朝の集合
酔狂連の拠点を出て、再び車に乗り込む。
来た時と同じく、緑川と仙崎は箒による飛行移動だった。
ただその箒も、三和に手ずから調整して貰ったおかげで、拠点を出来た時よりもぐっと安定性が増している、といっていた。
三和には他にも、譲って貰ったアイテムにいくつかの手を加えて貰っていた。
他愛のない、ちょいとした改良なのだが、恭介らがやるのと三和が手がけるのとでは、効率がまるで違う。
スクルを使うため、作業時間も、ほとんどあっという間だった。
要望を聞いて、その場で手を加え、完成させる形だ。
三和は固辞したが、その分の手数料も多めに渡しておいた。
今後も世話になりそうな相手であったし、こんなことで引け目を作るのも馬鹿馬鹿しい。
トライデントも魔法少女隊も、ポイントは余り気味であり、ポイントを支払うことで解決する問題なら、出来るだけ支払って済ませる方針だった。
市街地の中心部に近づくにつれ、人の姿を見かける頻度が増えてきた。
恭介たちが乗る自家用車が珍しいのか、皆、目を丸くしてこちらを見返している。
大半のプレイヤーたちにとっては、車など、まだまだ高価すぎて手が出ない状態なのだろうな。
と、恭介は推測する。
単に、こちらの世界では見かける機会がないので、物珍しかっただけかも知れないが。
市街中心部の円形広場に出ると、五人は車を降りて、赤瀬はそれまで乗っていた車を倉庫の中に収納する。
そして、五人で連れ立って、生徒会執務室がある大きな建物へと向かった。
だいぶ、人目を集めている気がする。
と、恭介は思う。
まだ朝早い時間であったが、広場には、かなりの人数が行き交っていた。
大半は、制服か学校指定のジャージ姿で、つまりはその服装がマーケット内で安価に売られているので、普段着として使っている者が多いのだろう。
たまに個性的な格好をしている者もみかけたが、そのほとんどが武装した者だった。
こちらは、戦闘職で、普段からそうした格好をしているのだと、容易に推測がつく。
対して五人の姿は、カラフルなつなぎのジャンプスーツの上にマント様の黒衣を纏っている者が二名、カーゴパンツにTシャツ、ジャケット姿の男子が二名、陸上部のセパレートユニフォームの上に、制服の上着を羽織った者一名。
この組み合わせは、かなり目立つらしい。
五人は構わず、生徒会執務室のある建物に入る。
巨大で分厚い扉は、これまでは閉まっていたはずだが、今は開け放たれて多くの人々が好きに出入りしていた。
そのまま中に入ると、かなり広く天井が高いフロアにある。
普段はがらんとしていたそこは、今では多くの人が居て、あちこちに数名ずつ集まってなにやら相談している様子だった。
「ああ、どうも。
ご無沙汰しております」
目聡くこちらの姿を見つけ、制服姿の女子がこちらに近寄り、声をかけてくれる。
「お早いおつきですね。
まだ全員集まっていませんが、会長と到着した皆さんはあちらにいらっしゃいます」
と、フロアの片隅を示す。
ユニークジョブ聖女の、結城紬だった。
先日、殲滅戦を演じてダントツ一位のプレイヤーになったはずだが、態度は以前とまったく変わらない。
そのジョブに相応しく、増長などとは無縁の正確なのだろう。
軽く挨拶を交わしたあと、五人は結城紬に案内された場所へと向かう。
ここで、メンバーのレベルが上位に相当する戦闘職パーティが集められ、生徒会と含めて今日の対策を相談する、という。
先日の生徒会総会のようなものだが、今回はメンバーを絞っており、まあ、実質的には、作戦会議になるのだろう。
恭介たちが受け取った警告は当然、他のプレイヤーたちにも共有されているわけであり、各自の判断でバラバラに動くよりは、事前になんらかの申し合わせをしておいた方がいい。
トライデントと魔法少女隊がこの手の会合に参加するのは、これがはじめてだった。
「おお、来た来た」
その一画に近づくと、親しげに声をかけてきた男子が居た。
「トライデントと魔法少女隊、ナンバーワンとナンバーツーパティのお出ましだ」
その声に反応してか、周囲の人間の注意がこちらに集中する。
「やあ、どうも」
これ、おれが相手をするの?
内心でそんなことを思いつつ、恭介が答える。
「その、ナンバーワンとナンバーツーです。
失礼ですが、あなたは?」
「ああ、すまん。
坂又どすこいズの坂又という」
体格のいい男子はそういって、軽く一礼をした。
「あんた方は初日以来、姿を見せなかったから。
こっちでは、いろいろな憶測を生んでいるんだ」
レアキャラ扱いなのかな、と、恭介は思う。
振り返ってみれば、初日以来、この市街地には寄りついていなかった。
いや、魔法少女隊の方は、一度、結城姉弟を送ってここに来ていたか。
いずれにせよ、
「市街地内では滅多に見かけない」
というのは、紛れもなく事実になる。
「あんまりこちらまで出てこないのは事実ですが、たいした理由じゃありませんよ」
恭介は、そう返答しておく。
「あんまり詮索するのもなんだが、今までなにをしていたんだ?」
「おもに、家づくりですかね」
嘘ではない。
その他に、神様っぽいのや精霊っぽいのとのやり取りや、スキルの教授法や上位職への転職方法を発見して試したり、など、いろいろやっているわけだが、そこまで説明すると面倒臭いことになりそうなので、ここではあえて省略する。
「家かあ」
坂又は感じ入ったような表情になった。
「そら、長期的なことを考えたら、早めに対策しておいた方がいいよなあ。
いや、あんたらほど最初から稼いでいたら、そういう思考になるのか」
普通に、感心してくれている、らしい。
どうやらこの坂又という男は、少なくとも恭介らに悪意はないようだった。
「おお、着いたか」
小名木川会長がこちらの姿に気づき、手招きをしてくる。
「ちょっと、こっちに来てくれ。
人が集まってくる前に、相談しておきたいことがある」
「会長が呼んでいますんで、失礼します」
「ああ、いってこい」
坂又にそう声をかけてから、恭介たち五人は生徒会役員が固まっている場所まで移動した。
「会長、おはようございます」
「おお、おはよう」
小名木川会長は、挙動のそこここにどこか疲れが滲んでいるように見えた。
が、それでも気丈に挨拶を返す。
「朝から呼び立ててすまんな。
で、これから本格的な会議になるわけだが、あんたら、あれからなにか変わりはないか?
こちらが把握していない情報とかあったら、今のうちに吐いてくれないと今後に支障が出るんだけど」
何度かやり取りをしているせいか、この会長も恭介たちを相手にする時は、かなりざっくばらんな態度になっている。
「なにかあったっけ?」
恭介は振り返って、仲間たちの顔を見回した。
「あ、会長」
遥が片手をあげていった。
「わたし、昨日、忍者への転職に成功しました」
「レベルアップして条件を満たしたか」
小名木川会長は頷く。
「いずれはそうなだろうと聞いていたから、まあ予測の範囲内だな」
「会長」
魔法少女隊の緑川が、同じように片手をあげて報告した。
「以前より開発していた、空飛ぶ箒が完成。
航空戦力を入手した」
「はぁ?」
小名木川会長はあんぐりと口を大開きにして、数秒、固まった。
「いや、それ、初耳なんだけど。
航空戦力、だと?」
「最後の方は、酔狂連の三和氏にも手伝って貰った。
改良の余地あれど、一応、実用レベルには仕上がっている」
「お、おう」
小名木川会長は、気が抜けたような返事をした。
「そういう重要なことは、今度からもっと早めに教えてくれると、助かる」
「あ、会長」
彼方が片手をあげて報告する。
「ぼくも、上位職に転職しました」
「いや、待て」
小名木川会長は一度彼方を制して、大きく深呼吸をする。
「お前らからのこの手の報告、衝撃が大きいんでな。
ちょっと落ち着いてから詳細を聞く。
……で、なんの上位職に転職したんだ?」
「陣地守護者、です」
「よし。
予想通り、今までまるで聞いたことがないジョブだな」
小名木川会長は、なぜか大きく頷いた。
「で、そのジョブの特徴は?」
「簡単にいうと、特定の場所を自分の陣地と認識し、その中に居る味方を全員、軽くバフかけることが可能になります」
「そういう便利なジョブに就いたら、さっさと報告せんか!」
小名木川会長は立ちあがり、大きな声を出す。
「普段は神様だ精霊だと判断に困る報告ばかりしてくるくせに!
そんなジョブがあるんなら、こちらの作戦も大きく変わるわ!」




