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高校生150名が異世界廃墟に集団転移したようです。みんなは戸惑っているようですが、おれたち三人は好きにやらせて貰います。  作者: (=`ω´=)
混合編

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リーリス嬢の煩悶

 小名木川会長の説明が、しんなりとリリース嬢の脳裏に浸透していく。

「それは、誰かが持っているスキルを、ポイントと交換して配布することが可能になった、ということですか?」

「厳密にいうと、細かい条件がいろいろあるようだがな」

 リーリス嬢が訊き返し、小名木川会長が答えた。

「まずそんな真似は、魔導師というジョブになったものしか出来ないようだ。

 少なくとも、この時点でそれ以外に同じような真似が出来た例はない」

「でも、それでは」

 捕食者としての自分のアドバンテージが、大きく減衰してしまうではないか。

 と続く言葉を、リーリス嬢は危うく呑み込む。

 捕食者としての特性は、

「他者のスキルを奪う」

 ことにある。

 そのスキルが条件つきとはいえ、複製可能になると、それだけ捕食者の優位性が揺らぐことになる。

 捕食者が誰かのスキルを奪ったとしても、相手にとっては、

「そでじゃあ、マーケットで買い直すか」

 程度のダメージにしかならないわけで。

 特に、特定のジョブでしか習得出来ない、レアなスキルが普通に複製可能になると、捕食者の強みはほとんど消えてしまう。

 それでは、強奪者も簒奪者も、「捕食者」というよりは単なる「コレクター」に成りさがる。

 無数のスキルを集めたとしても、そのすべてを使いこなせるわけもないので、結局は特定少数のスキルしか使わないのがオチだ。

「スキルの複製が可能になるなんて!」

 リーリス嬢はそう思い、内心でそう歯噛みする。

 よくよく考えてみれば、初期状態から基本的なスキルはマーケットで購入可能であったわけで、つまりはスキルが複製可能であっても不思議ではないのだが。

 リーリス嬢は実戦派のプレイヤーではなく、そうした実感も薄かった。

 リーリス嬢がこちらの百五十名のように、頻繁にダンジョンに入り、戦闘関係の情報も小まめに集めていたとしたら、以前から親しい間柄の人間同士がスキルを教授可能であったことも、知っていたのだろうが。


「だがこれは、多少の利便性が向上した程度の、細かい変化に過ぎないだろうな」

 なにかいいかけて中断したまま黙り込んだリーリス嬢を怪訝な表情で見ながら、シュミセ・セッデスがいった。

「ここ最近、こちらの手の者もダンジョンに出入りするようになったのだが、あれもなかなか厳しいな。

 闇雲に敵を倒せばいいというだけではなく、自分をどのように育てるのかという要素を長期的視野に沿って考える必要が出て来る。

 現状のダンジョンでさえ、この有様だ。

 この上、接続の塔まで攻略するとなったら、一体どれほど苦労することやら。

 多少の利便性があがったとしても、下手をするとその程度では追いつかんぞ」

「セッデス勢の頭領ともあろう方が、泣き言ですか?」

 ようやく気持ちを持ち直したリーリス嬢が、あえて平静な声を出した。

「泣き言というか、なあ」

 シュミセ・セッデスが苦い顔をしていった。

「うちの連中は、目の前の敵を問答無用でぶっ飛ばすのは得意でも、今後もぶっ飛ばし続けるためにはどんな要素が必要となるのかを考える習慣がないんだ。

 こちらの百五十名と比較すると、筋力も速度も持久力も、基本的にはこちらの方が上。

 しかし、ダンジョンでの戦績を比較すると、百五十名の方が上になる。

 戦略について、こちらの百五十名は実に巧妙に考え抜く。

 少なくとも、そうしたことを考えるのに向いた人材が、複数名存在する。

 その上、知り得た情報を効率的に広め、共有し、全員で検討する習慣まである。

 個人としての能力ではなく、こちらのプレイヤーは集団で戦っているんだ」

 この情報を咀嚼するまで、リーリス嬢はまた数秒フリーズした。

「集団で集めた情報を、集団で分析し、集団で新しい戦い方を検討し、集団で試している、と」

 少しの間を置いて、リーリス嬢はそう確認した。

「果たして、そんな芸当が本当に可能なのでしょうか?」

「可能であるらしい、なあ」

 シュミセ・セッデスはいった。

「まず、こちらの百五十名は全員が読み書き出来る。

 そして、文字情報を通じて速やかに情報を共有する仕組みも有している」

「百五十名は全員が、読み書きを」

 リーリス嬢はぽかんと口を開きそうになるのを、必至にこらえた。

「そんなことが、本当に可能ですの?」

「あちらの地元では、年少期から十年以上、読み書きその他の知識を叩き込まれるのが普通なのだそうだ」

 シュミセ・セッデスが淡々とした態度で説明した。

「そうした子どもたちは、その期間、学ぶ以外になにもしないでいい、とされている」

「十年以上も、学ぶ以外になにもしない」

 リーリス嬢は、目を見開いて呟く。

「そんなことをして、社会全体をつつがなく営めるものでしょうか?」

「どうも、あちらの百五十名が来た場所では、それが当然であったそうだ」

 シュミセ・セッデスは真顔で答えた。

「他にもいろいろと聞き及んだ結果、おれとしては、あちらの世界はとんでもなく豊かなのだろうと、そういう結論に達したわけだが。

 あと、これについてはおれもまだ半信半疑なんだが、あちらでは、八十億以上の人間がひしめいていたらしい」

「はぁ?」

 今後こそ、リーリス嬢は間の抜けた声をあげてしまう。

「億?

 今、億といいましたか?

 しかも、八十億?

 それは、いくらなんでも盛り過ぎではありませんか?

 一体どうしたら、そんな数に?」

「だから、おれも半信半疑だといっている」

 シュミセ・セッデスは不機嫌そうな顔つきでいった。

「それだけ膨大な数の人間が存在する大地など、おれにしたって想像することすら難しい。

 いったいどうやって、それだけの人間が食っていけるんだ?

 必要とされる食糧の量を考えるだけで、頭が痛くなる。

 そんな膨大な食糧を、誰が、どのようにして作り採取するというのか?」

「豊かというより、いろいろと効率がいいのでしょうね」

 考えつつ、リーリス嬢は呟く。

「効率がいい方法を開発し続けた結果、それだけの人口を養えるところにまで、文明が発展した」

 順序が、逆なのだ。

 と、リーリス嬢は考える。

 なるほど、効率という点では、あちらの人間に分があるようだ。

「オナキカワセイトカイチョウ」

 改めて、リーリス嬢は小名木川会長に向き直った。

「先ほどいっていた、速やかに情報を共有する術について、教えていただけないかしら?」

「いいけど」

 小名木川会長は軽く頷く。

「でも、見てもあまり意味がないぞ。

 ウィキペディアは、だいたい日本語で書かれているからな。

 そちらには、読めないだろ?」


 そのあと、リーリス嬢はタブレットやパソコンの使い方をかいつまんで、小名木川会長に教えて貰う。

 もちろん、画面に表示された日本語の文字列を読むことは出来なかったわけだが、その利便性については、その場で理解した。

「これ、計算も出来るといいましたよね?」

「というか、数値計算が一番得意だろうな」

 リーリス嬢の問いに、小名木川会長は答える。

「事務仕事はだいたい、この手の機械に任せている」

「これに、フラナの言葉を教え込むことは出来ませんの?」

「理論的には可能ですが、実現するためにはかなりの困難が存在します」

 小名木川会長の代わりに、筑地副会長が答えた。

「まず、フォントを作ることからはじめなければなりません。

 これは、機械で使う用の文字だと思ってください。

 そうした文字デザインが出そろったとしても、それを使用可能にするための知識を持つ者が、こちらの百五十名の中には居ません。

 これから誰かがマーケットで専門書などを購入し、システム開発やプログミングの勉強をしはじたとしても、早くても数ヶ月、下手すれば数年単位の時間がかかります」

「噂に聞く、スイキョウレンという方々に頼む、というのは?」

「連中は今、プレイヤー用の装備などを開発するのに忙しい」

 小名木川会長がリーリス嬢の問いに答えた。

「能力的には、出来そうではあるんだがな。

 連中も、少人数で頑張ってくれている最中だからな。

 ただでさえ過重労働気味なのに、これ以上に負担はかけたくないってのが本音だ」

「おれも、同じようなやり取りをしたっけかなあ」

 シュミセ・セッデスがしみじみとした口調でいった。

「基本的に、こいつらが使う道具は機械の延長上にある、そうだ。

 つまりは、新しい仕掛けを欲しいと思っても、設計からなにから、最初に考える人間が居なくては、どうにもならない。

 そういうことで、あるらしい」

「残念ながら、わたしらは普通の高校生に過ぎず、そうした専門的な教育は受けていないんだ」

 小名木川会長は、そう断言する。

「既存の機械を使うことは出来ても、同じような機械を自分の手で作ることは出来ない」

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― 新着の感想 ―
誰かが機械知識を身に着けるより、日本語知識をスキル化した方が手っ取り早そうなの面白いですね。 最終的には望む分野の語彙が多い言語を使い分けてバイリンガル技術者達が活躍しそうです。
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