乱戦(三)
五日目、AM11:56。
「そっちそっちぃー」
「よく狙って撃てし」
察知持ちのプレイヤーは、割合は少ない者の各所に存在している。
たとえばここ、Sソードマン率いる一団でも、少し前に斥候に転職させた者が多かった。
そのまま別の職に変える機会もないまま、ここまで来た者も少なくはない。
そのおかげで、ステルス状態のレッサーデーモンに気づくのが、他のパーティよりもほんの少し早かった。
「もうまとめて焼いちゃう?」
「マップでは、他のプレイヤーはいない、ようだけど」
「でもなー。
モンスターの密度も薄いから、範囲攻撃も効率悪いような」
「結局、居そうな場所に片っ端から鉄砲撃ち込むのが一番かー」
「うちら、なんだかんだでレベルがあがってっからさー。
適当にやっててもそれなりの結果出るんだよねー」
緊迫感がないが、その内容に偽りはない。
彼女らは二日目まで女子寮チーム(仮)でレベル二十まであげ、その後、Sソードマンに流れ着いた者たちだった。
今のレベルは、全員四十台後半で、中には五十に迫っている者も居る。
特に今日は取得ポイントが多いモンスターが多く、全員がそれなりの成果をあげて順調な成果を出していた。
もう少し静かにやれないものか、と、Sソードマンのリーダー、奥村などは思う。
「ほらリーダー、ちゃんと鉄砲構えて」
「ぼうっとしてないで」
「うちらガーゴイルの時は出遅れてるんだから、ここいらで挽回せんと」
騒がしい、だけではなく、なんとなく、主導権まで奪われている気がする。
「おれは、剣士だぞ」
奥村は抵抗した。
「そんな銃など」
「剣士、遠距離攻撃の技ないから、仕方がねーし」
「ジョブなんて方便なんだから、その場で便利なやつ選べばいいだけだし」
「今は斥候で、銃使うのが最適だし」
「ユニークジョブでもないくせに、特定のジョブに拘りすぎるの意味ねーし」
「ねー!」
「ねー!」
「ねー!」
女子生徒たちの声が重なる。
彼女たちも、彼女たちなりに考えて、最善のプレイスタイルを選択しているのだった。
「はいはい、今、バフかけましたからねー」
「愛しているよ吉良ちゃーん」
「辞めないでー」
「いっそのこと、リーダー追い出してうちらだけで組もうよー」
やかましいのは変わらないが、そうしている間にも彼女たちは軽機関銃を構え、見えないモンスターが居そうな場所に銃撃をしている。
「これ、軽くて反動も少なくて、扱いやすいー」
「オタクくん、初心者でも扱いやすい機種だっていってたもんねー」
「でも、弾丸の減り方、エグくない?
すぐカートリッジ、空になるんだけど」
「弾幕ってえの。
こっちが撃っている間、相手も近寄れないんだから、そこはケチらない」
「そうそう。
どうせ経費はパーティ持ちなんだし、あの見えないの、一体倒すと200万相当だし」
「十分元取れるんだから、さっさと倒すし」
なんだかんだで、積極的ではある。
ただ、必要となる作戦や知識など、彼女らは自分で考えず、周囲の人間に頼る癖があった。
そして、こういう賑やかなノリを好まない吉良明梨が、このパーティを離脱する決心をした一因でもある。
『ぴんぽんぱんぽーん。
突然ですが、生徒会からお知らせがあります。
まずはこちらの証言をお聞きください』
『前提条件として、やつらは生物です。
ガーゴイルのような生物かどうかわからない代物でも、伝説上の悪魔でもありません。
おれたちのスキルのような、ちょっと特殊な能力を持っているだけの生物です。
現に今も、姿を消した状態でおれを襲おうとしたモンスターを返り討ちにしたばかりです。
おれの倉庫に、その証拠が残っています。
やつらは少なくとも、ステルス状態になることが出来ます。
その他にも、スキルに似た能力を使えるかも知れません』
「おお!」
「確かに」
「賢い」
Sソードマンの女子たちは、生徒会の通知を聞き終えたあと、それぞれに感想を述べる。
「一度、カメラを通すわけか」
「確かに認識阻害とかのスキル、機械には効かなそうだし」
「うーん。
でもどうだろ。
察知のスキル頼るのと、手間とかはあんまり変わらなくね?」
「察知スキルなしでも、敵の居場所が追えるってのは、メリットじゃね?」
「よくそんなこと気づくよなあ。
いわれてみりゃ、納得は出来るんだけど」
「ねー。
自分で気づけっていわれても、難しいっつぅか」
「馬酔木だ」
奥村はぼそりと呟く。
「馬酔木恭介の声だった」
「あせび?」
「リーダー。
知っている子?」
「知り合いっていえば、知り合いだが。
今は、ちょっとな。
こっちからは、関われないことになっている」
「なにそれ」
「なんかトラブっている感じ?」
「でもまあ、そういうことに気づくってことは、地頭がいい子、なんだろうな」
「あ」
女子の一人が、自分のシステム画面を見てあることに気づいた。
「どっかで見たあると思ったら。
ランキングで見たことがある名前だった」
「へー。
馬酔木って書いて、あせびって読むんかあ」
「変わった名字。
ってか、こんな字見ても、あせびって読めない」
「で、どうする?
生徒会推奨の方法、ライブ映像使ってみる?」
「いや、そこは両方でしょ」
「だよね-。
別にどっちかに執着しないりゃいけない、ってもんでもないし」
「使えるもんはなんでも使って、効率的にポイント稼いでいこう」
「おー!」
「おー!」
「おー!」
五日目、AM12:06。
「ねーちゃーん!
ぼちぼち銃撃はじめるから、中央広場から離れてくれー!」
彼方が中央広場に呼びかけると、
「ほいよー!」
と、どこか遠くから、遥の声が返ってくる。
高レベルの忍者で遥が本気で姿を隠したら、彼方では到底見つけることが出来ない。
こうして、直接声を変えて意思を伝達するのが、一番早いのだった。
「それでは、これより銃撃戦に移ります」
彼方は背後に待機していたプレイヤーに振り返って、そう告げた。
「今回は、アサルトライフルを使うことになりますね。
今まで使ってきた銃器と比較すると、かなり扱いやすいかと思います。
三点バーストっていって、一回引き金を引くと三発の弾丸が発射される設定にしています。
獲物との距離も極端に離れているわけでもないので、リラックスして狙いをつけてください」
これまでは、ステルス状態の敵を見つけるには察知のスキルが必要とされていて、その察知のスキルを持っているプレイヤーは少なかった。
ドローンなど、機械的な目でそうしたステルス状態の敵を見つける、という方法は、その状況を改善するのにかなりの効果がある。
このおかげで、プレイヤー全体の処理効率が、劇的に改善されるはずだった。
「焦る必要はないので、ゆっくりと慎重に、狙いをつけてください」
彼方は全員に、注意を喚起した。
どりあえずこちらは、中央広場にいるモンスターをどうにかすればいいや。
と、彼方は気軽に考えている。
あまりこちらばかりでモンスターを独占するのも、問題なのだ。
あとで、他のプレイヤーに疎まれかねない。
なんだかんだで、この聖堂組も全員、レベル五十を超えている。
中には、六十を超えて七十に迫っている者も居る。
全プレイヤーの中でも低レベル帯のプレイヤーを集めた出発点から比較すれば、十分な成果はすでに出している、ともいえる。
結局このポイントは、モンスターが湧く中央広場目前で、濃度の濃い討伐を続けて来たからこそ出せた成果、なのであるが。
とにかく、あとはこちらが直接被害を受けるような状態にならない限り、適当に流しておいても問題がない。
むしろ、他のプレイヤーのためにも、「いい具合に手を抜く」くらいでちょうどいい。
この時点での彼方は、かなり気楽に構えている。




