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高校生150名が異世界廃墟に集団転移したようです。みんなは戸惑っているようですが、おれたち三人は好きにやらせて貰います。  作者: (=`ω´=)
ダンジョン篇

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武器職人

「さっきの銃、ちょっと手を入れてみたんですけど」

 一度プレハブの中に姿を消した岸見が、また出て来た。

「今度はもうちょっと、グリップの熱が抑制されるはずで」

「対応が早いな」

 恭介は素直に感心する。

「そんなに急がなくてもいいのに」

「身近に、魔力電池の開発者が居ますもので。

 短所は、早めに潰しておきたいな、と」

「あの二人が開発者になるの?」

「そうっすね。

 分析者と研究者の姉妹」

 岸見が、頷く。

「魔力関係の素材とか機構は、だいたいあの二人が出所と思っていいかと」

 とんだVIPではないか。

 と、恭介は感心する。

 おそらく、だが、そんなことに注力しているプレイヤーは、他にはいないだろう。

 他のプレイヤーは、この時点ではもう少し目先のことにばかり、捕らわれている。

「こっちとしては、ありがたいんだけどね」

 恭介は苦笑いした。

「それでこの銃、もう名前とかあるの?」

「ああ、名前」

 岸見は即答する。

「ZAPガンです」

「ディックかよ」

 恭介が秒で突っ込みを入れる。

「いや、マニアックなところを突いてくるなあ」

「キョウちゃん。

 解説プリーズ」

 遥が恭介の肩をつんつんと指でつついて、より詳細な解説を求める。

「ああ。

 前提として、「ZAP!」っていうのは、アメコミとかで使われてた擬音でね。

 こう、光線銃とか発射する時の、擬音」

 恭介は、とうとうと説明しはじめた。

「ディックって作家の作品にも、ZAPガンっていうのがあるんだ。

 おれは、読んだことはないけど」

「読んだことはないけど、知ってはいる、と」

「爺さんところの古本、そういうのが多かったからなあ」

 恭介はいった。

「そのディックって作家も、何本かはハリウッドで映画化されているし、それなりに評価されている人なんだけど。

 ただ、多作だったから、B級とかC級とかの作品も結構残していて。

 で、そのZAPガンも、その作家の中では、あまり出来がよろしくない作品という評価になっている。

 日本では、大昔に一度だけ邦訳されていたはずだけど、実際に読んだ人は少ないんじゃないかな」

「そういうことになると、結構多弁になるよね、キョウちゃん」

 遥はしみじみとした口調でそういって、頷いた。

「で、そんなマニアックなネーミングを採用していたことに、驚いた、と」

「お見それしました」

 岸見がなぜか、恭介に頭をさげる。

「こんなマニアックな元値を即座に見抜いて突っ込んでくれる方がいらっしゃるとは」

「なにそのまったく嬉しくない賞賛の仕方」

 恭介は途方にくれる。

「いや、まあ。

 こっちとしては、名称なんてどうでもいいんだけど。

 前の話では、これ、ほとんどおれしか使わないってことだよね?」

「そのZAPガンは馬酔木氏専用のものですが、同類で、もう少し魔力の少ない方でも使いやすい物は、別に開発して販売する予定があります」

 岸見はいった。

「そのZAPガン、形状は銃ですが、機能的には魔法の杖やステッキの同類になるわけでして。

 あれらに、効果範囲を指定して、指向性を持たせたものになります。

 用途が限定される分、かえって、魔法の初心者には扱いやすいかと」

「うーん。

 そんなもん、なのかなあ」

 恭介は、少し考え込む。

「正直、特に初心者向けってところに、実感がわかないけど」

 でもまあ、武器職人の人がそういうんなら、そうなのだろう。

 恭介の感覚を言語化すれば、そういうことになる。

「イメージの問題、といいましょうか。

 元の世界では魔法がありませんでしたから、いきなり魔法のアイテムを使いこなせと渡されても、戸惑う方が多いわけです」

 岸見は説明してくれる。

「その点、これは、銃という形状で破壊にしか出来ない。

 銃口を向けた先にしか破壊できないし。

 用途が限られている分、想像力がない方にも、気軽に使いこなせるわけです」

「なんか、わざと物騒ないい方してない?」

「これでも、武器職人ですからね」

 岸見はそういって、首を横に振った。

「基本的に、わたしが作る物は物騒なものばかりですよ。

 その性質を自分で忘れているよりは、普段から肝に銘じておく方が健全です」

「難しいんだねえ」

 恭介は、そう感想を述べる。

「そこまで卑下する必要も、ないと思うけど」

「今までは、モンスター退治とかダンジョン攻略とか、そういった具体的な目的が与えられているから、まだしも存在価値があるわけですが」

 岸見は、そういった。

「そうした目的が達成された時、わたしやわたしが作った製品がどのように利用されるのか。

 そうしたことを想像しますと、あまり楽観的な気分にはなれませんよ」

「武器だって、単なる道具だ」

 恭介は断言する。

「その道具がどう使われようが、道具の開発者が責任を問われるのはおかしい」

「責任の問題というより、これは、感情論なんですよ」

 岸見はいった。

「将来、仮に、プレイヤー同士がわたしの開発した武器を使って戦うような事態になったとしたら。

 責任があってもなくても、わたし自身は自責の念に駆られるでしょう。

 武器職人というのは、構造的に、そういう役回りだと思っています」

 特に気負ったところも悲壮感もない、平静な態度、だった。

 だからなおさら、恭介はその態度に引っかかりをおぼえる。


 流石にやることがなくなったので、トライデントの三人はその場から去り、自分たちが寝泊まりしている家へと向かう。

 なんだかんだで、いい時間になっていた。

「ぼちぼち、夕食の準備をしなけりゃなあ」

 彼方が、ぼやく。

「今晩は、なんにしよう」

「昨日は結構張り切っちゃったし、簡単なものでいいんじゃない?

 麺類とか、あまり手間がかからないもの」

 これは、遥の意見。

「彼方に任せておくと、ラーメン作るのにスープから作りはじめかねないからな」

 恭介はいった。

「煮込むだけで、十時間以上もかかるやつとか」

「いや、別に、そこまで凝らないから」

 彼方はそう答える。

「たかが一食に、そこまで手間をかけるなんて」

「いや、やりかねない」

 遥が一蹴する。

「彼方、コスパとか無視して暴走する時、わりとあるし。

 とにかく、今夜は手抜き。

 麺ゆでて、出来合いのスープと合わせて終わり、みたいな」

「パスタなんていいんじゃないのか? 

 ちょっとお高い市販のソースを使えば、それなりの高級感も出るし」

「あと、サラダくらいはつけて、ね」

「そういや、魔法少女隊の子たちは、今日は市街地に行ってたんだっけ?」

「朝は、聖堂だか排水溝の整備を全員で手伝う、とかいってたかな」

「時間的に、ぼちぼち帰って来そうだけど」

「酔狂連の人たちは、夕食どうするんだろう?」

「自分たちで用意するでしょ。

 これまでも、そうして来たはずだし」

「それもそうか。

 ええと、こっちに転移してきたから、今日で……」

「オーバーフローが終わったのが、五日目で」

「今日で七日目、ということになるのか。

 ああ。

 そういや、こっちに来てから、まともに休んでいないな」

「あ」

「そういえば」

「バタバタしていたから、仕方がない部分はあるけど」

「曜日の感覚も、すっかりなくなっているし」

「ダンジョンが解放されるの、明日の朝だっけ?」

「そういってたね」

「じゃあ、明日一日くらいは、休みにするか?

 あんまり働き通しだと、かえって効率が悪いし」

「そうだねー。

 たまには、なにも予定を入れない日があってもいいよねー」

 もともと、トライデントはダンジョン攻略について、

「最初のうちは様子見をする」

 と、そう決めている。

 だから、そんな日を休日にすることに対しても、なんの抵抗も感じなかった。

「こっちはそのつもりでも、生徒会から招集がかかったりして」

「いや、マジで来そうだから。

 そういうこと、あえて口にするのはやめろ」

「とにかく、明日は一日、休みとする。

 それでいいよね?」

「賛成」

「休もう、休もう」

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