リクエスト①
リクエスト頂いたので二本立てで。
①ファンタジー小説に出てくるパワハラなどを行う美少女幼馴染に転生した主人公が原作でざまぁされる筈の運命を変える話。
②幼少期からの男幼馴染に甘やかされて我儘にかつ素直になれない性格に育った美少女が主人公(男幼馴染ではない)と出会いいい方向に変わる話。です。
とある日曜日の昼下がり。どこにでもある様な普通のアパートの一室にて一人の少女が暇な休日を自室で過ごしていた。
少女は高校生ぐらいの年頃。学校も休み。親も出掛けているし友達とも遊ぶ予定がない。
そんな少女は一人で静かにスマホを弄っていた。
少女が読んでいるのは某小説サイト。少女が見るのは最近よく見る悪役令嬢系や異世界転生系や、チート系やらと様々なジャンルを読み漁っていた。
そんな中現在読んでいるのはざまぁ系小説。
ざまぁといえば追放系や、悪役令嬢系などが王道である。
少女が読んでいるのは追放に似ているが、これは主人公自らパーティを抜けるという物語である。
題名は『パワハラ幼馴染に耐えられないので俺は魔物達と幸せになります』である。
まず主人公が"エレン・クーリッジ"という十七歳の少年である。
黒髪に黒目。黒いパーカーが特徴の普通の少年だ。ある能力を覗いて……。
舞台は剣と魔法のファンタジーな世界である"マギリア"という世界。
その世界にはギルドという冒険者達が依頼を受けれる場所がある。依頼の内容は魔物の討伐だったり採取だったり色々。
そして依頼を受けるのが冒険者である。冒険者は魔法使いや僧侶、戦士といったRPGお約束の職業の冒険者達がパーティを作り依頼を受けるのである。
少年エレンはある日幼馴染であり優秀な魔法使いである"メリル・ローレンス"にパーティ加入のお誘い……というより強引に入れられた。
メリルというのは先ほども言ったがエレンの幼馴染の少女。
蜂蜜色の長いふわふわの髪の毛に白い肌にほんのり桜色の頬。大きなサファイアの瞳に小さな鼻やぷっくりした桃色の唇が愛らしい美少女。
体型も華奢でありながら出てるところは出ている。全体的には小柄な分守りたくなる容姿をしている。
そんな彼女。しかし見た目は小動物な彼女はかなりやばい性格をしていた。
まず彼女はパーティのリーダーをしている。パーティは基本四人らしい。リーダーシップもあるし面倒見もいい。見た目に反して強気な性格でハキハキしている。しかも魔法に関してはトップクラスの実力者であり幼くして魔法の腕は国家に使える魔導士を超えるのでは? と噂されていた。
そう……他の人からの評価はべらぼうにいいのである。だが一方で幼馴染のエレンへの扱いが真逆。
エレン自体は別に魔法も使えないし、冒険者になる気もない。親もおらず一人で畑仕事をしたりして自立した生活を送っている。彼自身ものんびり田舎で過ごしたいと思っていた。しかしそれをメリルは許さなかった。
親のいないエレンは自立するまで親と仲良しだったメリルの両親のご厚意により面倒を見てもらっていた。そうなるとやはりメリルとの付き合いは出てくるのだ。
メリルとエレンは同い年。エレンの方は元々一人なのもあり自立心が強く手の掛からない子。
そんなエレンは同い年であり女の子。しかも美少女であるメリルに恋心を抱いていた事もあり面倒を見ていたし優しくしていた。だがそれが良くなかったのである。
メリルは容姿や魔法の才能から周りにチヤホヤされて育った。故に最初は泣き虫で甘えん坊な性格が徐々に歪み、いつしか我儘で傲慢な性格になってしまった。
しかもその矛先が自分の言うことを聞いてくれて怒らないエレンに向いてしまう。
周りからの賛辞を保つためにメリルは周りにはいい顔を、そしてエレンには厳しく接していた。
『エレンは何にもできないじゃない! 私は魔法の才能があるもの。あんたなんか私の足元にも及ばない』
『寧ろ私の幼馴染である事を感謝しなさい!』
『あんたが面倒見てるんじゃないの! 私が面倒もてあげてるの! 勘違いすんな気持ち悪い』
と散々な事を言うように。機嫌が悪いと更に酷い。
エレンが育てた野菜にしても勝手に食べた上に
『ふん。あんたが育てた割にまぁまぁな出来ね。その調子で精々頑張りなさい? まあ私以外に食べてくれる人なんていないでしょうけど?』
と吐き捨てる。因みにエレンは自分の食い扶持と店に売りにいく分を栽培してるわけだが……足りなくなってしまい結局自分の分を売るハメになったとか。
そしてエレンはその大人っぽい性格から社交的だったのだ。だがエレンが少しでも女性と仲良くるとすっ飛んでくるのがメリルだし、何なら道を尋ねられて教えただけなのに……
『この軟派男! 最低! あんたみたいな女好き気持ち悪いのよ!』
と罵られるし他の人と仲良くなると
『私を優先しなさいよ! あんたと仲良くしたい人なんていないのよ!』
と罵る。
するとエレンもそれがストレスになりいつしか暗い性格に、社交的な性格も閉鎖的になる。
これに満足するのはメリルだけである。
そんなメリルは周りの人の勧めで冒険者に。
その才能からすぐに彼女がリーダーとして活動するパーティもS級パーティに昇格した。
しかしその傍に必ず、暗い面持ちをしている荷物持ちの少年がいた。
その少年がエレン。彼は本当に嫌がっていた。魔物と戦う力もないしのんびり過ごしたいと思っていた。だがメリルは……
『あんたは私がいないと何もできないでしょ! 言うこと聞きなさいよ!』
と魔法を使い脅して無理やりパーティに。しかもエレン自身には戦う力がないので荷物持ちや料理番をさせられるハメに。
そんな彼をパーティの他のメンバーは
『役立たず。メリルの幼馴染だからって調子乗ってる』だの。
『こんな奴が幼馴染のメリルが可哀想』と言われたりして馬鹿にされるのだ。
メリルの両親も彼の意向を聞いていてメリルを止めようとしたが癇癪を起こしたメリルの手により魔法で攻撃され、止めることに失敗。
彼女のエレンに対する執着心は凄まじく彼に手を出すものや自分の引き剥がそうとする人には容赦ないのだ。
パーティメンバーの場合はメリル同様にエレンを召使い扱い。口では邪魔だの消えろだのいうが、便利なので逃す気もないしメリルもそれを知ってるし、むしろエレンが暗くなり抵抗しないのでご満悦であった。
しかしそんなエレンに転機が訪れるのである。
「このメリルって女の子こっわ……主人公可哀想……でも良かったぁ……最後はハッピーエンドだし……」
小説を読んだ少女はそんか感想を漏らす。
エレンなのだが途中でメンバー達と依頼をこなすために洞窟へ、その際最強と言われる魔物と遭遇した。メリルの魔法も効かず撤退することに。
しかし……エレンは重い荷物を抱えていることや運動神経が並の少年だったので逃げるのが遅れる。
とうとうエレンは死を覚悟……いや寧ろ早く殺してくれ……。と死を願っていた。この地獄の様な生活から抜け出すために。
しかし目の前の魔物はエレンを襲うどころか顔をぺろぺろ舐めたり頬擦りしたりと懐く様に。ここでエレンには"魔物使い"というレア職業の適性があると判明。
そこからエレンは魔物と共にそのままメリルの前に姿を見せなくなる。そしてエレンの冒険が始まり、次々と美少女やら魔物やらと仲良くなり大所帯。パーティリーダーどころかギルドのマスターにまで上り詰める事になる。
そして……
◇
「っと……あ! そうだお母さんにお使い頼まれてたんだ!」
時間は夕方になり少女は母から頼まれたお使いを思い出しスマホをカバンに入れてすぐ様外に出ていった。
◇
数十分後……
「はぁ……良かったぁ思い出せて……」
少女は卵や牛肉の入ったレジ袋を持って家まで歩く。心の中で出掛けるんなら帰りに買ってこいよと母に文句たらたらだが、具材を見ると今夜はすき焼きの様なので許す事にする。
日曜日の夕方なので遠出していた家族もいた事だろう。車が沢山走っている。少女もまたそれには当然気づいているので信号を守っていた。
だが……交通ルールというのはこちらが守っていても相手が破れば事故に巻き込まれるのだ。
少女は確かに守っていた青信号で歩道を歩いていた。しかし……
「危ない!」
「いやああ!」
「へ?」
少女が歩いていると信号無視していた暴走車が少女目掛けて突っ込んできた。その瞬間少女の体に激痛が走る。
(いた……何で……)
地面に倒れ込んだ少女の体から血がどくどくと出ている。同時に体から熱を奪われる感覚に襲われていく。
少女はこの事故をきっかけにして短い生涯を終えたのであった。
◇
(で……私多分死んだはずよね? どこここ……)
そう短い生涯を終えたのである。そのはずであった。しかし少女の意識は確かにあった。
そして気がつくと……
「オギャアァァア」
とまるで赤子の様に涙がボロボロ溢れて勝手に大声を出してワンワン泣いてしまう。
感情がうまく操作できず焦る少女は改めて周りの様子を確認した。
まず自分なのだが身動きがうまく取れなくて何やらふわふわの毛布で包まれている様な感覚だ。
そんな彼女の顔を覗き込む大人が三人。まず白衣を纏った初老の男性。もう一人が素朴なファンタジーのモブ村人が着る様な服装の男性。
そしてもう一人。彼女を抱っこしている蜂蜜色の髪の毛が特徴的な美女。その瞳はまるでサファイアの如く輝く。
全員知らない人だ。少女は更に頭が混乱しているが三人とも嬉しそうに少女を眺めている。
「おめでとう! "サイラ"……可愛い娘を産んでくれて!」
「うふふ……貴方ったら……」
(娘? どう言う事? それにサイラってどっかで聞いた気がする……)
少女はそんな彼らの会話に耳を傾ける。聞くと女性と村人らしき男性は夫婦である事が判明。しかも自分を娘と呼んでいる。これには少女も目を見開き固まるしかない。
「そうだ……俺たちの娘に可愛い名前をつけてあげよう」
「あらそれなら私考えてあるの」
「ほお? どんな名前だい?」
「"メリル"。"メリル・ローレンス"。貴方のお婆様と同じ名前よ!」
その言葉に少女は頭が真っ白になった。
「あちゃあ俺の婆さんの? 何でまた」
「あらあら。前にも言ったじゃない。彼女は私が怪我した時に助けてくれた恩人よ。しかも百十歳まで生きたご長寿様。そんな方と名前が同じなら丈夫に育つわよ」
と両親と思われる二人はニコニコと会話するが少女はそれどころではない。
(うそでしょ!? "メリル・ローレンス"ってあの幼馴染と同じ名前じゃないのよ! それにサイラってその子のお母さんの名前……まさか私……
小説の世界に転生したって事!?)
こうして少女ことメリルの苦悩は始まったのである。
◇
生まれてから年月が過ぎ、メリルは鏡を見てはため息を吐く。
「うう……蜂蜜色の髪の毛……。この青い目……。ハァ……」
一見すると美少女が自画自賛してる様に見える光景。しかし彼女はまだ十歳いかないぐらいの低年齢である。それに理由もそんないい理由ではない。
「確かメリルって最終的に……」
そう彼女は思い出していたのである。原作メリルの最後を……
メリルはあれから死に物狂いでエレンを探す。それは狂気的なまでに……。
故にパーティメンバー達も彼女の本性を知り離れていく。更に彼女は自分の家族にもエレンを隠したんだと疑い攻撃し、しまいには殺害してしまう。
その後ボロボロになった彼女ら幸運にもエレンを見つけ出してすぐに駆け寄り……
『何で私の元からいなくなるの! そんなの誰も許可してないわよ! 調子乗るな! あんたがいなくなったせいで、私の生活滅茶苦茶よ!』
と捲し立てる。しかしエレンはそんなメリルを突き飛ばして……
『自業自得だろ。二度とその面見せんじゃねーよ』
と冷たく言い放たれる。今まで自分に逆らわなかった彼の言葉にメリルは暴走して魔法を連発。しかしエレンの使役する魔物にすぐに魔法は打ち消されてしまい敗北。その後街中で暴れた事や両親の殺害。エレンと仲良くしていた人に対する傷害罪により逮捕。
その罪の多さから稀代の悪女として名を馳せ死刑に処されるという壮絶な最後を迎えるのだ。
「そんなの嫌よ! わ……私は普通の女子高生なのに……うう……」
と落ち込むメリル。すると自室のドアをノックする音。入ってきたのは母のサイラである。
「メリル。紹介したい子がいるの」
と。これにメリルは盛大に顔を引き攣らせた。予想通りならここでエレンが登場するのである。しかし怪しまれるとめんどくさいのでついていく事に……。
◇
「……エレン・クーリッジです。よろしく」
「メリルです……(うわぁ……等々来ちまった……)」
現れたのは原作主人公エレンである。これにメリルは落ち込んだ。予定通りなら自分はざまぁされるのだと。
「エレン君はお父さんの友達のお子さんなの。仲良くしてあげてね。今日から家族なんだから」
「……うん……」
とメリルは白目を剥きながら生返事を行うのが精一杯だった。
◇
メリルは考えた。考えた末に考えたのはひたすらエレンと距離をとる事なのだと。
挨拶はするし食事したりするが基本的に遊んだりとかしない。
(だってざまぁ怖いもん)
メリルはげっそりした顔で畑のお手伝いをしていた。メリルの父は農家をしている。
原作メリルは土に汚れるのも嫌がるし農家をダサいと考えていて父を煙たがり手伝いなんてしてなかったが、今のメリルはというと何もしないと余計なことを考えるからと進んでお手伝いするいい子である。土に汚れるのも抵抗はない。
しかし転生して悪いことばかりではないのだ。見たことのない植物や動物もそうだが何より嬉しかったのが自分が魔法を使えたことである。
今もメリルは魔法を使用している。
青い魔法陣が宙に浮きまるでスプリンクラーの様に水が噴出して畑を潤していく。
これに父は大喜び。今世の家族もとても優してメリルは恩返ししようとしていた。
何より原作メリルの態度に苛立っていたし、家族を傷つけるのではなく笑顔にするためにメリルは魔法を使うのだ。
「ふぅ……こんなものかしら……ん?」
魔法を解いてメリルは汗を拭う。魔法には体力を使うのだ。そんなメリルはあるものに目がいった。
そこにらエレンがいたが何故か座り込んで動かない。エレンは真面目な少年でありサボりなんかしないそんな子である。それを知っているメリルは流石にやばいのではとすぐに彼の元へ赴いた。
◇
「いた……」
エレンは足を怪我していた。先程鍬で畑を耕していたがその際に転んでしまった様である。
しかし心配かけさせまいと誰も呼ぶことができず座り込むエレン。そんな彼の元へ……
「エレン! 大丈夫?」
「メリル?」
そこに来たのはメリルである。心から心配してるというのが分かる焦った顔。彼女はすぐにエレンの傷を見つけて……
「"ヒール"」
傷口手をかざした。すると彼女の小さな手からほわんと暖かい光が灯りエレンの傷が治っていく。
「これでよしと……」
「えとありがとう」
「どういたしまして。それよりちゃんと助けを呼んでよ。無理しちゃだめだよ」
「うん……」
エレンはメリルに申し訳なさそうな顔をしている。何せメリルはエレンと距離を置いていた。故に嫌われていたと思っていたのである。
「メリルって俺のこと嫌いじゃなかったの?」
「え? あ……うーんとごめんね。別に嫌いって訳じゃなくてね? その……同年代の男の子ってどう接していいか分からなくて」
流石にざまぁが怖いなんて言えないメリル。
しかしそんな嘘もエレンは納得した様だ。
「そっかぁ……だよね。俺も女の子にどう接していいか分からなくて」
「あははだよね?」
「うん。あのさメリル。これからは俺とも仲良くしてくれる?」
「え? う……うんもちろん」
エレンの純粋な瞳にメリルはたじたじになりながら了承した。これにエレンは歓喜。
「本当! 良かったぁ……へへ。メリルって優しい子なんだな! 今度魔法見せてよ! 俺メリルの魔法。優しくて大好きなんだ!」
「……ふふ。そっか……うん! エレンが笑顔になれる魔法。沢山見せてあげるね!」
エレンの素直で純粋な言葉。メリルも絆されていき、笑みを浮かべた。弟ができたみたいで可愛くなってきた様である。
(そうよね。そもそも嗚呼なったのはメリルの自業自得だもん。同じことしなければいい。いやてか……)
メリルはじっとニコニコと笑うエレンを見て
(こんな純粋で可愛いくて健気な子にあんな態度取れない! 一応メリルはエレンのこと好きって設定だけど納得できないわ!
大丈夫よエレン! 私が幸せにしてあげるから!)
「エレン! 困ったことがあったら私に頼って! あと私が変なこと言い出したり貴方を傷つけそうになったら縛って納屋に放り込みなさい!」
「ええ……?そんなことできないよぉ……」
こうしてメリルのざまぁ回避&可愛い弟分ハッピーライフ作戦がスタートしたのである。
◇
そして数年後。原作メリルがざまぁされるぐらいの年頃。
メリルは冒険者ではなくエレンと田舎でのんびり過ごしていた。
「わぁすごいなぁメリル。土人形が手伝ってくれてる! 可愛いなぁ」
「でしょ? ふふふ。新しく開発した魔法よ」
とメリルは次々と魔法を開発していった。
その内容も原作メリルならばエレンを脅したり人を傷つけるために使っていた魔法を完全を違う方向に使い始めた。怪我している人をみれば治してあげて、畑を豊かにしてくれる。その容姿もあり人々は彼女を、まるで女神の様だと褒めちぎっていた。
しかもそれだけではなく。
「お! スラスラ。トマトの収穫ご苦労様」
何やらエレンの前に水色のゼリーの様な球体が数匹集まっていた。彼らは魔物のスライムである。
メリルはエレンに助言したのだ。魔物の力を借りればよりスムーズに仕事できると。
最初は抵抗していたエレンだが矢張り原作同様魔物使いの才能を持っていてすぐに魔物達を味方に引き入れて今では大事な家族になっている。
あれからメリルはエレンと距離を縮めたのだ。親がいなくて寂しがるエレンの手を握り
『そばにいるから』
と優しく語りかけたり、
『エレンは凄いよ。優しくて強い子だと思う。けど困ったら私には相談してよね』
とかともかく甘やかしたのである。
エレンはスクスク成長していき原作ではあんなに暗く成長したのに今では明るくて社交的なまま成長を遂げたのである。
そんなエレンはメリルを大切に思っていてメリルが重たいものをもっていれば代わりに持ってくれるし、容姿のせいで変な男に絡まれてると助けてくれる。
そんな彼は確かに平凡な顔立ち。しかしそんな紳士的な態度や性格にメリルは少しずつ一人の男性として意識する様になる。
(けどなぁ……私とくっついて幸せになれるかしら? 一応これでも私は……あのメリルだし)
と半ば諦めている。
そんな彼女にエレンは首を傾げるが、同じく畑仕事している両親がやってきて
「あらあら今日も仲良しねぇ」
「本当だなぁ。エレンならメリルを任せられるんだけどなぁ」
と何度目かの茶々を入れられる。
これにメリルはまたかと呆れ顔。原作メリルの場合はこの年に到達するとそれは言われなくなるが、幼少時同じことを言われて……
『誰がこんな奴と! まぁ……エレンがそんなに私といたいなら召使いにしてやってもいいけど』
と言い出していた。真っ赤な顔で。ツンデレなんて言葉が可愛く見える酷い言葉である。
それから原作メリルは二度とこの話題を出されなくなったのである。
(私はエレンを召使いにしたくないし、幸せになってほしいし。エレンが本当に好きな子と結婚してくれたら嬉しい)
そう考えていた。そんなメリルは横から視線を感じ始めた。そちらを向くと何やらメリルを熱く見つめるエレンが。
「どうしたの? エレン」
話しかけるとエレンは真っ赤になりながら……
「本当に俺に任せてくれないかな。メリルの人生……」
そう静かに言い出した。これにメリルはポカーンと口を開けて固まった。
「ずっと好きだった。優しくて寄り添ってくれるメリルが俺は大好きだ! だから……メリル! お前を幸せにして見せるから俺にお前の人生を預けてくれないかな!」
お願いします! そう言って頭を下げて手を差し出すエレンにメリルは数秒固まるがすぐに沸騰した様に顔を真っ赤にさせて湯気を出し始めた。
「え……ええ! う……嘘? 本当に私でいいの?」
「いいに決まってる! とういうかメリル以外考えられない!」
「そ……そんなぁ……」
両親に助けを求めようとするが両親は完全な破顔していてニヤニヤしている。
「お願いします!」
そしてしつこく手を差し出すエレン。逃げ場はない。
それを悟ったメリルは自分の気持ちに正直になる事にした。
「ねぇエレン。もし私が本当のメリルじゃなかったらどうする? ほら例えば本当に生まれるはずの魂じゃなくて別の魂が乗り移って生まれたのが私……みたいな」
「……それでも俺と過ごしたのは君なんだろ? 俺は一緒に過ごした君が好きなんだ。
君は君。俺が好きになったのは君なんだ。それに間違いはないよ」
と顔をあげて真剣な顔をするエレン。そんなエレンの言葉にメリルは何処か安心していた。
メリルとして生まれたからこそ原作メリルの事を意識していた。だが彼の言葉に何処か吹っ切れてしまった。自分は自分なのだと。
そうなれば心はもう決まっていると。
メリルはエレンの手を握った。そしてふにゃあと笑い。
「うん。よろしくねエレン」
と
その意味を理解したエレンはわなわなと震えて涙目になりメリルを抱きしめた。両親も大歓喜である。
(ごめんねメリル。アンタの幼馴染私が貰っちゃった。
……本当アンタには勿体無いわよ。安心してよ。私がアンタの分までエレンと幸せになるし愛し合って見せるから)
とどこに行ったか分からない本当にメリルの魂に嫌味を心の中で呟きながらメリルは抱きしめてくれるエレンの温もりに甘えていた。
◇
それから二人はお付き合いを行い数年後結婚。子宝にも恵まれて彼らは幸せな人生を歩む事になったのである。
「ま。こんなハッピーエンドでもいいよね」
「ママぁ? 何の話?」
「ん? 何でもないわよ。それよりお友達に意地悪しちゃダメよ。
自分がしたことは必ず返ってくるの。優しくしてあげてね?」
「? うん。分かった」
なんてこの世界ではメリルしか知らない物語はそのまま闇の中に葬られていき、メリルは今の幸せを噛み締めるのであった。
今回の作品を機に諸事情により小説投稿を無期限でお休みしたいと思っています。また今後仮に投稿する際。もしかしたらなろうではない投稿サイト一本で投稿する可能性があります。
今後感想を頂いても返信できないこと。また、リクエストの受付も致しません事をご了承して下さるとありがたいです。申し訳ございません。