試食
三人で拠点に帰ると、出来たばかりの跳ね橋が勝手にあがって、三人を招き入れた。
三人はマウンテンバイクに乗ったまま、宿舎にまで直接向かう。
跳ね橋を通過する際、門番の人形が片手をあげたので、こちらも片手をあげて挨拶を返した。
人形、ああいう使い方もありなのだな。
と、恭介は思う。
単純な動作を繰り返すことと、単純な判断、たとえば、特定の人物を見分けて門を開く、などは、可能なようだ。
一体になんでもはやらせようとはせず、単機能に徹すれば、それなりに使えるギミックではあるのだろう。
ライン工のような作業とは、相性がいい気がする。
そうして帰宅した直後、同じくマウンテンバイクに乗った樋口がやって来た。
「随分とタイミングがいいんだな」
恭介が、そういうと、
「八尾さんが、今帰ったところだからと教えてくれて」
と、樋口が答える。
どうやら門番の人形は、誰かが訪問したり開門をする度に、八尾にその旨を知らせているらしい。
「それで、今日はなんの用かな?」
遥が、首を傾げる。
「夕食の準備を手伝ってこいって、いわれて。
酔狂連は、いつもご馳走になってばかりだから」
樋口は、そう答えた。
「あと、この前、ダンジョン攻略で手に入れたモンスター肉、試験的に加工してみたから、そちらの感想も聞いて来いっていわれた」
「モンスター肉、か」
彼方は、難しい顔になる。
「そちらには分析者が居るから、有害な物質が含まれているとは思わないけど。
でも、味とかは、大丈夫なのかな?」
「だから、試食して見てくれ、って」
樋口は、そう続ける。
「燻製とかハムとか、あと、硬い部位なんかはミンチにして脂肪分なんかと混ぜて、ハンバーグにしている。
他にも、いろいろ。
完成までに日数がかかるのもあるから、今日持って来たのは、燻製とハンバーグ、ミートボールってところ」
「いろいろ考えるもんだなあ」
恭介は、素直に感心している。
「確かに倉庫の肥やしになっている現状よりは、有効な利用法だとは思うけど。
手間を考えると、割に合わないだろう」
「だから、試してみて、好評だったら、このまま増産して売ろうって」
樋口はいった。
「八尾さんたちは、そういっている」
「売るのかあ」
彼方は、少し考え込む表情になる。
「手を抜いているとは思わないけど、この世界、保健所も医院もないからなあ。
自分たちで消費する分ならともかく、売るとなるとかなりの覚悟が要ると思う」
「まあ、それは、酔狂連さんが考える問題だしね」
遥は、そういった。
「あっちには分析者が居るんだから、ヤバそうな成分とかは、あらかじめ取り除いているでしょ。
樋口ちゃん、中に入って。
その毒味、じゃなかった、試食ってのを、やってみましょう」
薪ストーブの間、テーブルの上に、樋口がいくつもの皿を出して並べていく。
「ハンバーグとミートボールは、加熱した状態で持って来ました」
樋口が説明する。
「味を確かめて貰うため、余計な調味料やソースはつけていません。
燻製の方は、少し塩味が濃いと思いますが」
「燻製は、保存食だからね」
彼方は頷く。
「味を濃くするのは、避けられない。
先に、ハンバーグとミートボールの方、試そうか」
各品、一品ずつ、皿の上に載せられて、人数分、用意されていた。
三人は、普段使いの箸を倉庫から取りだして、まずハンバーグに箸をつける。
「柔らかいな」
恭介がいった。
「つなぎにパン粉とか、使ってるやつ?」
「挽肉と脂肪分だけ、ですね」
樋口が答える。
「刻んだタマネギとかは入っていますけど」
「あんまり、味がしないっていうか」
一口、口の中に入れて咀嚼してみた遥が、感想を述べる。
「肉とか脂肪分の味は、あるけど。
このままだと、なんか淡泊」
「その辺は、焼く段階で、ソースとかで補わないとね」
彼方は、そういう。
「目茶苦茶おいしい、ってわけでもないけど、これはこれでいいと思う。
ソースを工夫してバンズとかで挟めば、普通に売れると思うよ」
続いて、三人は、ミートボールに箸を延ばす。
「味は、ハンバーグとほとんど変わらないな」
「若干、歯ごたえっていうか、コリコリした食感はある」
「これ、砕いた軟骨とか入れてない?」
「ご名答です」
樋口は頷いた。
「よくわかりましたね」
「これだけ出されたら、あまり気にならなかったけど」
彼方がいった。
「ハンバーグのあとだったからね。
どうしても、比較するよ」
最後の燻製に、三人は手を掛けた。
「思ったよりも、手にした感触が硬いな」
「ジャーキーってやつとは、また別なの?」
「ジャーキーは、肉に調味料とかを擦り込んで乾燥させたやつ。
作ろうとすると、乾燥させるのに日数がかかるし、燻製とは違うね」
疑問を口にした遥に、彼方が説明する。
「これ、分類としては、スモーキージャーキーになるんだと思う。
多分、だけど、肉質が硬いんで、薄切りにして燻したのかな?」
「ベーコンは作らなかったの?」
恭介は樋口に質問する。
「あれも、分類としては、燻製の一種になるんだけど」
「作ったんですけど」
樋口は、わずかに視線を逸らす。
「好評すぎて、作った分はみんなで食べてしまいました。
また作ると思います」
「別にいいけど」
恭介は、そういう。
「こっちに持って来たのは、判断に迷うような微妙なやつか」
「いい方」
彼方は、苦笑いを浮かべる。
「多分、味つけとかについて、意見を聞きたかったんだと思うけど。
でも、この燻製」
「うん」
遥も、なにかをいいかけた彼方に、頷く。
「硬いね、これ。
あと、味つけが濃い」
「塩分が、ね」
恭介も頷く。
「保存性を考えると、どうしてもそうなるのか。
あとこれ、噛んでも噛んでも、味が薄くならない気がする」
「これはこれで、ジャンクな魅力があるよね」
彼方はいった。
「お酒を飲む人には、ちょうどいいのかも知れない」
年齢からすれば当然なのだが、三人とも飲酒経験はない。
「確かに、これも生産ではあるけどさあ」
遥が、感想を述べる。
「あっちはあっちで、なんか方向性違ってない?」
「どちらかというと、うちの影響だと思うけど」
恭介はいった。
「食糧生産とか、うちとのつき合いがなかったら、自分たちだけではやらなかったと思うし」
「かもね」
彼方も、恭介の言葉に頷く。
「それはそうと、このハンバーグとか、まだ持って来ているんでしょ?
だったらこれ、今夜の夕食にしようか。
つけ合わせは、マッシュポテトとゆで野菜でいいかな」




