太陽と風
ピンポーン・・・・
玄関のチャイムが鳴った瞬間、碧の顔が曇ったのが一目で分かった。
母さんも、それに気が付いたようだ。
母さんはいつも呑気な人のように見えるが、
頭はいいし、感も鋭く結構したたかな人だ。
「裕真、母さんが出るから碧ちゃんをお願いね」
さきほどまでとは違い、少し冷たい声だった。
俺もあまり聞いたことの無い声・・・
碧の顔は血の気が引き、真っ青だった。
「碧、大丈夫だよ。」
俺は、碧を抱きしめていた。
碧をここまで、怯えさせる正体は・・・・
やはり、綾さんだった。
玄関で、母さんと綾さんが話している間
碧はずっと俺の腕の中で震えていた・・・・
俺は、今何を思っているのだろう・・・
この気持ちはいったい何なのだろう。
怒りとか、悔しさ、自分の無力さが腹立たしかった。
玄関のドアが閉まったのが分かった。
母さんが戻ってきた。
「もう、帰っちゃったわよ。こらこら、裕真。
そんなに強くしちゃダメよ。碧ちゃんがつぶれちゃうじゃない」
母さんの口調はいつも通りに戻っていた。
俺はパッと腕を離した。
碧は、小さな身体をさらに小さくして泣いていた。
「碧、大丈夫だよ。ほら、もう帰ったから」
俺は、碧の頭を優しく撫でた。
俺は、こんな事しかできない・・・・
もっと力がほしい。碧を守れるだけの力がほしかった・・・
「裕真、コーヒー入れてきて!
あ、碧ちゃんはココアのほうが良いかしら?」
母さんは、ニコニコしながら碧の顔をのぞき込んだ。
碧は首を振るだけで、何も言葉を発しなかった。
俺は、コーヒー二つとココアをつくった。
ため息しか出ない・・・・
何が守ってやるなんだ。何が大丈夫なんだ。
結局、碧が泣いている。俺の腕の中で・・・・
部屋に戻ると、碧は泣きやんでいた。
母さんが碧の背中を撫ででいた。
「あぁ~、ココアが来たよ。」
母さんがこっちを見て笑った。
碧もこっちを見て・・・力なく笑った。