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毛むくじゃらの杖

作者: FUJIHIROSHI
掲載日:2023/11/17

 むかしむかしある山深い村に、お爺さんがおりました。


 若い頃に妻に先立たれ、子供にも恵まれず、お爺さんは一人でしたが、とても優しくて正直者でした。


 ある日のこと、お爺さんが山にきのこ狩りに行くと、猟師が木の上の親子の猿を鉄砲で狙っていました。


 お爺さんは、

「すまんが、あの親子の幸せを奪わんでくだされ。どうか見逃してやってはくれないか」

 と猟師を止めますが、猟師は聞く耳を持ちません。


 そこでお爺さんは、籠からきのこを取り出すと、親子の猿へ向かって放りました。


 気づいた母猿は小猿をくわえて逃げました。


 怒った猟師は、

「何するか!」と後ろからズドン! と、お爺さんを撃ち殺し、山を下りて行きました。


 しばらくすると、先ほどの親子の猿がお爺さんのもとにやってきて、

「おおお、神様、このような優しいお爺さんを連れて行かないでください。今すぐ生き返らせてください」

 と母猿は祈ります。


 するとどうでしょう、どこからともなく真っ白な長い髭を垂らし、杖を手にした神様が現れました。


「人間を助けようとは、奇っ怪な猿め。望みを叶えてやらんではないが、命が一つ必要じゃ。どちらかの命を差し出すがいい」


 すぐさま母猿は、

「私を」

 と答えました。


「いやだ、いやだ」

 と小猿がすがりつきますが、母猿は


()()()()で返すのですよ。これからは優しいお爺さんと暮らしなさい」


 そう言って、優しく小猿のほっぺたを舐めました。


「よかろう」

 と神様が杖を地面に突き立てると、母猿の体は毛むくじゃらの杖に変わりました。


「杖になった母猿は戻らぬが、それはどのような願いも三つだけ叶えることが出来る。ただし、それ以上を願えばその身は滅ぶじゃろう」


 それだけ言うと神様は消えてしまいました。


 小猿は涙を流しながら毛むくじゃらの杖を持ち、願いを言います。


 すると、たちまちお爺さんは生き返りました。


 不思議そうにキョロキョロしているお爺さんに、小猿がいきさつを話すと、

「そうじゃったか、それはすまないことをしてしまった。ありがとう」


 こうしてお爺さんは子猿と一緒に山を下りました。


 お爺さんは小猿に『小太郎』と名付けて、仲良く幸せに暮らしました。


 そんなある日のこと、日照りがあまりにも長く続いたせいで、田んぼは干上がり、飲み水も無くなりそうになってしまいました。


 ほとほと困り果てていた村人たちの前に小太郎を肩に乗せ、毛むくじゃらの杖を持ったお爺さんがやってきました。


「おお、爺さんかい、こんだけ雨が降らん日が続いちゃあ困ったもんだよなぁ」


 村の男が言うとお爺さんは毛むくじゃらの杖を掲げて願いました。


「お願いですじゃ、雨を降らせてください」


 すると、すぐに黒い雲が空を覆い、ポツリポツリと大きな雨粒が落ちてきたかと思うと、すぐにざあざあと雨が降ってきました。


 村人たちは大喜びでお爺さんに感謝をしました。


 ただ一人、それを見て青ざめた顔をして震えていた男がおりました。


(死んだはずの爺さんが生き返っただけじゃなく、魔術を使いおった)


 それはお爺さんを撃ったあの猟師でした。


 次の年の大雨の時期、今度は雨が止みません。川は氾濫し、村の離れにあるお爺さんの家は無事でしたが、幾つもの家が壊され、人が流されてしまい村人たちは大雨の中、広場に集まり途方に暮れました。


 そこへ小太郎を肩に乗せたお爺さんがやって来て、毛むくじゃらの杖を掲げました。


「村をお救いくだされ」


 たちまち雨は止み、川の流れは穏やかに、雲は流れ、太陽が顔を出しました。


 村人たちは大喜びでお爺さんを「奇跡じゃ、奇跡じゃ」と褒め称えました。


「みんな、騙されるんじゃあねえ、その爺さんはバケモンだ」


 突然、男が叫びました。


 やはり、あの猟師です。


「天気を操ってわしらの苦しむ姿を楽しんでいるに違いねえ。現に、爺さんの家はなんともねえじゃねえか」


 村人たちはとても信じられませんでした。


「実はわしは、あの爺さんを()()()()撃ち殺しちまったんだがピンピンしてやがる。きっとバケモンになっちまったんだぁ」


「嘘言うでねえよ」「ほんとかぁ?」「撃っただか?」「確かに雨は降らしたがぁ」「そんなバカぁな」「わしらの為でねぇか」「豪雨を降らせたのも爺さんなのかぁ?」「なんだとぉ?」「爺さんちは無事だぁな」


「まさか全部、爺さんの仕業かあ」


「バケモンの魔術を使うんか?」


「流されたうちの子を返せ!」


「死んじまった女房を返せやあ」


 半信半疑だった村人たちの目は次第に狂気に満ちていき、怨みを口にしながらお爺さんを取り囲みます。


 素早く肩から飛び退いた小太郎は無事でしたが、お爺さんは無惨にも怒り狂った村人たちに殺されてしまいました。


 残された毛むくじゃらの杖を小太郎は手にすると、涙を流しながら叫びました。


「お願いです。もう一度お爺さんを生き返らせて!」


 杖はもう願いを三つ叶えているので、その願いが聞き届けられることはありませんでした。


 それどころか毛むくじゃらの杖は粉々になり、小太郎の体もひび割れて崩れ始めました。


「お爺さんはみんなを助けていたのに! お母さんの命を無駄にしやがって! お前らをゆるさないぞ!」


 小太郎の涙が血の涙に変わっていきます。


()()()()で返しでやるあぁ」


 崩れ出していた小太郎の体の中から、まるで殻を破るように真っ黒な体が現れ、大きく、大きくなっていき、同時に金色の太い毛が生え出しました。


 なんと小太郎は十尺ほどの大鬼金猿おおおにきんざるとなってしまいました。


「ゆるざねぇ、ぼ、おで、おでがおめえらを、ごろじでやるぁ」


 それを見た村人たちは恐れおののきました。


 腰を抜かすもの、逃げ出すもの、助けを乞うもの。


 そのすべてを小太郎は、


 その丸太のような剛腕で、


 その鋼のような牙と爪で、


 引き裂き、食らいつくしました。


 鬼となった小太郎が山奥へ帰る時には、もう村には誰一人生きている者はいなかったそうな。



 おしまい

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