艶が散る
学生時代から長く使用しているお気に入りの青いくし。
マリコにとって手入れを続けている黒髪の艶を守るのに、そのくしは必要不可欠な物だ。
解いた後に髪にかかる天使の輪がそれは見事で、本当の天使のようだと絶賛されるくらいに綺麗に艶々しい。
(歳をとってもこの艶が生き続けますように)
毎日鏡を見るのが楽しくて仕方がない。
顔立ちこそは平凡だが長い黒髪の美しさは最高級なので、過去に出場した髪美人コンテストではグランプリに輝く程、質が良い。
(このくしは、私の宝物だわ。
出来るなら、生まれ変わっても同じこのくしを使いたい……!)
ーソロソロ、コロアイカー
ある日、マリコは恋人を自宅に連れてきた。
「適当にくつろいでて。
ちょっと、着替えてくるわね」
「お邪魔するね。
へええ……綺麗な小物を揃えてるんだね」
「ちょっとした物を集めるの好きなの」
自室で着替えるマリコは、何気なしに愛用しているくしを手にする。
乱れた髪にくしを通した。
「今度お揃いの記念の品、買いに行こうか?」
「嬉しい!
交際してもうすぐ一年よね♪
身に付ける物が良いわ」
「おお……良いねえ!」
二人の盛り上がる会話が、部屋に響く。
楽しそうな声があまりにも弾んでいて、ふつふつと熱い念が込み上げてきた。
ーユルサナイ……オレトイウモノガアリナガラ……ー
[ブチイイイイ……ッ!]
(え……?)
くしに絡んだ大量の黒髪。
「え?
なんで……?」
くしを持つ手が更に髪を解いていく。
そしてマリコの美しい黒髪が、散っていく。
ーウツクシイカミヲスベテウバッテ、ミニクイスガタニシテヤル!ー
「いやああああ!」
隣の部屋からマリコの悲鳴が聞こえ、彼氏が急いで飛び込んできた。
「どうしたんだ⁉」
ーソノミニクイアタマヲミラレテ、フラレテシマエ!ー
「髪……髪があ!
私の……髪……!」
彼氏が見たのは髪が全て抜けてしまい、泣きじゃくるマリコの姿。
マリコは泣き崩れ、絶望を露にしている。
ーワタシガイナガラウワキヲスルカラダ!
オトコヨ、コンナアタマノオンナナンカヲ、アイスルナドデキナイダロウ!ー
彼氏はマリコに歩み寄り、優しく抱き締めて囁いた。
「僕がマリコさんの全てを守るよ。
僕だけは、離れない」
抱き締める力が強くなり、互いの絆を心で繋げた。
ー……ー
「愛しているよ」
「私も……愛してる」
艶を奪われたが、マリコと恋人との愛に満ちた絆は消えはしない。