蠍の星-4
セレナが海底へと戻ると、ソロはいつものように巨大な岩を持ち上げる鍛錬をしていた。
「遅かったな?」
「ええと……」
何を見たか答えられず、セレナは返答に迷った。
「おい!」
「きゃっ!」
突然肩を叩かれて後ずさった。ソロは訝し気にセレナの顔を覗き込む。
「どうしたんだ? いつも以上にボンヤリしてるぜ」
ソロの横で、アリアも心配そうにこちらを見ていた。
「ちょっと疲れていたのかも。ごめんなさい」
「まあ」
「セレナらしいな」
二人は朗らかに笑ったが、すぐに真剣な眼差しに変わる。
「本題だ。ティフに盗賊がいるって話は間違いねえみたいだ。詳しくはアリアが話す」
代わるようにアリアが前へと出た。
「ハルから事情を聞いてまいりましたわ。盗賊はティフと手を組んで、ヴィアベルに反旗を翻しているようです」
アリアは続ける。
「ヴィアベルは食料供給の大半をティフに依存しています。ですが、盗賊が島の人々を脅して都市部への食料の供給を止めたのです。となれば、そう遠くない内に都市部では食糧難が起こるでしょう。これまでのティフの扱いに不満を持っていた島の人たちが盗賊たち支援しているという話も……両者が衝突したらどちらもただでは済みません」
「そう…………」
セレナが橋で見た光景の全てに説明がついたが、そう簡単に受け止められるものではない。
盗賊団ザーダ。シャウラはその先頭に立っていた。
「セレナ、シャウラさんと会うなら国外に退避するよう勧めた方が良いかもしれませんわ」
「というか、そいつが盗賊の一味なんじゃねーの」
「ソロ、そういう冗談はやめなさい」
ソロが悪戯っぽく言うのを、アリアがぴしゃりと叱りつけた。
「ふふ、相変わらずね」
全て話してしまいたいという気持ちを飲み込み、セレナは寝床へと向かった。
セレナの寝床は他の姉妹たちのとは離れた岩影にある。寝床が近づくにつれ、海の色が層のように深く、暗い色へと移ろう。岩や貝を加工して作ったベッドに座り込んで、大きな溜息をついた。
(このままだと、ハルもシャウラも傷つくことになる)
妹のハル――セレナは、社交的で誰とでもすぐに仲良くなれるハルのことは少し苦手だ。
自分はハルのようになれないと妬むことすらあった。それでも、ハルは人間になりたいという夢を叶える為に努力していたことを知っている。人間になってからとても楽しそうだとアリアから聞いていた。ハルにはずっと、ハルが望むように生きていてほしい。
(シャウラ――あたしの一番大切な人)
シャウラの笑顔を思い出して、頬が熱くなる。
(貴方が話をしている横顔を見るのが大好き。あたしの話を「楽しい」と笑って聞いてくれた。陸の話もたくさん聞かせてくれた。あの笑顔が、たまに見せる悲しげな顔が、嘘だとは思いたくない)
「あたしに……できることはないのかしら」