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セッデス勢のチュートリアル

 四人はまた、見晴らしのいい城塞上部へと来ていた。

 地上から五メートル以上はあがっているはずなのだが、視界に映る城塞上部がほぼ同じ高さになるので、高い場所に居るという感覚は薄い。

 背後から天頂を超えてひっきりなしに風切り音が響き、遥か前方で爆発音が連続している。

「あの、連続して爆発している場所が、モンスターの出現地点ですか?」

 彼方が確認した。

「そうだ」

 シュミセ・セッデスが頷く。

「お主ら、向こう側のプレイヤーと接触してから、戦い方も随分と変わった。

 火砲は威力が強く効率的なのだが、それだけで片がつくほど簡単ではないようだ」

「これほどの絶え間ない攻撃にあっても、それを潜って抜け出すモンスターが居るのかあ」

 恭介は、のんびりとした声をあげる。

「うん。

 結構、あそこを脱出しているの、居るみたいだね」

 遥が、そういう。

「察知には、結構引っかかってる。

 これ、見逃す人も多いと思うよ」

 ということは、察知スキルの練度が引くいと、見逃しかねない相手が多い、ということだ。

 爆発音だけではなく、銃器を連射する軽快な音も、あちこちから聞こえはじめる。

「一応、複数の逃走経路を想定して、ああして機銃で掃討はしているのだがな」

 シュミセ・セッデスは説明する。

「相手もそれなりに知恵を回すのか、それでも全部は片付けられていないらしい」

 やかましいなあ。

 と、恭介は思う。

 恭介たちが立っている場所は、モンスターの出現地点からかなり距離があるので、まだしも爆音が大きくは響かないのだが。

 また、これまでとは違った爆発音が、かなり近くから響いた。

「この爆発音は!」

 彼方が、その爆発音に負けじと大声を張りあげる。

「地雷原だ!」

 シュミセ・セッデスも、叫んだ。

「逃走経路のいくつかには、対人地雷が仕掛けてある!」

 割と周到に、迎撃の準備はしてあるようだ。

 少なくとも、向こうのチュートリアルの時よりは、ずっと巧妙に対策してあるな。

 などと、恭介は考える。

 先行してこちらに来ている連中が、後知恵としていろいろ献策した結果だろうな。

 とも、予想した。

 モンスターの出現地点から、絶え間なく響く爆発音にもかかわらず、噴煙を割るようにして、いくつもの影が上空に飛び出てくる。

 空を飛ぶタイプのモンスター、か。

 お馴染みのワイバーンから虫型のものまで、種類が多い。

 ただ、あの砲撃を物ともせず離陸していることからもわかるように、生き残って上空まで飛び出てくるモンスターは、ほぼ例外なくかなりの大型だった。

 その飛行型モンスターに向け、四方から火線が集中する。

 照準がつけやすいよう、定期的に曳光弾が混ざるので、そうした対空砲火の弾道も視認出来た。

 飛行型モンスターも、そうした対空火砲に当たって、次々と撃ち落とされていく。

「割と、堅実な手段だなあ」

 恭介は、誰にともなく、そう呟く。

「あまり、こちらが手を貸す余地もないような」

「そうでもないぞ!」

 シュミセ・セッデスが、吠えるような口調でいった。

「ほれみろ!

 硬くてデカいやつが出はじめた!

 あいつらは、自分の体で射線を遮って、他のモンスターを大量に外に出すから厄介なんだ!」

「ああ」

 シュミセ・セッデスが示した方向を見た恭介が、いった。

「ゴーレムか。

 にしても、デカいなあ」

 肩から上の部分が、城塞の防壁から飛び出している。

 となると、全長は八メートルといったところか。

 一応、二本足で歩いているのだが、体自体が分厚く、完全に、砲撃や機銃の掃射を自分の体で遮っている。

「ああいうのへの対策は、していないんですか?」

 彼方が、シュミセ・セッデスに確認する。

「している!」

 シュミセ・セッデスは叫んだ。

「すぐに来ると……来た!

 あれだ!」

「ああ」

 そちらの方向に視線を走らせ、恭介は頷いた。

「戦車か。

 あの巨体相手なら、戦車砲ぐらいでないと確実に倒せないわな」

 戦車の種類までは、知識がない恭介には判別できなかった。

 ただ、車高が低く、履帯が上下に動いて自由に高さを変えていたので、比較的近年に開発された車種なのだろう。

 その戦車は、高い防壁に囲まれた道を高速で走って来たかと思うと曲がり角で急停止し、砲塔を回転させて主砲でまっすぐゴーレムへと向ける。

 一発目はゴーレムの胸部に、二発目はゴーレムの頭部に命中し、胸から上の形を完全に失ったゴーレムはそのまま背後に倒れていった。

 完全に機能を停止し、全身が地面に横たわる前に姿を消す。

 倒されたモンスターの遺骸は、例外なく倒したプレイヤーの倉庫に収納されるからだ。

 目的を果たした戦車は、すぐにまた高速でどこかに移動してすぐに見えなくなった。

「ゴーレムのうしろについてきたモンスターが何体か、団体様で残っているね!」

 遥が、大きな声で報告した。

「ほとんどがステルス持ちだけど、このまま放置しておいていいの?」

「そういうわけにもいかないか」

 恭介はそういって、自分の倉庫から魔力弓を取り出す。

「今日は見学だけのつもりだったんだがなあ。

 目の前のモンスターを見逃すのも、気が引けるし。

 ええと、手を出しても構いませんよね?」

 一応、こちらの責任者であるシュミセ・セッデスに確認する。

「こちらとしては、大歓迎だな!」

 シュミセ・セッデスは大きな声で答えた。

「存分にやってくれ!」

 恭介は、ステルスモンスターの団体が居るあたりを狙って、何度か弓を引き、放す。

 無属性魔法が炸裂し、恭介の察知スキルで感知できるモンスターは、すぐに壊滅した。

「まだ残ってる?」

 恭介は、一応、遥に確認する。

 察知スキルに関しては、恭介よりも遥の方が、感度がよかった。

「この近くには、居ないかな」

 遥は答えた。

「ただ、モンスター出現地点の向こう側までは、感知出来ない」

 そちら側には、まだモンスターが残っている可能性がある。

 と、いうことだった。

「こちらには、察知スキルを育てたプレイヤーは居ないのですか?」

 彼方が、シュミセ・セッデスに訊ねた。

「居ないこともないが、育成中で能力が育ちきっていないってところだな」

 シュミセ・セッデスが答える。

「徐々に高感度になり、捜索範囲は広がっているから、いずれは熟練した者も増えるのだろうが」

 今の時点では、心許ない。

 と、いうことらしかった。

 これまで見たところ、セッデス勢は、この時点で打てる手は積極的打ち出して、かなり健闘している。

 前に恭介が指摘したように、もう少し時間が経てば、恭介たちが手助けしなかったとしても、いずれは自力でチュートリアルを終了可能に思えた。

 むしろ、これだけの短時間で銃器などの近代兵器類を揃え、弾薬なども惜しみなく消尽しているところから、本気でチュートリアルの終了を望んでいる、という気概が見える。

 これだけ弾薬を使っていれば、その分の購入ポイントだけでも膨大なものになるはずだ。


「今日のでも、九割には届かないのか」

 その日のチュートリアルが終わってから、シュミセ・セッデスはそう呟いた。

「なかなか、達成率とやらもあがらないものだな」

「むしろ、十分にあがっているんじゃないかな」

 恭介は、そう評した。

「こちらと接触してから日が浅いにもかかわらず、ここまで持っていけているってだけで、十分に凄いと思います。

 ぶっちゃけると、おれたちが手を貸さなかったとして、いずれは自力だけでチュートリアルを完全攻略出来ると思いますよ」

「そういってくれるのは、嬉しいのだが」

 シュミセ・セッデスはそう応じる。

「それもこれも、八十年間の停滞状態があればこそ、だ。

 スキルやマーケットについて、最初から十分な説明があったとしたら、ここまで苦労はしていないのだがな」

「それについては、このような状況を作ったやつらにいって貰うしかありませんね」

 恭介は、そう応じる。

「そいつには、おれたちも文句をいいたいことが山ほどあります」

「もっともだな」

 シュミセ・セッデスはそういって頷いた。

「ほとんどのプレイヤーが、そう思っていることだろう。

 それで、これからどうする?

 他のどこか、案内して貰いたい場所などはあるか?」

「先行してこちらに来ている、あちら側のプレイヤーと会いたいですね」

 彼方がいった。

「そういう人たちがどういうことをやって来たのか、確認しておきたいんで」


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