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高校生150名が異世界廃墟に集団転移したようです。みんなは戸惑っているようですが、おれたち三人は好きにやらせて貰います。  作者: (=`ω´=)
ダンジョン篇

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帰還

 少し前のことになる。


 亥のダンジョン、その扉の前で意識を取り戻した恭介は、体中が痛むことに気づいた。

 痛みを感じる、ということは、死んではいないのか。

 のろのろと、そう思考し、なかな持ちあがらない腕を無理に動かして、ひときわ痛む右目の周辺を手探りで確認する。

 あ。

 大きく、陥没している。

 これは、下手すると、脳まで圧迫されているな。

 などと考えつつ、回復術を反射的に使う。

 陥没していた頭骨が勝手に修復され、元の形に戻ろうとする。

 その過程でまた大きな痛みを感じるのだが、恭介は、それを無視した。

 実は、この程度の痛みを感じることには慣れてきていて、恭介はそれと共存することを学びはじめている。

 なにより、回復術により、確実に修復されることがわかっているので、多少の痛みはあえて無視するようにしていた。

 痛覚よりも、身体の機能回復の方を優先するべきであり、もっと切実な要請であると判断しているのだ。

 手探りで右眼窩周辺の回復を終えると、紗が掛かったようにぼんやりしていた視界も、明瞭になる。

 記憶はなかったが、損傷状況から見て、頭部を強打したことは明らかだったので、欲をいえば精密検査などを受けたいところであった。

 が、ここはあいにく、元の世界ではない。

 精密検査に必要な設備も人員もいなかった。

 実際に出来ることは、回復術の機能を信頼する、しかない。

 次の点検を開始する。

 視覚と触覚で、体のあちこちを点検した。

 痛みは、ほとんど体中に感じていた。

 特にひどい右腕を確認すると、上腕部であらぬ方向に折れ曲がっている。

 手で曲がっている周辺を探っても、肉の内部で骨が細かく割れている様子もない。

 単純骨折ってやつかな。

 そう思いつつ、恭介はそこにも回復術をかける。

 曲がっていた骨が急に動き出し、強引に元の形に戻ろうとする。

 当然、強い痛みを感じたが、恭介はなんとか低いうめき声を出すだけで我慢した。

 左足首も、本来ならばあり得ない方向にねじられている。

 痛みはないが、手で探るとその部分に奇妙な感触があり、骨が細かく砕けていることがわかった。

 おそらく、だが。

 粉砕骨折というやつで、同時に、その部分の神経ごと、やられている感じなのだろう。

 かろうじて、血流は足先まで届いているようだが、その他の運動に必要な機能は、ほとんど死んでいる状態だった。

 狂戦士として戦っていた時に、意識しないまま、出血を止める程度の回復術を使っていることは、これまでにもあった。

 おそらく、だが、失血しすぎると気を失うと、それ以上、戦えなくなるので、狂戦士のジョブであっても、最低限の回復はする。

 そういうことに、なっているのだろう。

 これも、恭介は回復術を使って、どうにか元に戻す。

 その他にも細かい傷はあちこちに残っていたが、そこまで大きな損傷を元に戻せば、どうにか拠点までには帰れそうだった。

 どうにか、生き残ったか。

 と、恭介は思う。

 単身でダンジョンマスターに挑むのが、ある種の自殺行為であることは、恭介自身も理解はしていた。

 ただ、現状、この方法の他に、この亥のダンジョンを攻略する方法が思いつかない。

 さらにいえば、多少なりとも成功の可能性を持つプレイヤーは限られていて、恭介自身の成功率が一番、高そうに思えた。

 ドラゴン戦の時と同じく、一種の賭けであったが、どうやら今回も、ぎりぎりで勝ち越したようだ。

 もっともない勝ち方だという自覚はあったが、もっとスマートな勝ち方を思いつかなかったのだから、仕方がない。

 立ちあがり、体中に付着した土埃などを手で払う。

 服も、かなり損傷していた。

 酔狂連最新作の、かなり強靱な繊維で作られたものだったが、対マスター戦ではこうなるようだ。

 あちこち破れた服の上に、倉庫から出したコートを纏い、同じく倉庫から出したマウンテンバイクに跨がる。

 今の状態では、歩くよりも、自転車に乗る方が、まだしも楽だった。

 帰ったら、また怒られるのだろうな。

 と、恭介は、思う。

 特に、遥に。

 恭介とて、自分を案じている人たちを無闇に怒らせたいわけではないのだが。

 しかし、元の世界に戻る手掛かりがほとんどない現状では、全ダンジョンマスターを倒すのが、一番、確実性が高い。

 そのまま素直に元の世界に返して貰えるとは、恭介自身も思っていなかった。

 が、少なくとも、帰還するためのなんらかの手掛かりくらいは、掴めるのではないか。

 恭介は、そこに一縷の望みを託している。

 そのためには、何度か死んでもいいか。

 と、思うくらいには。


 拠点に戻ると、訓練に参加していた人たちにドン引きされた。

 どうやら、恭介の今回の行為は、彼らにとってかなり非常識な行為であるらしい。

 恭介にいわせれば、

「リスクは最小に止めているし、他に手掛かりらしいものがないのだから、仕方がないではないか」

 ということになるのだが、彼らの認識では、今回の恭介の行為は、どうやら自傷行為と似たり寄ったりであるようだった。

 割と、冷静にリスクとリターンを計算しているつもりなのだがなあ。

 と、恭介は思う。

 聖女が居ることで死んでも復活可能なこの環境。

 それに、ダンジョン内部で死んだらその旨、全プレイヤーにアナウンスされることも、周知の事実となっている。

 仮に、自分がダンジョン内で死亡したら、ほぼ確実に、宙野姉弟は自分を復活させてくれる。

 その、はずであった。

 ここでの死と、元の世界での死は、その前提に立てば、大きく意味が違ってくる。

 しかし、彼らにとって死とは、なんの種類もなく、単純に死でしかなく、その意味するところも、元の世界と同一だと認識している。

 認識の切り替えをしている自分がドライ過ぎるのか、それとも、まだ切り替えが出来ていない彼らの方が、頭が固いのか。

 そのどちらが正しいとも、いえなかった。

 ただ、圧倒的な多数派なのは彼らであり、感覚がおかしいのは自分である。

 ということは、彼らの態度から、十分に理解が出来た。

 こんな世界に来ても、おかしいのは、おれか。

 と、恭介は思う。

 宙野姉弟も、自分の感覚に精一杯合わせてはくれるのだが、頭では理解してくれても、心の中から共感してくれるわけではない。

 わかりきったことではあったが、恭介は、この世界でも孤独だった。


 奇異の目で見守られつつ、亥のダンジョンでの出来事をざっと説明し、恭介は、

「疲れているから」

 といって、自宅に戻る。

 遥が、当然のようについて来た。

「無理していない?」

「無理は、していないよ」

 帰る途中、そう訊かれたので、恭介は反射的に答えている。

「いつもの通りさ」

 いつもの通り。

 元の世界で普通に暮らしている時でさえ、恭介は、自分の感覚と他の人たちの感覚が、大きくズレていると感じることが多かった。

 だから、今回のこれも、「いつもの通り」なのだ。

 元の世界と、同じ。

 いつもの通り、さ。

「普通にしているけど」

 遥は、さらに、そんなことをいって来る。

「本当は、見えないところとかに、もっと深い傷とか負ってるんでしょ?」

「痛みは、当然あるよ」

 恭介は、そう答えた。

「ただ、損傷の度合いまでは、自分では判断がつかないな。

 一応、ダンジョンを出たところで、自力で歩ける程度にまでは治して来たつもりだけど」

「家に戻ったら、詳しく調べないとね」

 遥は、かなり真剣な面持ちになっている。

「それもお願いしたいけど、まずはシャワーを浴びたいな」

 恭介は、そういった。

「傷の治療とかは、そのあとでゆっくりとやればいいよ」

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