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終末の歌姫と滅びの子  作者: キー太郎
第一章

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第12話 レボ、リューション!

 支部長の一喝で再び部屋に静寂が訪れた。


 ブスッとした表情のユーリ。

 顔を赤らめ羞恥に悶えるエレナ。

 なぜか今も両耳を抑えて縮こまるカノン。


 三者三様の姿を支部長はチラリと見て、椅子へと深く座り直した。


 自身を落ち着かせるように、深くため息をついた支部長が少しだけ声を落として話を続ける。


「今回、都市の防衛機能に不備がないかチェックするために、ユーリ君の()()()()()()()()()()()()()ことは、既に通達し確認済みという認識でよいかな」


 そんな支部長の問いかけに、「その認識でよいのである」とゲオルグ隊長が大きく頷く一方で、


 「え? そんな話になってん――にょい!」


 ポツリと爆弾発言をしようとするユーリに何度目かの肘鉄が叩き込まれた。


「――にょい?」

「なんでもありません。どうぞお話を続けてください」


 変な声に反応するゲオルグ隊長に、澄まし顔に戻ったエレナが支部長との会話を促している。


 これが支部長がユーリに伝えなかった真意だ。都市の防衛機能をチェックするのにいい機会だとユーリを利用しようとしたのだ。


 都市の防衛機能チェックは、通常衛士隊とハンター協会の二組織が合同で行う。下層の治安を守る衛士隊は勿論だが、下層と荒野を行き来するハンターも有事の際は都市の防衛に当たるのが常だ。


 上層の治安を守り、人類最大の兵力を誇る軍も防衛にあたるが、それはあくまでもモンスターの大群や、大規模な武装組織相手の場合に限られる。


 ユーリが捕まったような、都市への潜り込みやなりすましを管理するのは衛士隊の仕事である。

 そしてモグリが都市内に増えれば、正規ハンターの仕事が減る。それ故ハンター協会も衛士隊と協力して防衛機能の保全に努めているのだが……。


「さて、その事についてだが…。まず通常より時期が早まったことを謝罪しよう」


 所謂避難訓練のように、大体は日時を指定して行っているのだ。それが今回は少々早かった。


「そちらも問題はないのである」

 手のひらを支部長に突き出し、ブンブン首をふるゲオルグ隊長が少しだけ可愛らしく見えてきたユーリだったりする。


「確かに少し早いであるが、そろそろチェックの時期ではあるし、元々期間を決めて行っていたわけではないので、問題はないのである」


 ゲオルグ隊長が見せる笑顔は、全く気にしていない、といった素振りだ。だがそれはもちろん、時期が早まったという一点についてのみ。


「ただ今回吾輩たちに何の連絡もなかったのは何故であるか? そのせいで吾輩の隊員たちは、そこの狂犬に噛みつかれたのであるぞ?」


 笑顔を引っ込めたゲオルグ隊長が、再びユーリをギョロリとした目で睨みつけてきた。


 ゲオルグ隊長の言う通り、一番の問題は次期のズレよりも、抜き打ちであったと言う部分だろう。今までは協力してやってきたのに、今回は抜き打ち。そしてその相手が狂犬で、しかもゲオルグ隊長にすら話を通さずだ。


 ゲオルグ隊長が怒るのももっともだが、その声を聞いた支部長は意味深にニヤリと笑った。


()()なのだよ。ゲオルグ隊長」


 ユーリを睨みつけていたゲオルグ隊長に、支部長が一際大きな声で何度も「それなのだよ」と続ける。


「どれであるか?」


 だがそんな支部長の熱意はゲオルグ隊長はおろか、ユーリたちにも伝わっていないようだ。

 唯一伝わってそうなのは笑顔で頷くクレアだけである。


「以前から君は『衛士隊は訓練ばかりで実戦経験が乏しい』と嘆いていたな」


 支部長が再び机の上で手を組み直す。


「そうであるな。我々は日夜鍛錬に勤しんではいるが、流石に街を空けるわけには行かないのであるからな」


 困ったようにウンウン唸るゲオルグ隊長の言う通り、流石に衛士隊の面々を街から出して()()に参加させるわけにはいかない。


「そこで今回私はあえて衛士隊に知らせず、ユーリ君を派遣したのだよ

 視線をユーリに移す支部長の眼鏡は光っている。


「彼は()()ではあるが、戦闘のプロでね。特に対人戦、対人型における戦闘技術はエレナ君ですら舌を巻くほどだ」


 満足したように頷く支部長のその言葉に――


「誰がバカ――ったぁ」

「頼むから黙っていろ」


 暴れだしそうなユーリの足先を踏み抜くエレナ。そのエレナにゲオルグ隊長の視線が向き


「ふむ。【戦姫】エレナ・クラウディア殿のお墨付きと」


 ゲオルグ隊長の質問に、エレナは黙って大きく頷くことで同意をしめした。実際にユーリの戦いぶりを見たエレナからしても『戦闘のプロ』という一点に関してだけは完全に同意なのだ。



「今回ユーリ君の暴走で衛士隊に怪我をさせたことは申し訳なく思うが、同時に衛士隊の欠点が見えたのではないのかね?」


 いつの間にかゲオルグ隊長と同じように腕を組んだ支部長。


「そこに関しては同意である。今回の事が狂言でなければ、市民に多大なる被害が出ていたのは間違いないのである」


 ゲオルグ隊長にも思い当たるフシがあったようで、腕組したまま大きく頷く


「危機感を実感出来たかね?」

「今回の事は支部長なりの()()と言うのかね?」

 眉を寄せ、二本の指でヒゲを摘んだゲオルグ隊長と、


「少々人選ミスと不幸な事故があったことは重ねて謝罪しておこう」

 短く切りそろえられた顎髭を軽く撫でる支部長。


「警鐘を鳴らした代わりに、ユーリ・ナルカミを見逃せと?」

 ヒゲをイジりながら、再びユーリを睨みつけるゲオルグ隊長。


「あわてるなゲオルグ隊長。ユーリ君の一時的な身柄引き渡しに関しては、拒絶してはいない。ただ条件を飲んでくれたらという話だ」

 同じように顎髭を撫でながらユーリに視線を飛ばす支部長。


「その条件が厳しいのであるが?」


 再び支部長に視線を戻したゲオルグ隊長が、腕を組み直して眉を寄せた。


「フム。よく考えてみたまえゲオルグ隊長。ユーリ君は戦闘のプロだ。そして今回衛士隊の脆弱性が露呈した。この2点は良いかな」

「良いのである」


 支部長の言葉に頷いたゲオルグ隊長に、「結構」と支部長が腕を組んで話を進める。


「衛士隊でも訓練の刷新をしたい。そこにユーリ君が入るとしたら――?」


 支部長はユーリをチラリと見て、意味深な笑顔をゲオルグ隊長に向けた。


「この狂犬に指導を請えと言うのであるか?」


 その言葉にゲオルグ隊長は眉を寄せ、再度ユーリを見る。当のユーリはエレナに踏み抜かれた足の指が痛くて「これ折れてねーよな」と未だに蹲っているが……。


「指導とまではいかずとも、一緒に訓練をしてもらうことくらい問題ないだろう?」


 立ち上がった支部長が机を迂回して、ゆっくりとした足取りでゲオルグ隊長へと近づく。考え込むように腕を組み、支部長とユーリを見比べているゲオルグ隊長へ。


 そんなゲオルグ隊長の元へ辿り着いた支部長が、その肩に手を置き、


「ああ、ちなみに訓練なのだ。怪我くらいするだろう。訓練中の事故は危害とは言わないと私は考えているのだが?」


 悪そうな顔で、ユーリを見つめた。


「そうであるな。訓練に怪我はつきものである」


 支部長の意図が理解できたのか、ゲオルグ隊長の笑顔も中々に悪いものだ。


「戦闘のプロなのだ。一度に複数人でも構わんよ」


 支部長がもう一度ゲオルグ隊長の肩を叩けば


「それは本当であるな? 例えば全員一斉でも構わないであるか?」


 ゲオルグ隊長が跳ねるように支部長を振り返った。


「もちろん」

 そんなゲオルグ隊長に頷いた支部長が、そのままユーリに視線を移し「そうだな? ユーリ君」と悪い顔で笑った。



 急に会話を振られたユーリであるが、先程までのおふざけモードとは一転して不満気に鼻を鳴らして口を開く。


「さあな。やってみねーと分かんねーよ」


 ふてぶてしく言い放つユーリだが、それ以上は何も言わない。ここで何を言ったところで、拒否権などないことを理解しているからだ。


「それと怪我をした隊員が復帰するまでは、ユーリ君にそのシフトの穴を埋めてもらうことも許可しよう」


 机へ戻る支部長が、これ幸いと本人への確認などなしで話を進めていく。


「うむ。支部長の条件を了承するのである」


 ゲオルグ隊長もこれは好機と大きく頷いた。何しろ相手への報復と怪我をした隊員の補填が出来るのだ。人数差こそあれど、戦闘のプロであるなら少々の無理くらい問題ないだろう、という算段だ。


「そうか。分かって頂けて何より。では詳細は後ほど」


 椅子に座り直した支部長が、話は終わりだとばかりに肩を竦めて視線を扉に飛ばした。


「うむ。では吾輩も色々と準備があるので失礼するのである」


 来たときより上機嫌に支部長室を出ていったゲオルグ隊長だが、去っていく足音は相変わらずドタドタと騒々しいものだ。


 部屋に残されたのは最初の五人。


 支部長。

 終始貼り付けた笑顔で無言のクレア。

 羞恥心から復帰したエレナ。

 未だに耳を抑えているカノン。


 そして――


「相っ変わらず悪趣味なヤローだな」


 不機嫌なユーリだ。


「フフフ。合理的と言いたまえ」


 そんなユーリとは対照的に、上機嫌なのは支部長だ。

 あれだけヒクヒクしていた青筋は鳴りを潜め、今では朗らかな笑顔まで見せている。


「相手に寄り添ったふりをしながら、こっちの条件を全部飲ませる……か。向こうが叶えられた要望は、元々こっち同意してたものだけじゃねぇか」


 ため息をつくユーリがそのまま支部長を睨みつけ


「俺への罰、衛士隊への貸し、都市の防御機能の見直しと一石三鳥で実に()()()だな」


 不貞腐れたようにその視線を逸らした。


「やはり君はバカではないな。なぜバカのふりをする?」


 そんなユーリを理解できないとばかりに、支部長が眉根を盛大に寄せる。


「ふりじゃねぇよ。回りくどいのが嫌いなだけだ」


 支部長の訝しむような視線を「シッシッ」と手で払うユーリの顔は、嫌悪感に満ちている。


 そんなユーリの表情に苦笑いを浮かべた支部長が大きく溜息をつき「交渉事は直球だけでは成立しないのだよ」と深く椅子に座り直し、そのまま足を組んだ。


「知らねーよ……俺の交渉はいつだってシンプルなんだよ。やるか、やらねぇか……それだけだ」


 既に支部長に興味をなくしたユーリは、彼に背を向けて後ろ手を振った。試験も終わり、説教も終わったのであれば、ユーリからしたらこんな場所に用はない。


 だが、その背に向けて支部長が思わぬ一言を放つ。


「そうか。では単刀直入に聞こう……ユーリ君。我々の仲間にならないか?」

「何の話だよ?」


 気だるそうに振り返るユーリの視線の先には、満足そうに笑う支部長の姿がある。


「我々はある目的を持った同志の集まりなのだ……」


 ふたたび立ち上がる支部長が後ろを振り返り、


「君は今の世の中をどう思う? 遅々として進まない生存権の奪還――」


 かつてのヨーロッパと呼ばれていた地域の中でも、南部分しかない生存権を指でなぞった。


「――秘匿、独占され続ける技術と貴重な人材――」


 振り返った支部長が真剣な眼差しでユーリを見つめながら、更に話を続ける。


「――反して消耗品のように扱われるハンターと呼ばれる人々」


 支部長がポケットから取り出した何かをユーリへと放った。柔らかな光に反射したそれをユーリがキャッチ――ユーリの手に収まったそれは、アイアンランクのハンターライセンスだ。


 そのライセンスの意味に、ユーリは心当たりがあるものの完全に信用出来ないでいる。だから真意を問うように、指で摘んだそれと支部長とを見比べた。


「……回りくどいのは嫌いだって言っただろ」


 支部長の話も、ライセンスの意味も――ユーリはそう思っての発言だったのだが……


「そうだったね。……ユーリ君、我々と一緒に【人文再生機関】を()()()()()()()()()()


 再び真っ直ぐユーリを見る支部長の目。その目は間違いなく真剣そのものだ。


「はあ?」


 返ってきた一つ目の答えが思った以上に大きすぎて、意図せずユーリは盛大な疑問符をこぼしてしまった。


 そんな疑問符に笑顔を返す支部長。ユーリにはその笑顔が、今まで支部長が見せた笑顔の中で一番輝いて見えた。



()()というやつだよ」

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