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マンハント、開始

 結果として、結城紬は年少組を不審者捕縛に出すことにした。

 不審者捕縛。

 つまりは、

「この異常な状況下においても逃げようとせず、そこいらをうろついている人を捕まえる」

 だけのお仕事になる。

 ゴーレム群はまだ何体か稼働しているようだがほぼ壊滅状態であり、全滅するのも時間の問題であろう。

 事実上、もはや脅威とはいえない。

 そのゴーレム群を製造しけしかけた人間がおそらくは相当の人数、まだ周囲に居るはずである。

 仮に逃げていたとしても、結城紬の立場からすると、そちらの方が都合がいいくらいだった。

 捕縛するべき対象がすでに居ないのであれば、年少組のリスクが事実上なくなるからだ。

 この捕縛命令は、ドルイセ商会のリーリス嬢から出されている。

「この襲撃事件の背後関係を知りたいから」

 との、動機からだそうだが、これも結城紬にいわせると、

「政治的な判断だなあ」

 ということになる。

 この世界の詳細について、自分が無知であるということを結城紬は自覚していた。

 それでも、襲ってきた側と襲われた側が、敵対関係にあることくらいは、流石に察することが出来た。

 その敵対関係にどんな背景があるのかはわからないが、そうした抗争は所詮この世界の人々のものであり、自分や年少組が介入してもいい物か、どうか。

 その辺も、別にはっきりとした結論が出ているわけではない。

 しかし、ドルイセ商会が自分たちの目前で襲撃されたのは動かせない事実であり、ここでドルイセ商会側に協力しないと、身におぼえがない嫌疑をかけられかねない。

 いやそれ以前に、

「暴発寸前までフラストレーションが溜まっている年少組にどうにかして鬱憤を晴らす機会を与えないと、いい加減にヤバい」

 という、かなり身も蓋もない理由が、一番大きかったりするのであるが。


「三人一組、四班に別れて」

 結城紬は、自分のパーティに指示を出す。

「各班、それぞれ別個に、この場から逃げようとしていない人を見つけ、捕まえて来てください。

 くれぐれも、怪我をさせたりさせられたり、相手を殺したり相手に殺されたりはしないように。

 いろいろ聞きたいからからこそ、相手を捕まえにいくわけですから。

 万が一、怪我をさせたりさせられたり、殺したり殺されたりした場合は、まっさきにここまで戻ってきてください。

 首尾よく誰かを捕まえられた時も、ここまで戻ってきてください。

 そのための、三人一組編成です」

 年少組は、多少の個人差はあったが、抽象的ないい回しをあまりよく理解してくれない。

 おそらくは、そういう表現があまりなされない環境で育ったからだろう。

 これくらい噛み砕いて、具体的に説明しないとなにをするべきなのか、わからない子が多かった。

「はーい!」

 十二人の年少組は声を揃えて返事をする。

 返事だけは、元気なんだよなあ。

 いつも。

 と、結城紬は思う。

「ドルイセ商会から二十人ほど、それにSソードマンからも捜索に人手を割いているようです。

 もしも顔を合わせても、挨拶して少し話せばすぐにわかると思います。

 くれぐれも、先走って見境なく攻撃とか、しないように。

 ドルイセ商会の方々も素人だと思いませんし、Sソードマンに至っては、先ほど見たように、かなり怖ーい攻撃をする人たちなので、絶対に怒らせないように」

 実際、先ほどのゴーレム群を一掃した手並みは、遠目から見ても壮観だった。

 素直に怖がってくれるとありがたいのだが、年少組のほとんどはあの攻撃を、目を輝かせてみていた気がする。

 ああいう派手なのが、お子様受けはするかもなあ。

 と、結城紬は思う。

「説明は以上になりますが、なにか質問はありますか?

 なければ、すぐに出発してください。

 はい、解散!」

 パン、と結城紬が手を打つと、年少組は、

「ほー、ほー」

 と声を掛け合いながら、四方に散っていく。

 このかけ声は、フラナの人たちが狩りなどの時、獲物を追う時に口にする伝統的なかけ声、なのだそうだ。

「大丈夫かな」

 と、結城紬は思う。

 不安は大きかったが、ここまで来たらなりゆきに任せるしかなかった。


「あっちに二人居るね」

「ん」

 一方、Sソードマンの内海と楪は、二人一組で行動していた。

 今回の場合、察知スキルに長けた内海が先導する形になる。

 移動速度も、本気を出した内海に楪が追いつけるわけがないので、内海は楪の速度に合わせて走っている。

 周囲の建物はほとんど崩壊しているし、ゴーレム群は一歩踏み出すたびに石畳で舗装されていた道を大きく陥没させていたので、現状、二人が移動する範囲はかなりの不整地ということになる。

 しかし、二人の歩調に遅滞は見られなかった。

 レベルアップで身体能力が全般に向上していたし、ダンジョン内部でもっと移動しにくい場所でも普通に行動していた経験があるので、二人とも、この手の障害に適応するのは早い方だった。

 二人が探しているのは、

「露骨に、逃げ遅れている人間」

 だった。

 ドーレム出現時に逃げ出した者たちは、すでにかなりの距離を稼いでいる。

 今頃、この周辺に留まっている者は、負傷などの理由により仕方がなしに居る者か、さもなければ、この騒ぎを起こし、あわよくばその最中にも介入しようと身構えていた連中くらいで、このうちの前者はその大半を聖女の庭が押さえているはず、だった。

 聖女の庭も、そのつもりで負傷者を保護したわけではないのだろうが、この場合、まだこの周辺をうろついている者を捕らえれば、かなり高い確率で関係者が含まれている、という状況になっている。

「見えた」

 内海がそう口にするとの、楪が手にした拳銃を発射するのは、ほぼ同時だった。

 こちらに背を向け、小走りに廃墟の中を駆けていた男の足を、九ミリ弾が射貫く。

 男の走りは、明らかに、普段運動し慣れていない者の動きで、実際、速度もまるで出ていない。

 そんな男の左すねの部分を、楪の放った銃弾が通過した。

 男は当然、その場で無様に転倒して、動かなくなった。

 別に死んだわけではなく、痛みによって、身動きが取れなくなったのだ。

 その場で気を失わなかっただけでも、上等だろう。

「どうも、こんにちは」

 左すねの銃創を両手で押さえて涙目になっていた男のすぐそばにまで近づき、楪はそう挨拶した。

「人違いだったらごめんなさいね。

 でも、うちら、このあたりに居る挙動が怪しい人、片っ端から連れてこいっていわれているんだ。

 もしも無実だったらその傷もちゃんと回復してすぐに解放するからさ。

 とりま、うちらといっしょに来てくれないかなあ。

 いや、断っても、無理にでも連れていくけどね。

 抵抗したら、もっと痛い目に遭うかもよ」

 あんまり暴れたり抵抗されたりしても面倒なので、脅しも含めてそういっておく。

 男は、涙目のまま、血色の悪い顔をこくこくと何度も縦に振った。

 どうやら、抵抗する気力もないらしい。

 楪たちにとっても、その方がありがたかったが。


 楪は、男の銃創を包帯でぐるぐる巻きにし、きつめに縛っておく。

「あらま、優しい」

 内海が、意外だ、といわんばかりの表情を浮かべながら、そういった。

「こっちの服に、これの血がつくのも嫌だしなあ」

 楪は、そういった。

「ここで回復して逃げ出されても、面倒だし。

 これは、うちが運ぶから」

 楪はそういって、男の体を軽々と持ちあげ、自分の肩にかついだ。

「あと一人か二人、拾ってから一度帰ろう。

 一人一人持ち帰っていたら、時間がかかりすぎるし」

「りょ。

 じゃ、次はこっちね」

 内海はそういって、現地点から一番近い被疑者が居る方角を指さした。

 二人が移動を再開すると、振動で傷が痛むのか、楪に担がれている男がかなりうるさくなったが、二人は気にもとめなかった。


「ほー、ほー」

「ほー、ほー」

「ほー」

 聖女の庭は、かけ声をあげながら、崩壊した町を駆けていく。

「ほー」

 そのうちの一人が、言葉にしないまま首を振ってある家屋を示した。

 そこに、誰か残っている。

 彼ら三人の察知スキルはほぼ同じ練度であり、その程度の情報は、言葉にしないでも、自然と了解が取れた。

「ほー」

 他の一人が、そういって頷き、その家屋の玄関先に立った。

 ゴーレム群が発生した範囲から微妙に外側に外れた場所にある、家屋だった。

 しかし、先ほどの騒動を経ても、まだたった一人で室内に残っているのが、不自然ではある。

 実際、近隣の人々は、すでに全員、巻き添えに鳴るのを嫌って、この場から逃げ出している。

 この場から逃げようとしていない、不審な人間。

 少なくとも、その条件には当てはまる人物ではあった。

 三人は頷き合って、玄関の扉をノックする。

「誰かね。

 こんな騒ぎの中で」

 中に残っていた人物は、すぐに返答して来た。

「まあ、いい。

 入りなさい。

 鍵は開いている」

 その人物、簒奪者のユニークスキルを持つ男は、落ち着き払った様子でそういった。

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