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高校生150名が異世界廃墟に集団転移したようです。みんなは戸惑っているようですが、おれたち三人は好きにやらせて貰います。  作者: (=`ω´=)
ダンジョン篇

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強さの性質

「そろそろいいかな?」

 背後から、坂又が声をかけて来る。

「訊いてくる前に、攻撃してきても構わないのに」

 彼方は、そう応じる。

「いやいや」

 坂又は、首を振った。

「みんな、君と戦いたくて集まっているわけだから。

 不意打ちなんてしたら、意味ないでしょう」

 なるほど。

 と、彼方は思う。

 相手の手の内を探ることを目的にしているのは、彼方だけではない。

 そういう、ことなのだろう。

 そもそも、トライデントの内情、もっといえば戦い方を知りたがっているプレイヤーが多いのは、想像に難くない。

「では、残った人たち全員で、来てください」

 彼方は、平静な声でいった。

「こちらは、盾も武器も使いません」

「素手で、か」

 坂又が、訝しげな表情になる。

「あ、いや。

 その程度のハンデがあっても、実力差は埋まらないのか」

 この坂又は、奥村とは違い、すぐに感情的になることがない。

 性格に寄るところが多いのだろうが、彼方には、優れた資質であるように思えた。

「いいだろう。

 いい機会だし、稽古をつけて貰うことにする」

 坂又は片手をあげて合図をし、残ったパーティメンバーを彼方の周りに集める。

 組みつかれると、割と不利になるな。

 手首を掴まれても、危ういし。

 寝技に持ち込まれたり、関節技をかけられたりするの、警戒しなければならない。

 彼方は、忙しく考えている。

 だとすれば、打突で全員に対処するしかないか。

 相手に捕まる前に、相手の意識を刈り取れば、どうにか凌げる。

 その、はずだ。

 なんだ。

 今までと、たいして変わらないじゃないか。

 彼方は、そう結論した。

 先手必勝。

 全員、一撃で倒せば、なにも心配をする必要がない、だけだ。

 客観的に見ると、相当に傲慢な前提なのだが、彼方は自然にそう考えている。

 坂又どすこいズの生き残りが、一斉に彼方に殺到した。

 彼方は、察知のスキルで、個々の正確な位置を把握している。

 彼方から一番近いのは、後方左側から来る人。

 素早くしゃがんでから、片足を左背後に伸ばし、正確にその人の足首をうしろに蹴り飛ばす。

 その人がつんのめって前に倒れたところで起きあがり、後頭部を片手で掴んで少し強く地面に頭部を叩きつけた。

 フルフェイスのヘルメットを着用しているし、なにより、これはシミュレーションだ。

 顔面から地面に叩きつけられた衝撃で気を失うだろうし、多少の手加減はしたが、遠慮はしなかった。

 次に、彼方の横をすり抜けようとした者の胸部を、素早く押す。

 すぐ隣に居た者とぶつかって、折り重なって地面に倒れた。

 この二人は、さほど大きな衝撃を受けたわけではないので、まだ意識がある。

 その二人が起き上がる前に、反対側に体を向け、すでに少し前に出ていた敵の背中を進行方向に蹴り飛ばす。

 不意に大きな力を背中に受け、その人は前に突出してから地面に激突した。

 これで、先にもつれ合って地面に倒れていた二人に向き直る。

 意識はあるが、二人とも、まだ起き上がっていなかった。

 地面から起きあがろうとしていた一人の脳天に、かかと落としを食らわせる。

 マンガかなにかで見た動きを我流でトレースしただけだったが、割ときれいに決まった。

 ヘルメット越しに一撃を食らった者は、そのまま地面に倒れて動かなくなる。

 もう一人は慌てて起きあがろうとしていたが、その途中でみぞおちに蹴りを入れると、再び地面に寝る。

 胸の辺りを手で押さえて震えているので、まだ意識はあるようだ。

 背中に蹴りを入れた者は、起きあがって彼方の方に近づいて来た。

 足取りはしっかりしているし、こちらは、まだあまり深刻なダメージがないようにみえる。

 一度、正面からやってみるか。

 そう思い、彼方は、両手を広げて威嚇してみた。

 別に、実際に組み合うつもりはなかったが、多人数が相手でなければ、こうして相手の出方を窺うのもありだろう。

 残りは、二人。

 目の前の相手と、地面に寝て胸を押さえている者だけだ。

 正面の相手は、彼方の挑発に乗ることはなく、自然体で立っている。

 構えることをしない、ということは。

 彼方が疑問を感じた瞬間。

 下から、風を切る音が彼方の頭部に迫って来た。

 彼方は、わずかに後ずさることで、その蹴りを躱す。

 予兆が、なかったな。

 と、彼方は思う。

 直立した状態から、瞬間に、蹴りの体勢に移行していた。

 なるほど。

 これが、武道というやつか。

 蹴りだけではなく、拳や手刀も使って、正面の相手は次々と彼方を攻め続ける。

 隙も遅滞もなく、どれか一発でも攻撃が当たれば、彼方はしばらく動けなくなるだろう。

 それくらいの威力を秘めた、猛攻だった。

 ただ。

 どこから攻撃が来るのか、わかっていればね。

 彼方は、冷静にそう思う。

 今の彼方はレベルカンストしている身、だった。

 目で追える程度の速度であれば、避けるのは難しくない。

 しばらく相手の攻撃を見定めてから、彼方は、蹴りが来たタイミングを見計らってその足首を掴み、相手の体ごと大きく上下に動かして、何度も地面に叩きつけた。

 相手は、すぐに動かなくなる。

 競技としての武道、なんだろうな。

 と、彼方は思う。

 一定のルールがあり、その上で、競うための武道。

 一撃の破壊力は、確かにありそうだった。

 しかし、それも、まともに受ければ、という前提があれば、のことで。

 もっと無茶なことをしてくれても、よかったのに。

 などと、彼方は、釈然としない感情を抱いたりする。

 これでは、あまり、今後の参考にはなりそうもない。

 彼方は、先ほどまで胸を押さえて悶絶していた、最後の一人に向き直る。

「ひっ」

 その人は、確かに悲鳴のような声をあげた。

 あ。

 と、彼方は思う。

 これは、駄目かも。

 すっかり、戦意を失っている、っぽい。

「リタイア、降参します!」

 最後の一人は、両手をあげて、そう宣言した。

 ぶん、と周囲の景色がブレるような感覚があって、中央広場に、人混みが帰ってくる。

 決闘デュエル状態が、解除されたのだ。


「派手にやったなあ」

 恭介が、すぐに声をかけてくる。

「十対一で、圧勝じゃないか」

 例によって、遥と恭介は倉庫から自前の丸テーブルを出してお茶を入れていた。

 彼方も倉庫から自分の椅子を出して、恭介の隣に座る。

 遥は、まだ顔に薄手のマフラーを巻き付けていた。

 それ、無駄だと思うんだけどな。

 と、彼方は思った。

 そもそも、三年生で、部活でも活躍していた遥は、恭介や彼方よりもよほど顔が知られている。

 今さら顔を隠しても、あまり意味がないというか。

 まあ、本人が気にしているのなら、好きにやらせておくか。

「やあ、やっぱ凄いねえ」

 Sソードマンの楪夜が、彼方が声をかけてきた。

「三人の中では、一番目立っていないと思ってたけど。

 実力は、そこいらのプレイヤーとは比較にならないっていうか」

「一番目立ってない?」

 何故か、遥が反応する。

「いつもこいつだけ、ステルスモードではなく、姿をさらしているのに?」

「いやまあ」

 楪は、露骨に遥から視線を逸らしていた。

「他のお二人は、なんというか、そう。

 毎回のキル数が、キル数ですから。

 ステルスしてても、どうしても目立ってしまう、っていうか。

 そこへいくと、どうしてもこちらの弟さんは、ねえ」

「まあ、彼方は、役割的に守る方に重点を置いているからなあ」

 恭介が、のんびりとした口調でいった。

「確かに、傍目には、あまり派手さは感じないかも知れない」

「そうそう、役割」

 楪はそうって、倉庫から椅子を出して彼方の隣に座った。

 あ、そこに座るんだ。

 と、彼方は思う。

「この間のログなんか観ても、三人の役割分担がしっかり出来てて、連携もスムーズだったな、と。

 あのコピーの方は、最初のうちはともかく、想定外の事態には弱かったな、と」

「所詮、シミュレーションだからね」

 彼方はいった。

「データとか数字からは、あの手の恭介の思いつきは、想定出来ないだろうし」

「こちらの、ええと、馬酔木くん、でしたっけ?

 馬酔木くんが、だいたい突破口になる感じなんですか?」

「危なっかしいことを思いつくのは、だいたい恭介」

 遥が、即答する。

「それで救われたことも多いけど。

 個人的には、ああいうのは、やって欲しくはないかな」

「まあ、一種の博打だからね」

 彼方も、そういって頷く。

「恭介も、他の手を思いつくようだったら、無茶な真似はしないし」

「はー、なるほど」

 楪は、素直に頷いて見せた。

「あの、仮に、ですね。

 こちのおねーさんと馬酔木くんが戦ったとしたら。

 結果は、どうなるんでしょうか?」

「こっちが勝つよ」

「そら、恭介の勝ちでしょ」

 恭介と遥が、同時に相手を指しながら、答えた。

 少し間を置いて、まず恭介が、

「おれの速度では、ハルねーの攻撃を捌ききれない。

 おれがなにかやる前に、瞬殺されて終わり」

 と意見を述べる。

 そのあとに、

「いいようにいなされて、そのあと、なにが起きたのかわからないままこっちが終わっている気がする」

 と、遥が続ける。

「なんというか、この子。

 彼方とは違って、なにをやり出すのか、読み切れない部分があるんよね。

 実戦に、それも、窮地になるほど強いのは、断然、恭介よ」

「なるほど、なるほど」

 楪は、神妙な表情を作って、頷く。

「こちらの三人が、お互いのことをよく把握しているということが、理解出来ました。

 仮に、トライデントに、これから戦闘関連の実技を教えてくださいって頼んだら、受けてくださいますか?」

「パーティとしては、受けないかな。

 受けるべき理由もないし」

 恭介は、即答する。

「どうしてもっていうんなら、彼方あたりに個人的に頼んでみれば?

 おれは、個人的にもパス」

「あ、わたしも、パス二で」

 遥が、両手をあげていった。

「そういうの、なんだかいろいろ面倒そうだし。

 というわけで、彼方、考えてあげて」

「え?」

 三人の注視を浴びながら、彼方は、珍しく狼狽えている。

「どうして、そういうことになるのかな?

 いや、基本的には、断るからね」

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