彼方の決闘
「本当に、この人数でいいのか?」
坂又どすこいズのリーダー、坂又が、彼方に確認する。
「総勢で、十名になるんだが」
「こっちは、一応、上位職なんで」
彼方は、平然とした態度を崩さすに返す。
「試したいこともあるし、むしろこの戦力差で、ちょうどいいくらいです」
「手加減をするつもりは、ないぞ」
「それでお願いします」
彼方は、そういって頷く。
今回、彼方が決闘の対戦相手として選んだのは、坂又どすこいズとSソードマンの二パーティになる。
申し込みが多かったこともあり、一度の対戦でこの二パーティ分を消化しようとしていた。
決闘システムには、人数制限がない。
システム的には、一対百四十九という無茶な人数比の対決も、可能ではあった。
坂又どすこいズとSソードマンの二パーティは、どちらも構成員のレベルは軒並み九十を超えており、すでに複数のダンジョン攻略を完了している。
つまり、トライデントには及ばないものの、それに追随する上級パーティである、と、プレイヤー間でも認識されていた。
どちらも、決して弱いパーティではないのである。
二パーティ十名と彼方は、中央広場の端と端に分かれて、そこで待機する。
「開始していいですか?」
「ああ、頼む」
彼方が確認して、坂又が答える。
次の瞬間、周囲の景色が一瞬ブレたような気がして、十一人のプレイヤーは、仮想空間の存在となる。
決闘システムが、起動したのだった。
どちらも、すでに完全武装した姿だった。
坂又どすこいズの六人は、左右に散開して、それぞれの倉庫から重火器を取り出し、彼方に銃口を向ける。
「さすが」
Sソードマンの楪夜が、パーティリーダーの奥村にいった。
「対応が、素早いねえ。
こっちは、どうすんの?」
「しばらく様子見だ」
奥村は即答する。
「あれも、この程度でどうにかなるタマでもないだろう。
おれたちの出番は、このあとだ」
その辺の判断は、意外に冷静なんだな。
と、楪は思う。
坂又どすこいズが、一斉に発砲する。
得物は、ライフル、マシンガン、無反動砲など、様々であった。
が。
「わ、すごい」
Sソードマンの内海が、感嘆の声をあげる。
「あの盾で、全部受けきっている」
「おまけに、びくともしてないし」
美濃も、そう続けた。
「あいつは、辰のダンジョンマスターのブレスを、まともに受けても無事だったそうだ」
奥村がいった。
「この程度では、どうにもならんだろう」
「あの、ひたすらデカいドラゴンか」
美濃は、なにごとか考え込む表情になる。
「だったら確かに、戦力比十対一でちょうどいいかも。
いや、こっちが、劣勢なくらいかも」
辰のダンジョンマスターは、その首が、一時期この中央広場に公開されていた。
そのため、すべてのプレイヤーが、その偉容を知るところとなっている。
当時から、
「これほどのモンスターを、たった三人で仕留めるとは」
と、呆れ半分に感心されてはいた。
「あのトライデントの一角だもんね」
内海が、誰にともなく、そう呟く。
「十人でまとめて、全力で向かっても、勝てるかどうか」
坂又どすこいズもそうだろうが、このSソードマンも、決して彼方というプレイヤーを過小評価はしていなかった。
「いくぞ、お前ら!」
坂又が、吠える。
「打ち合わせ通りだ!
囲め!」
「おう!」
坂又どすこいズの六人が、彼方の方に、一斉には駆け出す。
彼方はといえば、その場に立ったまま、悠然と構えていた。
「余裕ありすぎて、ムカつく」
その様子を見た内海が、不機嫌そうな声を出す。
「あいつら、支援する?」
美濃が、他のメンバーに確認する。
「もう少し、待っておけ」
すかさず、奥村がいった。
「すぐに、やつらに欠員が出る。
おれたちは、そこに入ればいい」
その言葉が終わらないうちに、彼方を囲んだ坂又どすこいズのうちの一人が、空高く打ちあげられている。
「ええ!」
楪が、大きな声をあげた。
「今、盾で殴ったの!
それであんな、吹っ飛ぶの?」
彼方は、両手に別の盾を持って、自分を取り囲む坂又どすこいズの面々を、一人一人順番に、盾で殴り返している。
坂又どすこいズは、武道経験者が集まったパーティであると、普段から自称していた。
事実、彼方を相手にしている坂又どすこいズの動きは、他のプレイヤーたちよりは、よほどキレがよく、様になっている。
しかし、その上で。
たった一人で相手にしている彼方は、一人一人の攻撃が当たる瞬間に合わせてカウンター気味に盾をつきだし、攻撃者を弾き飛ばしていた。
打点によって、空に浮いたり、横一直線に長距離を飛ばされたりと、実際の様相は様々であったが。
いずれにせよ、彼方が、それぞれの攻撃が来るタイミングを把握した上で、盾で迎撃し続けていることは間違いがない。
「いや、あれ、いろいろおかしいだろ!」
内海が、そう叫んでいる。
「防御力がある、硬いっていうんならまだわかるよ!
そういうジョブだって納得が出来る!
でもあれ、そういう次元じゃないし!」
「あのトライデントの一人だぞ!
弱いわけがあるか!」
奥村が叫び返す。
「やつらの戦歴を見てみろ!
そのうちどれかひとつとっても、ひたすらおかしいんだよ!」
恭介との決闘を経験しているから、というわけでもないのだが。
奥村は、決して、トライデントの三人を過小評価していなかった。
「でも、マジかー。
って、感じ」
内海が、ぼやく。
「坂又たち、少なくとも対人戦に関しては、プレイヤー内でも随一って評判だったのに」
「見た感じ、いいように弄ばれているね」
楪は、頷く。
「で、リーダー。
うちらは、あの化け物に、どういうアプローチすんの?」
「決まっている」
奥村は、自分の剣を鞘から抜いていった。
「正面から、真っ向勝負だ」
「マジかー」
内海が、またぼやいた。
坂又どすこいズが、一人、また一人と姿を消していく。
彼方による直接的なダメージ、ではなく、何度も吹き飛ばされ、地面に叩きつけられたダメージが累積して、死亡判定が出たようだ。
坂又どすこいズのメンバーは受け身が取れる者が多かったが、それも、五メートルとか十メートル以上吹き飛ばされた末、地面に叩きつけられることまでは想定していない。
いくら高レベルのプレイヤーがタフであるとはいっても、その耐久性にも限界はあった。
「打撃系は避けられるか弾かれるかするものだと予想していたが」
坂又はいった。
「まさか、組みつくことさえ、出来ないとはなあ」
「いや、盾が使えれば、こうするでしょ」
彼方は、平然と答える。
「武道とか格闘経験者と、まともに接近戦をするはずがない。
怖いし」
「怖いとか、君がいうなよ」
坂又は、そう答える。
「どちらかというと、君、いや、君たちの方が、恐怖の対象だ」
「まあ、そうでしょうね」
彼方は、頷く。
「客観的に見れば、そうなると思います」
一応、自覚はあるらしい。
「と。
Sソードマンが動いたか」
坂又は、背後を振り返って、そういう。
「しばらく、お手並み拝見といこうかな」
軽く片手を振って合図をすると、残っていた坂又どすこいズがすっと彼方から距離を取る。
なんだかんだいって、余裕があるじゃないか。
その様子を見ていた彼方は、そう思った。
多分、だが。
この二つのパーティが即席で連携するほど仲がよいとも思わないので、お互いに足を引っ張って、邪魔をしないようにとの配慮から、だろうけど。
彼方には、そんなことよりも、この場ですぐに指示を徹底出来る、坂又の統率力の方に感心している。
一方、Sソードマンに注意を向けると、やはり、真っ先に突っ込んでくるのは、リーダーの奥村だった。
そのこと自体は、意外でもないのだが。
あー、ステルスモード、出来る人が、居るのかあ。
こちらにも、彼方は関心をする。
むしろ、馬鹿正直に突っ込んでくる奥村を陽動として、他の面子が勝手に動いている感じだろう。
これは、これで。
練習には、なりそうかな。
と、彼方は思う。




