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高校生150名が異世界廃墟に集団転移したようです。みんなは戸惑っているようですが、おれたち三人は好きにやらせて貰います。  作者: (=`ω´=)
接触篇

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はじめての夜

「その子のパジャマ、買ったの?」

「うん。

 替えの下着とか靴下含めて、当座の着替え、もろもろも」

 彼方と遥は、そんな会話をしている。

「しばらくこっちで生活するつもりだっていうからね」

「やっぱ、何日か逗留するの?」

「そうしないと、見たいところ全部見て回れないだろう、って」

「これ」

 当のアトォは、カレーライスの皿を見おろして、そんなことをいっている。

「本当に、食べ物なんですか?

 どろどろで、まるで食べ物ではないような色をしていますが」

「お口に合うといいけどねー」

 遥は、気軽な口調でそう返す。

「普通の食べ物だし、これ好きな人も、多いから。

 こっちでは割とポピュラーな料理になるのかな」

「そう、ですか」

 アトォは恐る恐る、といった感じでスプーンを操り、緊張した面持ちで一口分のカレーを口の中に入れた。

「んんっ!」

 その途端、目を見開いて妙な声をあげる。

「おいしいですね、これ!」

「だから、そういってるじゃん」

「複雑な香りと、辛みと、ほんのりした甘味。

 下にある穀物も、それ自体でおいしいし」

「食レポはいいから、ゆっくり食べなー」

 彼方がいった。

「慌てなくていいからねー。

 おかわりも、あるからー」

 アトォを見る視線が、生暖かった。


「香辛料、ですか」

「そう。

 何種類もの香辛料をブレンドして、味と香りを調整している」

 食後、アトォに彼方が説明をしていた。

「もともと、別の国の食べ物、っていうか、調味料だったんだけど、香辛料をブレンドした粉、みたいなのが重宝されて、いろんな国を経由してうちの国にも入って来て。

 結果、今の日本風のカレーになった」

「複雑、なんですね」

「割と、歴史はあるけどね。

 本家の国にも、他の国にも、それぞれにローカライズしたカレーがあるし。

 日本風のカレーは、割と人気が高いみたい」

「それほど多くの国が存在する、というのが、うまく想像出来ないです」

 アトォは、そう感想を述べる。

「国、というのも、実はよくわかっていませんし」

「おっきな組織、になるのかなあ」

 彼方は、説明を続ける。

「運営は、一部の役人が取り仕切っているわけだけど。

 ただ、使える予算が大きくて、その影響力も大きいんで。

 民間が正面から太刀打ちするのは、ちょっと難しいかな」

「おっきな、組織」

 アトォは、何事か考え込む顔つきになる。

「カナタたちの国は、どれほどの人間が所属していましたか?」

「人口だと、一億人ちょいかな」

 彼方は、そう説明した。

「ただ、若い人が子どもを作らなくなったので、今はどんどん減っている最中。

 数十年単位で見ると、しばらくは減っていく一方だろうね」

「……一億、ですか」

 アトォは、しばらく絶句してから、そういった。

「あまりにも膨大な数字に過ぎて、これもうまく想像が出来ません。

 そうですか。

 それほど大勢の人が暮らしているのならば、同じ年頃の人間を集めて様々な知識を教えるのも理に適っていますね」

「いっておくけど、学校とかの教育制度は、別にうちの国だけがやっているわけじゃないからね。

 先進国では、どこでも普通にやっているはずだし」

 彼方は懸命に細かいところまで説明していた。

 しかし、アトォは、彼方が説明する元の世界について、どうもうまく想像が出来ないようだ。

 まあ、生まれ育った環境が違いすぎるからな。

 と、恭介は思う。

 アトォは、かなり利発な少女だったが、それでも、想像力には限界がある。

 アトォのような生活をしてきた人間に、コンクリートとアスファルトで囲まれた現代日本の情景は、いくら説明したところでうまく想像は出来ないだろう。

「ところで、アトォちゃんさ」

 半ば空になっていたアトォの前のグラスに、紙パックのジュースを注ぎながら、遥が訊ねた。

「今後、明日以降はどうすんの?

 やりたいこととか、あるかな?」

「そう、ですね」

 アトォは、神妙な顔つきになる。

「やりたいことが多過ぎて、絞りきれないくらいなのですけど」

「どういうところが、見たいかな?」

 彼方が、そう訊ねる。

「それに合わせて、見学先を選んでいこう」

「まずは、この集落を」

 アトォはいった。

「次に、セイトカイの人たちが居住しているという、シガイチを見て回りたいと思います」

「順当というか、予想通りだな」

 恭介は頷いた。

「どの道、明日は、この近くを案内するつもりだったけど。

 でも何日か逗留するっていうと、明日以降の宿泊場所はどうするかなあ」

「こちらでは、駄目ですか?」

 アトォは、割と深刻な顔つきになった。

「ここで駄目なら、近くの空いた土地に天幕でも立てて……」

「いや、別に、ここでもいいけど」

 恭介は、慌ててつけ加える。

「合宿所とか、魔法少女隊の家とかも、頼めば泊めて貰えるはずだし。

 魔法少女隊のところなんか、女子ばかりだから気楽だと思うよ。

 合宿所なんかも、人が多くて賑やかだと思うし」

 とにかく、いくら拠点内とはいえ、そこいらの空き地にテントなどを建てて生活されても、こちらが困る。

「こちらだと、ご迷惑ですか?」

「いや、迷惑ということもないけど。

 ただちょっと、窮屈ではないかなあ、と」

「それならば、こちらにお世話になりたいです」

 アトォは、はっきりとそういった。

「この、ストーブというのも、ぬくくて快適ですし」

「いや、暖房器具は、どこへいっても普通にあると思うけどね」

 最近、朝晩は冷え込む。

 なんらかの暖房器具がないと、最近の夜はなかなかキツいはずだった。

「まあ、いいじゃん」

 遥がそういって、二人のいい合いを中断させる。

「今日はもう、寝る準備をしよう。

 アトォちゃんも二階に、お布団用意しているから」


「ここ、ですか」

 アトォが案内されたのは、二階の共用部屋だった。

 普段は応接セットなどが置いてあるのだが、今は机は倉庫にしまわれ、ソファは部屋の端に追いやられている。

「結構、広いでしょ」

 遥はいった。

「お布団は、これ使って。

 わたしらは、こっちの部屋で休むから」

「え?」

 アトォは、驚いた顔になる。

「全員で、同じ部屋に寝るわけではないんですか?」

「文化の違いってやつかな」

 彼方がいった。

「こっちでは、その。

 個人のプライバシーってのが重視されるから、よほど親しい間柄でないと、同じ部屋には寝ないね」

「なる、ほど」

 アトォは、考え込む表情になる。

「いろいろと、違うの、ですね」

 アトォによると、フラナの一党は家族全員が同じ室内で雑魚寝するのが普通だそうだ。

 というか、建物の中はあまり間仕切りがされておらず、生活空間はだいたい共有されている。

「天幕での生活が長いので、自然と、そうなったのだと思いますけど」

「確かに、それは文化の違いってやつだな」

 恭介はいった。

「一人で寝るのが寂しかったら、彼方の部屋にでも忍び込んでいっしょに寝ていいから」

「それ、本当に洒落にならないから、辞めて」

「わかってます」

 アトォは真面目な表情を崩さずにいった。

「それ、冗談ってやつですよね」

 そのあと、遥が、

「今晩だけでも、いっしょに寝ようか?」

 と申し出たのだが、アトォは、

「いえ、結構です」

 と即座に断る。

「こちらの習慣にも、早く慣れたいので」

 との、ことだった。

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