戦利品
「ああ、やっぱり師匠たちでしたか」
夕食の席で、赤瀬がいった。
「ここ何日か停滞していたのに、いきなりダンジョンマスター討伐に成功したっていうから、多分そうなんじゃないかな、とは、思っていました」
「他に出来そうなパーティ、思いつきませんしね」
仙崎も、そう続ける。
「ユニークジョブズの二人が他のパーティと組めば、可能性がないわけでもないですが」
「あの二人だけでは、難しいの?」
恭介が確認する。
「戦力的には、十分にいけそうに思うけど」
「力押しでいけるダンジョンばかりでもありませんからね」
青山が、説明してくれる。
「巳のダンジョンなんてモンスターが少ない代わりに転移魔方陣だらけで、途中で先に進む気力がごっそりもっていかれるらしいですし」
「戦闘だけ出来ればいいってダンジョンばかり、というわけでもないのか」
彼方がいった。
「今日のダンジョンマスターは、大勢の手下に囲まれてなんだか偉そうな感じだったけど」
「初っぱなにキョウちゃんが半分以上倒しちゃったから、結果としてたいしたことなかったけど」
遥も、そういう。
「あれが全部残っていてまともに突入していったら、たいていのパーティはクリアを諦めるでしょう」
「多分、だけど」
恭介も、意見を述べた。
「あのダンジョンマスター、統率力に優れた、組織力で戦うタイプだったんじゃないかなあ」
「そうかもね」
彼方も、恭介の言葉に頷く。
「しょっぱなに大ダメージを与えたおかげで、今回はかなり楽を出来たけど」
「キョウちゃんの大規模魔法は、反則クラスだからねえ」
遥がいった。
「これがゲームなら、絶対途中でナーフされているよ」
「それで、師匠ズ」
緑川が、訊ねる。
「今回の戦利品は?」
「まず、例によって、ジョブチェンジの宝玉が人数分、計三個。
それと」
彼方は、そこまでいいかけて、恭介や遥と顔を見合わせる。
「やはり三個、人数分、ダンジョンマスターを倒したあと、宝箱が現れて」
「中身は?」
桃木マネージャーが、訊ねる。
「もう、開けたんですよね?」
「あけたけど、これは、換金は出来ないかなあ」
彼方は、答えをぼかした。
「どうも、特定の個人専用のようだし」
「これ、なんだけどね」
遥が、倉庫からなにかを取り出す。
「どうも、服、装備らしい。
それも、三人それぞれのサイズにぴったり合わせた」
「え、ちょっとよく見せて」
武器職人の岸見が、席を立って遥の手元を覗き込んだ。
「なに、これ。
とんでもない、補正性能。
噂に聞く聖女様専用装備にも劣らないくらいのスペックじゃないですか!」
「性能はともかく、色とかデザインとかが、ね」
遥が、ため息混じりに答える。
「なんかわたしのだけ、布地が少なすぎない?」
「布地の面積だけでいうと、陸上部のユニフォームも似たようなもんだと思うけど」
恭介はそういって、遥から軽く睨まれる。
「男子二人はいいよ」
遥は、クリを尖らせて、いった。
「露出度も少ないし、なんか、オーソドックスなデザインだし」
「そうかあ」
恭介は、首を傾げる。
「おれのは、まあそんなに奇抜でもないと思うけど。
彼方のは、なんというか」
「ああ」
「黄色?
金色?」
「目立ちますね、これ」
「警戒色のつもり、なのかねえ」
彼方は、苦笑いを浮かべる。
「まあ、タンクとしての役割を考えると、目立ってなんぼの部分もあるんだけれど」
「彼方の分だけ、甲冑というか装甲、ごてごてとついて」
遥は、まだぶつくさと文句をいっている。
「こっちなんて、ほとんど布地だけなのに。
黒一色で、地味だし」
「で、でもまあ」
「ビキニの水着よりは、布の面積大きいですし」
慌てて、青山と仙崎が遥を慰めはじめた。
「それにこれ、補正値凄いですよ!
特に俊敏と速度が、ともに二桁プラスで!」
「そうそう!
これだけの性能を持つ装備、滅多にないですよ!」
「比較対象が水着っていうのがなあ」
遥は、愚痴り続けた。
「下手に高性能なのが、かえって腹立つというか」
恭介の戦利品もほとんど服だけであり、かろうじて革製の手甲が添えられている程度の軽装だった。
色はライトブラウンで、町中で着ていてもさほど目立たないデザイン。
光源に乏しい場所や森の中では、迷彩色として機能しそうに感じた。
「でも、こういうの着るの、戦闘する時だけだしね」
彼方はいった。
「仕事着だと思って割り切るしかないよ」
「まあいいや」
ようやく、遥が立ち直る。
「これ着る必要がある時は、出来るだけステルスモードになろう」
「ちょっとそれ、見せて貰ってもいいですか?」
今度は、樋口がそういって近寄って来る。
「後学のために」
樋口は結局、あれからお針子のジョブに転職し、正式に酔狂連の一員となっている。
ジョブこそ一般職ではあったが、関連するスキルを片っ端から取り、今後は服飾関係の生産職として活動するつもりだという。
後学のために、というのも、まんざら嘘でもないのだろう。
三人はしばらく樋口に戦利品を預ける。
樋口は、受け取った戦利品を広げて、隅々まで検分しているようだった。
「服っていえば、魔法少女隊の服、もう出来たの?」
遥が、訊ねた。
「ちょうどいい繊維が開発出来たので、それを使って布地を作って、作っている最中です」
樋口が、戦利品を調べながら顔もあげずに答える。
「デザイン面の要望をまとめるのに時間がかかりましたが、あと何日かあれば完成しますね」
「繊維から、かあ」
遥がいった。
「よくわかんないけど、大変そう。
元の糸とか布とかは、他の人の仕事なん?」
「まあ、そうだなあ」
八尾がいった。
「うちのリーダーは錬金術師なんで、新手の素材はだいたいこいつが作ったもんだ。
性分なのか、普段はあまり前に出ないんだが、仕事はしっかりやっている」
「でも、布から作るって、大変ですよねえ」
彼方がいった。
「編み機とか、マーケットで売っているんですか?」
「手動の機織り機というのは、売っていた」
三和がいった。
「多少時間はかかるが、糸だけ渡してあとは人形任せになるな」
「なるほどねえ」
恭介は、その言葉に頷く。
「こんな環境なら、極端な大量生産も必要ないしな。
需要が生じた時に、それに応じた分だけ生産する方が合理的か」
「普通の服なら、マーケットで買えるしね」
岸見がいった。
「今回は、物理と魔法の防御力とか、ちょっと特殊な注文だったんで、うちのリーダーも張り切って新素材を開発しちゃったんだけど。
あ、四人の新しい服ね、性能的にはこの戦利品と比べるとたいしたことないけど、それでも防御補正がかかっているよ」
「ただこの新素材、色とかを選べないのが、難点でして」
桃木マネージャーは、そういう。
「メタリックシルバーで光沢のある服って、着こなすのは難しいでしょ」
「その辺は、上に羽織るものとかで調整しました」
樋口がいった。
「トータルで見ると、さほど奇抜ではないデザインを目指しています」
その新素材の服とやらは、どうやらインナー扱いになるようだった。




