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高校生150名が異世界廃墟に集団転移したようです。みんなは戸惑っているようですが、おれたち三人は好きにやらせて貰います。  作者: (=`ω´=)
接触篇

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師匠

「鉄拳制裁、だって」

「昭和のマンガみたいだね」

 遥と彼方は、その光景を見て好きに論評している。

「異世界には、コンプラとか関係ないだろうしな」

 恭介も、そういった。

 彼の地には彼の地なりの秩序とか法意識があるのだろうし、そこにこちらの感覚で割って入るべきでもない。

 そう考えて、あえてそのまま静観することにする。

 当のアトォはといえば、よほど痛かったのか、頭を抱え込んで蹲っていた。

「それで、うん」

 出現した体格のいい女性は、一通り中央広場を見渡して、一人で頷いている。

「なかなかよく治められているようじゃないか。

 なにより、歌舞音曲を嗜むくらいには余裕があるってのは、いいこった」

 などといっている。

 それから、恭介を手招きした。

「そこのあんた。

 わたしゃ、フラナ一党の巫女頭、ダッパイってもんだ。

 どうやら見渡した中で一番目端が利きそうだから、このわたしをここの頭のところに繋いで貰えないかね」

「どうも。

 一プレイヤーに過ぎない馬酔木恭介です」

 恭介も、とりあえず名乗り返した。

「ここの頭、というか、行政のトップということでしたら、繋ぐまでもなく、もうすぐ姿を見せるかと」

 恭介はそういって、政庁の方を指す。

 小名木川会長が、生徒会役員を連れてこっちに駆けつけているところだった。


「ちょっとちょっと」

 小名木川会長は来るなり恭介の襟首を掴んで引き寄せ、小声で相談しはじめる。

「なにあのゴツいおばさん。

 あんなのが来るって、聞いていないだけど」

「おれだって、ああいう人が来るって事前に聞いていませんでしたよ」

 恭介は冷静に答える。

「誰が相手であろうが、生徒会もあらかじめ方針を定めていたはずでしょ。

 それに従って淡々と対応すればいいだけだと思います」

「そうはいうけど、ああいうタイプ苦手なんだよね。

 あの人の相手だけでも、変わってくれない?」

「謹んで、お断りします。

 受諾しなければならない筋合い、毛ほどもありませんし」

 恭介はきっぱりと拒絶して、小名木川会長から物理的に距離を取る。

 そろそろ、すぐ近くでこちらを見ている遥の視線が怖かった。

「このような場所まで、ようこそ」

 小名木川会長は観念したのか、一度小さく咳払いをしたあと、よそいきの笑顔を浮かべてダッパイに切り出した。

「なりゆきで生徒会長を務める小名木川宵子といいます」

「オナキカワ・ヨイコ、ね」

 女性は、自分の顎を手で撫でながらそういった。

「さっきのアセビ・キョウスケとかいう名前もそうだったが、こっちの名前は奇妙な響きをしているように思えるね。

 わたしはダッパイ、フラナの巫女頭をしている。

 今回、ここに来た目的は、こちらの内情を確認すること。

 ぶっちゃけていうと、フラナでも今後、この地との親交を深めるべきかどうか、議論になっていてね。

 もっと詳しい事情などを知らないことには、結論が出せないだろうってことになって、まずわたしが派遣されて来たってわけだ。

 視察はこっちで勝手にやるから、案内をつけて貰う必要はない。

 さしあたっては、行動の自由を保障してくれて、それに、野宿しても障りのない場所を指定して貰えばありがたい」

「視察については、自由にして貰っても構いませんが」

 戸惑いを隠しきれない様子で、小名木川会長は、そう返答する。

「宿泊場所に関しても、こちらで用意させていただきます」

 小名木川会長側から見れば、プレイヤーたちが転移してきてから日が浅く、そもそも見られて困るような場所などまだ出来てはいなかった。

 案内まで用意しろといわれたら、余分な負担になるのだろうが、自分で勝手に見て回るというのなら、好きにして貰いたいだけだ。

 今の段階で出来ることは、プレイヤー各員に、このダッパイという女性の行動を制限しないよう、呼びかけるくらいか?

 拍子抜けするほど、手がかからない来訪者、ということになる。

「上々だ」

 小名木川会長の返答に満足したのか、ダッパイは笑みを浮かべる。

「とりあえず、アトォ!」

「ふぁい!」

 相変わらず、頭を抱えて蹲っていたアトォは、名前を呼ばれて慌てて立ちあがった。

 よほど慌てたのか、返答が、噛んでいる。

「あんた、何日か先行してこっちに来ているんだ!

 とっとと偉大な師匠を案内しな!」

「は、はい」

 アトォは、恭介たち三人の方に目線をくれながら、どうにか返答する。

 心なしか、

「この窮状から救ってくれ」

 的な表情をしていたように思うが、師匠の方に深入りしたくなかったので、恭介たちはあえて無視した。

 アトォは、ダッパイに引きずられるようにして連れていかれる。

「助けなくていいの?」

 完全に二人の姿が見えなくなってから、遥がそんなことをいい出した。

「本当に助けが必要な状態だったら、あの師匠を連れて拠点に来ると思うよ」

 彼方は、そんな風に答える。

「アトォちゃんを保護していたのは、保護者がいないからでさ」

 恭介は、そういった。

「その保護者が来たんなら、引き渡すしかないでしょ」

「それもそっかぁ」

 遥は、あっさりと頷いている。

 あとでアトォから、

「あの時はとくも見捨ててくれましたね」

 とか、怨まれそうな気がしたが、それはそれである。

「とりあえず、することもないし、拠点に引きあげようか」

 恭介がそういうと、彼方と遥もその意見に賛同する。

 これからダンジョンに、という気分でもなかった。

 中央広場は、相変わらず集まった人たちが好きに動いている。

 一応、口実があってはじまったものの、今この場に集まったのは、騒ぐのが好きな人たちだった。

 用件が済んだからはい終わり、といきなり中断する理由もなく、おのおの、好きなことをして楽しんでいる。

 結構なことだ、と、恭介もそう思う。

 こういう平和な時間は、ある意味では貴重なのだ。

 恭介たち三人は中央広場の喧噪をあとにして、拠点へと引き返した。


 その日、日が暮れてしばらくしてから、アトォだけが拠点に戻って来た。

「よくも見捨ててくれましたね」

 案の定、開口一番に恨み言を口にした。

「それはそうと、師匠の方はどうしたん?」

 遥が確認する。

「市街地の方を一通り案内してから、生徒会の人たちに押しつけてきました」

 アトォはいった。

「お風呂とお酒が、お気に召した様子です。

 こちらにはお酒を嗜む人が居ないので、今頃は一人で飲んで生徒会が用意した寝床で高鼾かいていますよ」

 そういえば、はじめて接触した時も、向こうの人たちはマーケットで調達した安酒で酒盛りをしていたっけな。

 などと、恭介も思い返す。

 大容量の、紙パックとかペットボトルの焼酎をお好みだったようだ。

 つまりは、アルコール度数が高い蒸留酒が、好きなのだろう。

 そして、こちらのプレイヤーたちは、少なくとも表立ってアルコールを嗜む人はいない。

 ひょっとしたら、一人でこっそりと飲んでいる人は居るのかも知れないが、少なくとも公然と誰かが飲酒している、という噂はまったく耳にしていなかった。

「アトォちゃんは、お風呂にはあまり興味を示さなかったのにね」

 遥は、そんなところを気にする。

「個人差、だろうね」

 彼方がいった。

「異世界人だから、そうした嗜好まで一律同じ、ってわけでもないと思うし」

 アトォは当然のように、その夜も恭介たちの家に寝泊まりした。

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