ラブホはエッチなことをする場所です
バイトを始めた頃の話。
※下ネタ注意! 苦手な方は回避して下さい。
《前回までのあらすじ》
高校を卒業して大学生になった東雲陽斗(18)! ウキウキで一人暮らしを始めたのにアレレ? トイレに変なおじさんがいるよ! お風呂場には髪の長いセクシーなお姉さん! ワンルームの部屋には元気なショタっ子! どうしよう静かに暮らしたいのにこれじゃ全然落ち着かないよ(><)
そこに現れたのは祓い屋十六夜伊月☆彡 華麗に除霊してくれたけど10万円なんて高すぎるよ〜! 「オマケして」って頼んだけど「身体で払え」って言われっちゃった☆ これから俺どうなっちゃうの〜!! ドキドキッ♡
「――というわけで今日からバイトに来ました、東雲陽斗です。よろしくお願いします」
アルバイト初日、陽斗の挨拶に伊月はゲンドウポーズでニッコリと微笑んだ。
「思ってたよりずいぶん愉快な子だねぇ」
「オバケ関連全く見えないのに祓い屋でバイトとか場違い感凄くて混乱してます」
「ああ、なるほどね。大丈夫、見えないなら見えないで使い道はあるから安心していいよ」
「使い道……あの、バイト代聞いてなかったんですけど」
「時給は1000円だよ」
「少な……(少ない)」
「漏れてる漏れてる。まあ、相場より少ないけど不景気だから、ゴメンね」
「はぁ、頑張ります」
「あと、しのにょめって噛みそうになるから名前で呼んでいーい?」
「いいですよ。俺も下の名前で呼んでいいですか?」
「うん、十六夜って長いよねぇ。よろしくね、陽斗くん」
「よろしくお願いします、伊月さん」
こうして陽斗の祓い屋でのバイトがスタートしたのだった。
祓い屋は陽斗が思っているよりも繁盛しているらしく、いつも何かしら依頼が入っていた。
大体は陽斗と同じような除霊をして欲しいという案件が主でこれは事故物件を持つ不動産会社だったり、こっくりさん等の降霊術に失敗したとか、病院では問題ないと言われたがとにかく体調が悪いから一度見て欲しい等々理由は様々だった。
意外だったのが社会的地位の高い人物からの依頼が多い事だ。政治家や企業の社長、金融関係者等、偉い人は何かと妬まれるし恨まれるらしく呪われやすいらしい。
それを知った時、「俺の給料もうちょっと上げられるんじゃあ……」と言って見たものの「試用期間中だからもう少し頑張ろうか」と誤魔化されてしまった。いつの間に試用期間になっていたのだろう。そして正式採用があるのか……? 疑問だが聞いたらやぶ蛇な気がしてやめた。
あともうひとつ、たまに困った依頼がある。
「彼氏と肝試し行った時にぃスマホ落としちゃったんでぇ、拾ってきてもらえませんかぁ?」
今回のような依頼である。
「君みたいな人たまに来るんだけど、うち何でも屋じゃないんだけどなぁ。その彼は取ってきてくれないの?」
伊月はいつも通り表面はにこやかにしているが、少しイラついてるのか威圧的な笑みになってしまっている。
「そーなの! ケンちゃんが自分から行こうって言い出した癖にエリ置いて先に逃げるし怖がっちゃって全然アテにならなくってぇ」
「じゃ自分で取りに行けば?」
「もぉ! ひとりじゃ怖いから頼んでるんじゃないですかぁ!」
ぷん! と頬を膨らませる女に陽斗は戦慄した。この女には伊月から発するおどろおどろしいオーラが分からないのだろうか。いや、実際陽斗にもオーラなんて見えないが、もうちょっと空気を読んで欲しい。伊月の機嫌が急降下して周囲の温度がどんどん下がっている気がする。
「とにかくうちの仕事じゃないからお断り」
こんな事を言っているが、同じ内容でも進んで受ける時もある。今回はこの女の態度が気に障ったようだ。
「えぇ〜! そんなの困るんですけどぉ!」
こっちからすればそんなの知ったこっちゃねぇという話なのだが。
その時、急に伊月がいい事思いついたとばかりにポンと手を叩いた。
「そのスマホって機種は何? いくらで買ったの?」
「えっ? スマホ? 機種は○○で……う、う〜ん……いくらだったかなぁ。確か月3000円くらい? を24回払い……だったかなぁ」
「72000円ですね」
伊月の意図を察した陽斗がすかさず答えた。その機種だったら小売希望はもっと高かったはずだが、そこまで言うのは流石に可哀想だろう。
「じゃあ、その金額で」
「えっ?」
「72000円払うなら取ってきてあげるって言ってるの」
「はぁ!? なにそれ! そんなの新しいのが買えるじゃない!」
「じゃあ、諦めて新しいの買えばいいんじゃない?」
先程の不機嫌が嘘みたいにニコニコと足元を見る発言をする。おそらく彼女は色んなところをたらい回しにされてここに来ている。そうでなければ祓い屋に落し物を拾って来いとは言わないのだ、普通は。
伊月はもうこの依頼がどちらに転んでもどうでも良くなっていた。代金を払うと言えば儲けものだし、それが嫌なら新品を買えばいい。しかし彼女は前者を選んだ。
「わ、分かったわよ! 払うからちゃんと取ってきてよね! もう、こうなったらケンちゃんに全部払ってもらうんだからぁ!!」
◇
そんなわけでやって来た肝試し現場――基廃ホテル『The Men dream』。
「ラブホのネーミングって独特だよね。これってさぁ、ザー」
「そんな事より、俺は何でこんな時間に此処に来たのか聞きたいんですけど」
深夜とまではいかないが、もう既に21時過ぎ。良い子ならとっくに寝ている時間だ。そんな時間に連れ出されて陽斗は少しご機嫌斜めである。
「何でって、どうせやるなら楽しい方がいいかなと思って。雰囲気あっていいでしょ?」
郊外にひっそりと隠れるように建てられたホテルは隠れたいのか目立ちたいのか、かつてはギラギラとその存在を主張していたであろう看板には蔦が這っている。一見するとちょっと派手なビジネスホテルにも見える建物は、所々窓が破られ入口のビラビラも薄汚れて、放置された年月を物語っていた。
それらが外灯も少ない場所に月明かりにぼんやり浮かぶように佇んでいる。辺りは闇、闇、闇……。確かに雰囲気だけはバッチリだ。
「伊月さん、落し物探しに来てるって分かってます? これじゃ何も見えないですよ。出直しましょう」
「まぁまぁ、そんなこと言わないで。折角ここまで来たんだから入ってみようよ。エミちゃんにはスマホの番号聞いたし、鳴らしたらすぐ見つかるって。ね、すぐ終わるから」
「ナンパ男みたいなセリフやめて下さい。それとエミちゃんじゃなくてエリちゃんです」
「ふふっ、ラブホ前で揉めるカップルって定番だよね」
「誰がカップルだ」
多少揉めたりしたが、結局雇い主には逆らえずスマホ捜索をすることになった。但し、陽斗の意見も考慮して1時間探して見つからなければ翌日の昼にまた探す事に落ち着いた。「ええ〜、そこは2時間でしょ」という伊月の主張は無視した。
伊月に懐中電灯を手渡され、渋々中へと歩を進める。入口は誰がどうやったのか、壊されていて簡単に侵入することが出来た。
「名前のわりに部屋は普通だね」
フロントにある部屋の写真を照らしながら伊月が言った。確かにベッドがデカいだけでビジネスホテルとそう変わらない内装だ。ガラス張りの風呂がそれっぽいだけで後は普通な感じがした。
昨今はリゾート風やら遊廓風やらテーマパークみたいな映える所が人気らしいし、ここは地味すぎて潰れてしまったのかもしれない。とどうでもいい事を考える。
「402号室でしたっけ?」
「うん。402まで行って先にケンちゃんがドアを開けた後、叫んで逃げ出した。エミちゃんは後ろからスマホで動画を撮っていたけどケンちゃんがぶつかったせいで落とした。で、置いていかれるのが怖くてスマホを拾わずケンちゃんを追いかけた……と」
話を聞けば聞くほどケンちゃんの株がどんどん下がっていく。
彼女をこんな所に連れてきて、あまつさえ置いて逃げるだなんて最低だ。しかも、それを取りにも来ないなんて。
「とりあえず落とした場所は分かってるし行ってみようか」
「はい」
「ところで、僕はダンジョンは全て踏破する派なんだけ「俺は効率厨なんで最短で行って帰って来ましょう」
食い気味に答えて出発した。
奥にある非常階段から4階まで上って行く。そこそこ人の出入りがあるのか、空のペットボトルや食べ物のゴミが所々に散らかっている。よく見ると床にもそう古くない足跡がいくつか残っていた。
「廃墟って行っても結構人が入ったりするんですかね」
「そうだね。ああいうバカップルとか不良とか浮浪者とか?」
「なるほど」
「寧ろお化けよりそっちと鉢合わせする方が怖いから、廃墟探索する時は気を付けてね」
「なるほど……」
それで最初依頼を受けるのを渋っていたのかと納得した。
普通の生活をしていれば廃墟に入るなどそうそうないが、この仕事をしていれば度々あるのだろう。チラッと伊月を見れば懐中電灯を顔の近くで逆手に持っている。
(あれって襲われた時に殴りやすいんだっけ)
細身でのんびりとした優男の伊月が意外と物騒な事に慣れていそうな雰囲気に、内心少し驚く。
出来れば廃墟に入るのはこれ切りにして欲しいと思いつつ、自身も懐中電灯を握り直して気を引き締めた。
しかしその後は何事もなくすんなり4階に着き、少し探すのに手間取ったりしたが、スマホも無事回収できて何だか拍子抜けした。
後日、依頼主のエリちゃんにスマホを渡し、代金を受け取った。エリちゃんとケンちゃんに思うところはあるものの、こんなにすんなり終わってしまって、しかもそれなりの額を受け取り陽斗は多少なりとも良心が痛んだ。
尚、それなりの収入が入った伊月はホクホクと上機嫌である。
「陽斗〜、今日は一緒に焼肉いかない?」
「行きます!」
先程までチクチクしていた良心は焼肉を前にして見事に吹き飛んだ。
一方、エリちゃんは――――
「何なのよこれ!」
パソコンのモニターを見ながら、苛々と頭を掻きむしっていた。
エリはモニタリング系の動画を配信しているY○uTuberだ。モニタリングされている側の顔にはモザイクをかけたり、身バレはしないように気を使っているが、分かる人には分かるようなギリギリの内容で再生回数を稼いでいた。
今回は『自称お祓い屋、本当に霊能力者なのか検証してみた』というお題で、検証と言いつつ、その実ドッキリで驚かせてビビっている様子を笑いものにしようという魂胆だった。
実は伊月達が行った廃墟には至る所に隠しカメラが設置してあり、トラップも仕掛けてあった。
依頼料は正直痛かったが、今回の撮れ高が良ければすぐに回収できる。依頼した時の盗撮もしてあるから、その時の態度の悪さも併せて叩きまくってやる。そう思っていたのに……。
「なんでひとつもトラップが発動してないの!?」
カメラに映っているのは伊月と陽斗が淡々とスマホを回収して行く姿。最初は入口で揉めてる様子だったが、その後は一直線に行って帰ってくるだけ。こんなのつまらな過ぎる。
「ケンちゃんは何やってるのよ……!!」
廃墟探索の最終地点、402号室まで2人が来たら最後はオバケに扮したケンちゃんが2人を追いかけ回す算段だった。最悪、トラップが不発でもそれさえ撮れていれば編集で何とかなったはずだ。
伊月に回収する日を聞き出してはいたが「行けそうな時に行く」と曖昧な返事で、訝しがる相手に執拗くするわけにもいかず、ケンちゃんはその日一日402号室で待機していた。もしかして肝心な時に寝ていたんじゃないかと考えると腹が立ってしょうがない。
あの日以来、ケンちゃんとは連絡がつかない。
(きっと失敗して喧嘩になると思って逃げてるんだ)
エリは苛立たし気に爪を噛んだ。
ふと、流しっぱなしにしていたモニターに黒い影が映った。
(何……? ケンちゃん……?)
伊月と陽斗が帰ったずいぶん後だ。いるならケンちゃんしかない。
402号室から出てきた黒い影は暫くじっと部屋の前で佇み、やっと動き出したかと思えばのそのそと歩きながら画面から静かに消えていった。
(ケンちゃん、じゃない……)
ケンちゃんじゃない。だってケンちゃんは白いオバケの格好で日の高い時間に部屋に入っていった。それから伊月達が来るまで誰も出入りしていない。
じゃあ、あれは誰なのだ。
ピリリリリリリリリ
甲高い音が静かな部屋に鳴り響き、肩がビクッと跳ね上がる。
そうっと着信元を覗き見て、ホッと息を吐いた。
(何よもう、連絡が遅いから心配しちゃったじゃない)
「もしもし、ケンちゃん――?」
――最近エリちゃんねる更新ないね
――そうなの?あれ?アカウント凍結されてる(;_;)
――ホントだ
――炎上狙いで最近悪質になってたからな。ざまぁw
――あれって被写体の許可取ってないよね?
――遂に訴えられたかwww
――凍結されてもまた別垢ですぐ復活するだろ
――散々人をバカにしてきたからな。因果応報とはこのこと
――そういや彼ピッピも最近見ないな
――エリちゃんの性格キツくて逃げたんじゃね?
――ありそうw
――新しい彼ピとエリちゃんの今後の活躍にご期待下さい☆




