻を鳴らして顔を背ける。


「君がリリアくんの力を隠したい理由は良く分かった……」


 諦めたのか、サイラスも椅子の背もたれに身体を預け天井を仰ぐ――ようやく話が纏まりかけた、その時――


「僕も基本的には隠したい派やねんけど、それってリリアちゃんの意見はどうなん?」


 ――まさかの人物が議論に一石を投じたことで、残りの二人が再び身体を起こした。


「大事なことやん?」

「そうだがよ……」


 眉を寄せるヒョウに、ユーリは苦虫を噛み潰したような顔を見せるのであった。

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