乱戦(十)
五日目、AM12:41。
「質量攻撃は、基本」
「いってないで、さっさと追撃!」
箒に乗った緑川と仙崎は、そんなやり取りをしている。
「攻撃はガンナーのお仕事」
「今回の敵は一体だけなんだから、パイロットも暇でしょ!」
いいながらも二人はステッキを取り出して、最大火力の魔法攻撃を敢行する。
雷と炎が上空から伸びて、巨大モンスターを襲う。
最初に倉庫に放置していた土砂を降らせたため粉塵などが周囲に舞って視界が悪く、効果までは確認出来ない。
しかし、もうもうと煙る下界からは、なんともいえない吠え声が響いている。
五日目、AM12:43。
「効果は、あったようですね」
筑地副会長はいった。
「視界は悪いですが、こちらからも攻撃をしましょう」
周囲には巨大モンスターの咆吼が響き渡っている。
上空からの攻撃は、どうやらなんらかのダメージを与えることに成功したようだ。
吠え声は、明らかに怒気の成分を含んでいた。
と。
無音のまま、周辺に舞った土埃が、直線状に消失した。
直線状に消失した土埃は、次第に数を増やしている。
「あれは」
筑地副会長は、目を細めた。
「狙撃手の、無属性魔法攻撃、ですか」
その攻撃は効果があるようで、土埃の中に直線状の空白が現れる度に、巨大モンスターの咆吼が大きくなる。
土埃の向こうで、火炎やら雷やらが盛大にあがっている。
魔法少女隊の面々も、行動を開始したようだ。
「よ」
坂又は自分の倉庫から筒状の物体を取り出し、それを自分の肩に乗せて、切っ先を巨大モンスターに向けた。
「それは?」
「対戦車用ミサイル」
筑地副会長の問いかけに答えながら、坂又はその火器を発射した。
「この距離でこの的のデカさなら、外すことはまずないな」
「浄化!
浄化!」
結城紬が、また叫んでいる。
「この瘴気、あのモンスターを構成する一部のようです!
瘴気を費やして、巨大モンスターが破損した体を再構成する気配がします!」
「あの体が、本体なのではなりませんか?」
筑地副会長は険しい顔つきになり、結城紬に確認する。
「あの体も、本体です!
というより、あの瘴気、霊体?
とにかく、非物質的な属性と物理的な属性、両方が渾然となったモンスター、のようです!」
「体の方を始末するだけでは駄目なのですか?」
「瘴気を放置しておけば、また復活します!
損傷の度合いによって、時間はかかるのでしょうけど!」
厄介な。
と、筑地副会長は思う。
「瘴気を浄化できるのは、あなたしか居ないのですか?」
「他にいるのかも知れませんが、わたしにはその所在がわかりません!
プロテクト!」
筑地副会長めがけて振り下ろされた巨大な拳を、結城紬が張ったプロテクト結界が阻む。
「浄化のことはあとで考えましょう!」
彼方が盾で巨大モンスターの攻撃をいなしながら、叫んだ。
「物理的な体の方を潰せば、時間稼ぎにはなるでしょうから!」
巨大モンスターは、当初の無関心振りをかなぐり捨てて、完全に攻勢モードに入っていた。
結城紬のプロテクトと彼方の盾がフル活動して、どうにかその攻撃を防いでいる。
この二人は、全プレイヤー中でも一、二を争う高レベル者なのだ。
「タンクはこの二人に任せて、あとは攻撃に専念しろ!」
巨大モンスターの腕に剣を振りおろしながら、坂又が叫んだ。
「やらないと、やられる!
どうせやることはいっしょだ!」
初撃の時に発生した土煙が徐々に晴れてきて、巨大モンスターの被害状況が目視で確認出来るようになった。
背中の翼は両方とも途中で折れ、右肩と背中に大穴が空き、そこからどす黒い瘴気をもうもうと発生している。
いや、周囲に漂う瘴気の濃度を濃くしつつ、体内に吸い込んで負傷した部分を修復している最中、なのかも知れないが。
顔にも、いくかの穴が空いて黒い煙を吐いていた。
その首部分に、またも太い直線が発生する。
うっすらと漂う瘴気ごと、巨大モンスターの体を傷つける無属性魔法攻撃。
「はい!」
その背後に発生した人影が、両手に持ったナイフで何度も巨大モンスターのうなじに斬りつけた。
そこから瘴気が発生して、巨大モンスターがまた吠える。
羽虫でも払うように巨大モンスターの腕が、うなじに伸びる。
しかし、その時はもう、その人影は移動している。
「脊椎まで、確かに切断したんだけどね」
いつの間にか近くまで移動していた人影、遥が、その場に居る全員に伝える。
「見ての通り、ピンピンしている。
あれは、通常の生物だと思わない方がいい、みたい」
「だが、破損した部分を修復するまで、多少の時間は稼げる」
坂又が指摘した。
「根本的な対策はあとに考えるとして、まずは全員で攻撃し続けるしかいな。
下手に手を緩めたら、こちらがやられる」
「だね」
遥も、その言葉に頷いた。
「聖属性の武器とか、ありませんか?」
結城ただしが、筑地副会長に確認する。
「ゲームだと、そういうのが用意されているものなのですが」
「そんな都合のいいものなど……」
と、筑地副会長がいいかけた時、
「付与術士!」
「付与術士!」
「付与術士!」
筑地副会長と、吉良と面識がない遥を除いた全員が、そう叫ぶ。
五日目、AM12:47。
「え?
属性の付与、ですか?」
中央広場から少し離れた建物の中、吉良は筑地副会長の通信にそう返している。
「ちょっと待ってください。
わたしもまだ、全ての項目をチェックしているわけではないんで。
あ。
ありました、属性付与。
ええと、瘴気を払う、あるいは、聖なる属性、ですか。
ああ、可能ですねえ。
清浄化付与、というのが、メニューにあります。
はい。
これを、モンスターに攻撃する全プレイヤーにかけておけばいいんですか?
はい、はい。
あ、こっちでもやれますんで、皆さんはそのまま戦っていてください。
この程度の距離なら、付与術、十分に届きますので」
五日目、AM12:49。
「ふん」
新城はHEATハンマー改を巨大モンスターの脇腹に振りおろす。
咆吼が響いたあと、巨大な腕が新城の体を潰すように降ってくるが、新城はそこから退いて、その腕にもハンマーを振りおろした。
巨大モンスターの動きも十分に素早かったが、殺気の籠もったトロール型ほどの鋭さはない。
来るとわかっている攻撃を避けることは、今の新城には容易な仕事だった。
「あ、はい。
このまま、好きに攻撃し続ければいいんですね?
火は、浄化ほどではないにせよ、瘴気を払う性質がある、と」
通信でやるべきことを確認しつつ、新城はハンマーを振るう。
相手が巨大である分、攻撃する場所を狙う必要がない。
適当に攻撃していても相応にダメージを与えられるのなら、これは、新城にとって単純肉体労働と変わらないのだった。
五日目、AM12:51。
「あ、来た」
道を歩く人影を認め、吉良は立ちあがり、勢いよく腕を振る。
「こっちだよー、左内くん!」
吉良が呼びかけた人物の周囲には、無数のモンスターがひしめいている。
いや、かつてモンスターと呼ばれ、今は左内の召喚獣となったモノたちが。
「足の速い子だけでも、先にいかせた方がいいですか?」
左内は、吉良に確認した。
「ああ、そうだね」
吉良もその言葉に頷く。
「向こうにも、この子たちは味方だって連絡入れておくよ」
「しかし、半ば瘴気で出来たモンスター、ですか」
左内は呟いた。
「この子たちの胃袋に入った分は、どうなるんでしょうかね?




