私は設定メーカー
この世界には魔法は存在しない。でも、ゴブリンはいる。彼らは人間を襲っては食料を奪っていた。ひどい時には人間を捕まえて食べることもあった。だが、人間もゴブリンに対抗するために「対ゴブリン特殊部隊」を設置していた。ゴブリンに妹を殺された少年真幸は部隊に入りゴブリンを根絶やしにするために日々ゴブリンと命がけの戦いを繰り広げていた。
「こんなあらすじでどうかしら?ねえ、聞いてるの?」
「ん?あぁ、聞いてなかった。もう一回おねがいしまーす」
やっぱり聞いてなかったらしい。メモする様子もなかったし。人に頼んでおいて、話を聞かないのは小説家の習性かしら?
「小林さん、次はちゃんと聞いてくださいよ?それと、メモも」
「はーい。」
「この世界には・・・」
今回はちゃんと聞いていたようだ。メモもとってる。
「あー、いいね。その設定」
「満足してくれて何よりです」
彼女は何か聞きたそうにしている。私も彼女に聞きたいことがある。
「何か質問があるならどうぞ」
「彼氏います?」
いるわけねーだろ。怒りを込めて睨み付けてやった。視線の先にはにっこり笑ったクソヤロウがいた。
「私も-」
「出禁にしますよ?」
「すみません。調子に乗りすぎました。出禁にしないで下さい。お願いします」
ウザい。
「で、本当の質問は?」
「いやー、何でそんなにぽんぽん設定思いつくのかなーって」
「設定メーカーだからですけど?」
私は小説家が一部だけを考えた設定に合わせて、他の設定を考える設定メーカーをやっている。自分で言うのも何だが結構人気がある。まあ、多分私しかしてないからだろうけど。
「答えになってない気がするけどまあい-や。困った時はまたよろしく」
そう言って、彼女は店をあとにした。聞きたかったことを聞けなかったけどまあいいや。すると、分厚い封筒を持った中年くらいの男性が入店してきた。原稿でも入っているのだろうか?
「いらっしゃいませ。本日はどんな依頼でしょうか?」
すると、男性は封筒から原稿を取り出した。驚いたことに白紙だ。
「雑誌に載せる小説の執筆依頼の仕事を受けて、設定は考えたんだけど、原稿用紙40枚分も書けなさそうなので、あなたに設定の拡張のための意見をもらいに来ました」
「承りました。では、設定を教えて下さい」
男性は私に紙を手渡した。見て思ったのだが、内容がとても薄かった。なぜ仕事の依頼がきたのか分からないレベルで薄かった。多分誰かの代打だろう。まあ、とにかく、薄かった。
ストーリーをざっくりまとめるとこんな感じだ。
巨大な帝国の滅亡により、世界は混乱に陥った。そんな時代、大志を抱く青年がいた。彼は自称神に力を授かり新たな帝国をつくる。
「あの、単刀直入に言わせて頂くと、とても薄いです。これじゃあ1枚書くのが限界ですよ」
「いやちゃんと見てくれ、自称神だぞ?そんな怪しい奴の力で帝国をつくれるんだぞ?薄くないでしょ」
あーこれ、自分を天才だと思ってるタイプの人だ。面倒くさ。
「まず、自称神とどうして出会うのか?それに、なぜ自称神は帝国をつくれるほどの力を持っているのか?なぜ自称神は青年に力を与えたのか?など疑問が多くあります」
「えー、そんなにあるの?」
正直もっとある。が、男性は明らかに面倒くさそうにしていた。私のの方が面倒くさいんですけど?いらだちを抑えて、また疑問をぶつける。
「自称神と青年の名前や過去は決めていますか?」
「自称神に名前は無いけど、青年には栄政って名前が付いてるよ」
「それは絶対ダメです。もともと某人気マンガと方向性が近い作品なのに、登場キャラクターの読みがまったく同じなのはよくないです。」
「ああ、キン○○ムね。確かにちょっとだけ参考にしたかも」
「気をつけた方がいいですよ。下手したらパクリって言われますし」
と、いった具合に私はいつも仕事をしています。小説を書いていて、何か困ったことがありましたら、ぜひ私の店に足を運んでみてください。
Tell ○9○-117○-38○○
住所 ○○県○○市○○区○○○○番○○号