SソードマンVS魔法少女隊
Sソードマンの三人は、そのまま合宿所に寝泊まりするようになった。
酔狂連の八尾によると、
「まだ、細かい内装などが終わっていない」
とのことだったが、それなら、ということで、その作業も手伝うようになっている。
もっとも、トライデントが課す訓練がキツいので、それから逃れるためにやっているようにも思えたが。
別に、毎日やるべきものでもないし、トライデントとしても、連日拘束されるよりは、何日かごとに面倒を見るくらいの方が、なにかと気が楽だった。
恭介たち三人は、他にも日々の日課など、いろいろな仕事をこなしていた。
さらにいえば、体が空いている日は、ダンジョンの攻略も進めてもいる。
トライデントの三人も、立場としては、教えているSソードマンと同じプレイヤーに過ぎないわけであり、そちらの方にばかりかまけているわけにもいかなかった。
そんなわけで、Sソードマンはしばらく訓練と合宿所の建築現場を行き来して暮らしていたわけだが、そのことによって発生した副作用が、いくつかある。
一つは、市街地から通いで拠点に通勤していた作業員たちが、Sソードマンと同じようなメニューを見よう見真似でこなしはじめたのだ。
こちらに関しては、トライデントが直接に声をかけられたわけでもなかったのだが、別に断るような筋合いでもないので、そのまま好きにさせておいた。
この時点でやっているのは走り込みと射撃訓練など、ごく基本的な反復練習だけであり、止めるような筋合いもなかったのである。
もう一つは、Sソードマンと作業員たちとの交流が生じたこと。
プレイヤーとしては一応、上位の成績を収めているSソードマンが、どちらかというと、プレイヤーの中では下位とされる作業員たちと日常的に触れあう機会を持ったことは、結構いろいろな影響をもたらしていた。
そうした作業員たちは、これまで、トライデントの三人とも顔を合わせ、挨拶などもする間柄ではあったが、これまで、あまり親しく会話をする機会がなかった。
そうした作業員の中には、チュートリアル最終日などに彼方の配下として活躍していた人々も含まれていたのだが、ダンジョン攻略を開始して以来、そちらであまりいい成績を残していない者が多く、どうも、気後れして深い交流を遠慮していたらしい。
同じ拠点内の居住している魔法少女隊などは、夕食ごとに合宿所の食堂を利用しているので、そうした作業員と交流する機会はあったのだが、トライデントの三人は、自分たちの家で食事を摂る習慣だったので、こちらでも接触をする機会はなかった。
市街地内部のプレイヤーに関していえば、同じレベル帯のプレイヤー同士が情報交換をする機会はそれなりにあるのだが、レベル差が開きすぎると、そもそも会話の内容が乏しくなってしまう。
その意味で、別に隔意があるわけでもないのだが、プレイヤー同士の交流は、結果として意外にローカルなものに留まっていた。
この拠点内は、高レベルのプレイヤーとそれ以外のプレイヤーとが、気軽に会話を交わせる、風通しがいい雰囲気になっていった。
さらに、酔狂連の人たちも、これまで、どちらかといえば高レベルプレイヤーの意見を重点的に聞いていたのが、こうした空気にあてられて、作業員たちの意見も集めて開発中の製品に反映させようとしはじめている。
そんなわけで、正式に合宿所がオープンする前に、いろいろな空気が暖まっていた。
合宿所が完成して、風紀委員と坂又どすこいズも拠点に出入りをするようになった。
Sソードマンと同じように、まずは各人のジョブやスキルなどについて聞き取り調査をおこない、その後、短所を補う形の訓練メニューを考える。
幸いなことに、Sソードマンとは違い、風紀委員も坂又どすこいズも、この世界へ転移して来る以前から日常的に体を動かす人種であったので、走り込みなど、体作りの訓練は、最小限でよさそうだった。
「と、なると、まずは、射撃訓練と魔法がメインか」
風紀委員は、魔法は日常的に使用しているが、銃器に関してはあまり経験がない。
坂又どすこいズは、その逆に、遠距離攻撃にはもっぱら銃器を使用していたが、魔法はあまり使ってこなかった。
「あまり魔法が効かないモンスターとか、普通に居たからなあ」
ドラゴンのように、魔法だろうが物理だろうが、極端に高い耐性を持つモンスターだって、現に存在する。
魔法も銃器も、どちらも、使えるようにしておいた方がいい。
ということで、それぞれの苦手項目を潰す感じで、訓練メニューを組むことになった。
先行して訓練を開始していたSソードマンは、走り込みによる体力作りはほどほどの成果が出て来ていて、今では長時間走ってもあまり息があがらなくなっている。
わずか数日でここまでの成果があがっているのは驚きではあったが、そもそもレベルアップによる身体能力の拡張現象自体が、元の世界の常識から外れていた。
「ここでは、そういうもんなんだ」
と納得するしかない。
射撃訓練も順調に推移し、各員が射撃場で、拳銃ならほぼ必中になり、ライフルの訓練に移行していた。
「ぼちぼち、魔法の訓練に移ろうかと思うんだけど」
Sソードマンの四人を集めて、遥が切り出す。
「その前に、ね。
一度、魔法メインのパーティと対戦してみた方が、いいと思うんだ」
「って、ことは」
奥村が、目を見開いた。
「まさか、やつらと、ってことか?」
「多分、想像している通りだと思うよ」
遥は、そう応じる。
「なに、別に、死にやしないさ。
決闘システムを使うからね」
「いやいやいやいや」
ゴツい甲冑の中で、美濃が、狼狽えた声を出す。
「いくらなんでも、これはないでしょう」
「落ち着け!」
奥村が叱責した。
「一応、防具は買い換えている!
全員、前よりは、魔法耐性はあがっているはずなんだ!」
「そういう問題ではないと思う」
ストカーの内海が、冷静に指摘をした。
「槍のように尖った土や氷の前では、魔法耐性は、あまり関係ない。
魔法を使っているとはいって、あれ、実質質量攻撃でしょ」
「夜っち」
内海が、楪に確認する。
「あれ、撃ち落とせる?」
「運がよければ」
楪は、冷静に答えた。
「まあ、ライフルの射程圏内ではあるよ、全員。
その全員の前に、すっごくいっぱい、土とか氷が浮かんでいるけど。
あれすべてをかいくぐって術者に弾丸を届けるのは、ものすっごい幸運が、必要になるね」
「レベルアップすると運があがるジョブ、今のところ、ひとつしか見つかってないんだっけ?」
「そうね。
今のところ、トライデントの馬酔木くんしか転職に成功していない、狙撃手」
「ええと」
美濃が、他の全員に訊ねる。
「うちら、今、出来ること、ないかな?」
「んー」
楪は、少し思案した結果、ある結論を導き出す。
「あれが動き出したら、とにかく逃げる」
「そんな無茶な!」
美濃は、泣き声になった。
「そろそろ、はじめてもいいかな?」
赤瀬が、上空からSソードマンに訊ねた。
「そっちの準備が済んだら、さっさとはじめたいんだけどぉ」
「はじまったら、一瞬で終わる予感」
内海が、ぽつりと呟く。
今、魔法少女隊の四人は、上空に浮いている。
以前経験した空中戦の経験を生かして、今回は新たに開発した別の飛行アイテムを使用していた。
箒、という不安定なアイテムに乗って空中戦、それも、機動力を生かしたドッグファイトをするのは無理。
そう結論し、経験から学んだ四人は、新たに採用するべき戦術を模索し、ある結論に達する。
「射程の長く、威力の大きい魔法攻撃をすでに会得しているんだから、自分たちは下手に動き回らず、空中に静止して浮遊砲台として機能すれば十分なんじゃね?」
と。
そのコンセプトに沿って開発されたアイテムが、今回、四人の足元にあった。
姿勢を安定させるために、板状の形状になった、浮遊アイテム。
特に意識をせずとも、少し重心を変えるだけで、軽く移動することも出来る。
空飛ぶボードに乗った四人はSソードマンの四人を取り囲み、揃って杖を掲げていた。
そして、魔法少女隊、四人の周囲には、Sソードマンが指摘したように、無数の土塊や氷が、長さ二メートルほどの槍状に成形されて、浮かんでいる。
「返事がないようなので、これから五秒後に攻撃を開始しまぁーす」
赤瀬がSソードマンに告げると、Sソードマンの四人は、それぞれ別の方向に逃げ出した。
「よーん、さーん」
全員、最近、走り込んでいるだけあって、なかなか逃げ足が速い。
「にぃー、いち」
ぜろ、と赤瀬がカウントダウンを終えた瞬間、空中に浮いていた無数の質量兵器は一斉に発射され、地上を見境なく蹂躙した。
少し前に内海が予想した通り、Sソードマンは正しく、「一瞬で」終わった。




