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高校生150名が異世界廃墟に集団転移したようです。みんなは戸惑っているようですが、おれたち三人は好きにやらせて貰います。  作者: (=`ω´=)
チュートリアル篇

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生徒会の事情(二)

「……疲れた」

 小名木川宵子は、生徒会室、ということになっている大きな部屋の執務机の天板に突っ伏して、ぼやいた。

「ってか、なんでわたしがこんな苦労しないといけないわけぇ」

「お疲れ様です」

 書記の小橋美紀が、声をかけてくる。

「ようやく、一段落ついたようですね。

 プレイヤーからの問い合わせも、ようやく止まってくれました」

 書記である小橋には、生徒からの問い合わせ対応を担当して貰っていた。

 なにせ、こんなの事情事態である。

 生徒会から「ステータスオープンしてみろ」的な同報連絡を入れてからこっち、絶え間なく問い合わせが来ていた。

 その大半は実質、クレームとか愚痴だったが。

 なんでこんなことになっているのか。

 ふざけるな。

 受験が将来が。

 どうすれば元の世界に帰ることが出来るのか。

 などなど。

 いい分としてはもっともな内容だったが、同時に、生徒会の業務とはまったく無関係であり、こちらにはどうにも解決できないことが大半だった。

 というか、まったく同じことを、小名木川会長をはじめとした生徒会メンバーも愚痴りたいくらいだった。

 理不尽、なのである。

 生徒会をはじめとする、百五十名の全プレイヤーが置かれている、現在の境遇は。

 異世界だかなんだか知らないが、実質的には、強制的に拉致されているのと変わりがない。

 人権が、まるっきり無視されている。

 書記の小橋は、逐一相手のいいぶんを聞いたあと、諄々とそうした内容をしゃべり倒し、

「大変ですが、お互い頑張りましょう」

 と締めくくった。

 口調に本音がダダ漏れだったので、相手の方もそれ以上に言葉を強くするわけもいかず、なんとなく了解して通話を終える。

 そうこうするうちに、その手のクレームは段々減っていった。

 他のプレイヤーたちも、時間が経つにつれて冷静になり、しぶしぶ、ではあるが、現状を受け止めはじめているのだろう。

 そんなクレーム処理をほぼ一日中繰り返していた小橋書記は、柔和な雰囲気に関わらず、根本的な部分でタフなんだろうな。

 などと、小名木川は思う。

 誰にでも出来る仕事ではなく、得がたい人材、ではあるのだろう。

「あ、会長」

 なにもない空中に、ということは、自分のシステム画面に視線を固定していた会計の横島が、声をかけて来た。

「お茶、いれます?」

「真昼ちゃんがそういってくるってことは、またなにか問題が発生したのね」

 小名木川は軽くため息をついた。

 基本、真面目な横島会計は、なにか相談したいことがない限り、自分から休憩を提案することはない。

「この時間に、ってことは、おそらく、トライデント絡み?」

「はあ、その、お察しの通り、トライデント絡み、です」

 横島は、申し訳なさそうな表情を作って頷いた。

「例によって、彼ら自身が問題をつくっている、というより、彼らが他のプレイヤーよりもだいぶ先行して動いているので、問題になりそうな案件を片っ端から踏み抜いている感じですが」

「それは、理解している。

 考えようによっては、あの連中が先に問題提起をしてくれるから、こちらも対処法を考える余裕が出来ている、という面もあるし」

 小名木川は、横島の言葉に頷いた。

「で、今度は連中、なにをしでかしたの?」

「土地を買おうとしています」

「土地を?」

 小名木川は、軽く顔をしかめる。

「そいや連中、拠点を作るとかいってたか。

 土地って、買えるもんなんだ」

「ええ。

 システム上は、問題なく売買出来るようです」

 横島は、説明する。

「この周辺、マップでいう、三重の同心円の内部は、生徒会の領地ということになっています」

「領地、ねえ。

 それで、どこの、どれくらいの土地を買いたいって?」

「北側に延びている街道と真ん中の同心円が交差する近くで、どうやら、村の廃墟を丸ごとぐるっと買い取るつもりのようです。

 面積は、約五十ヘクタールになります」

「五十ヘクタール」

 小名木川は、あっけにとられた表情になる。

「といわれても、いまいちピンと来ないかなあ。

 いや、広いということは理解出来るけど」

「東京ドームがだいたい四・六ヘクタールだといわれていますから、その十倍強になりますね」

 小名木川は、数秒ぽかんと口を開けていた。

「……想像よりも、広大だった。

 で、その土地を売ると、なにか問題が起きそうなの?」

「こちらとしては、特になにも。

 ただ、土地の所有権を譲渡すると、その内部で起きた問題に対して、生徒会は干渉出来なくなると思います」

「そうなの?」

「ええ。

 問題を解決するのは、領主様の権限になるわけですから」

「そうか。

 土地を譲るってことは、統治権の問題になってくるのか」

 小名木川は考え込む。

「責任が分散されるんなら、こっちとしてはむしろ歓迎したいくらいだけど。

 で、売った土地は、連中が統治することに、と」

「トライデントの方たちとは昼に一度面会だけですが、悪い感触ではなかったですね」

 横島は意見を述べた。

「彼らが責任者になるのなら、治外法権の場所が出来ても特に問題はないかと」

「人柄に問題がないって点は同感だけど、人格的に、あー、三人とも、かなり風変わりだからなあ」

 小名木川はいった。

「方向性は違うけど、他の生徒たちとはズレている部分がある」

 小名木川も、トライデントの面々とは、横島と同じく、昼に中央広場に一度面談しただけの関係だった。

 それでも、それだけは実感させられている。

 思考や行動原理の方向性が、どこか他の生徒たちと違っている。

 そういう感触を得ていた。

 人格や倫理面ではなにも問題を感じなかったが、やり取りをしていると微妙に居心地が悪く、ある種の異質さを感じてしまったのだ。

 そういう三人が揃っていたからこそ、あれだけのスタートダッシュを決められたのかも知れない。

「今は、先方の申し出を保留している形ですが、どうしますか?」

 横島が、確認してくる。

「統治権以外に、こちらにデメリットはないってことだったよね?」

「ない、はずです」

「じゃあ、売っちゃお。

 こっちとしては、領土なんかにまったく執着ないし」

「では、そのように処理をします。

 今日はもう遅いですし、明朝でもいいですよね?」

「いいんじゃない。

 なんだったら、副会長の意見を確認してからでも構わないし。

 あ、そういえば、その土地、売るといくらくらいになんの?」

「五億CPになります。

 どうやら、マーケットに査定させた額をそのまま提示してきたようですが」

「十ヘクタールあたり一億ポイント換算になるわけか」

 小名木川がいった。

「ものが土地だしな。

 高いような気もするし、そんな額の気もするし。

 はっきりいって、ピンと来ない」

 ひとつ断言できることは、そんな額のCPをこの場でポンと出せるパーティは、トライデント以外にはいないだろうということだ。

 強いていえば、魔法少女隊がそれに迫っている。

 純粋にモンスター討伐報酬の額だけで比較すると、魔法少女隊の方が若干、トライデントよりも上をいっている。

 だが、トライデントは、魔法少女隊とは違って、無数のボーナスポイントを得ていた。

 あの三人だけ、「はじめてなにかを成し遂げた」事例が多いのだ。

 だから、取得したCPの総額では、結果として、トライデントが勝っている。

 なんとも奇妙な連中だ。

 と、小名木川は、改めてそう思う。


「ちーっす!」

 外に見回りに出ていた、築地と常陸の男子組が帰って来た。

「お疲れ様でーす。

 異常は、特にありませんでした。

 ただ、設置したトイレ、いくつのタンクがもう溢れてました。

 もっと増設しておいた方がいいと思います」

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