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第9話 恐奇ユニコーン怪人のするどいツノ

 宇須美町(うずみまち)は、山と海に挟まれた美しい港町である。


 宇須美町の鉄道は電気ではなく、軽油で走るディーゼル機関車が使われている。

その車両の形状は、他の地域の電車とほぼ同じである。

外観の大きな違いは、電車の屋根にあるパンタグラフという装置がついてないことであろう。

町の人は、この列車のことを汽車と呼んでいる。


 鉄道の宇須美駅のすぐ近くに小高い丘があり、かつて戦国時代に作られた宇須美城の城跡である。

現在は広い公園になっている。

この宇須美城公園では毎年、地場のラーメンの味を競い合うイベントが開催されている。


 地元の中学生、山宮サキは友人の原科ヨツバを連れてイベントを訪れていた。

ふたりはいくつかのラーメンの出店を見てまわりながら、どの店を試すか相談していた。


「……サキちゃん。ウチが前に住んでた所ではうどんをよく食べてたんだ。ここの出店のラーメンって、月見うどんみたいに生卵が入ってんだね」


「それがこの町のラーメンの特徴ですの。スープは店によって3種類の色がありますの。醤油を使う茶色系、とんこつの白系、鶏ガラの黄色系が多いですの。具材はチャーシューより薄切り肉が主流ですの」


 その後、ふたりは普段食べているラーメンや、好きなトッピングの話をしていた。

ふと、ヨツバは公園の隅に奇妙なオブジェがあるのに気づいた。


 大人の背と同じくらいの巨大なタイヤと、金属製の筒が組み合わさっている。

滑り台のようにも見えるが、登る階段はない。


「……サキちゃん、あれは何かな? もしかして滑り台?」


「おそらく。でも階段がないから、滑るところからよじ登らないといけないみたいですの」


「……誰かが上にいるときは登れないよね。登ってるときに、上の人が滑ってきたらぶつかるし」


 二人が話しながら更に屋台を見て回っていると、大型の構造物が目についた。

鉄の棒が組み合わさって、巨大なジャングルジムのようになっている。


「……サキちゃん、あれなんだろう。踊りのやぐらに使う骨組みかな?」


「なんでしょうか。昨年はこのようなものはなかったと思いますの」


 ちょうどそこへ駄菓子屋の青年、児玉零司が通りかかった。


「こんにちは、サキちゃん、ヨツバちゃん。結論から言うと、あれは宇須美城の天守をイメージしているんだよ。戦国時代は、あそこに天守が建てられてたんだ。夜はLEDで光らせるんだってさ」


 天守とは、日本のお城の象徴するような櫓型(やぐらがた)の構造物である。

特に安土桃山時代から江戸時代の初期の城郭で取り入れられている。

明治以降は、天守閣という呼び方も普及した。


「……そうだったんだ。ウチはお城って、天守っていうんだっけ。あれが普通のお城だと思ってた。どうせならそれっぽく建て直せばいいのに」


 ヨツバがいうと、サキは少し首をかしげた。


「ちゃんとしたお城を立てるのは、かつての城がどんな建物だったかを確認した上で、省庁の許可がいるみたいですの。現存している絵図面だと資料が足りなくて、当時の資料を集めるのにおじいさまも協力していますの」 


「天守の復元案はあるけど、外観だけ似せて鉄筋コンクリートで作るのか、それとも本物と同じ木造にするか意見もわかれているみたいだ」


「……ウチはお城の外観だけでいいと思う。っていうか、昔の本物に似てなくてもいいから日本のお城っぽく作ってほしいな。……ところで、零司さんはひとりで遊びにきたの?」


 ヨツバがきくと、零司は苦笑した。


「いちおう仕事だよ。イベントの屋台で駄菓子の追加注文が入ったから、届けてたんだよ。これから店に戻るところ」


「……ウチとサキちゃんは、これからラーメンを食べてくの。あ、そうだ。零司さん。あっちでさっき可愛い蒸気機関車が走ってるのを見たよ。零司さんも見た?」


「ああ、見たよ。あれは大昔に宇須美町で使われていた軽便鉄道っていう、小型の機関車を復元したものだね。もともとは石炭を燃やして走るんだけど、あれは電動コンプレッサーの空気で動かせるようにしたんだってね」


「そうですの。おじいさまもそれをきいて感動したって言ってましたの。昔、あれと同じ機関車にタイヤを履かせて、日本全国を旅するというテレビ番組を見ていたらしいですの。わたくしも乗ってみたいですの」


 サキが言うと、零司は笑った。


「サキちゃん、そのドラマの話は俺も宮司さんにきいたことあるよ。それファンタジー入ってるテレビドラマだよ。実際に機関車で街の中を走るのは無理だからね」


「おじいさまは、蒸気機関車の汽笛を思い浮かべて張り手を出すと気合が入る、とか言ってましたの。さっきドラマの影響ですの」


「それ、たぶん同時期の別のテレビドラマだと思うよ。と言っても、俺もよく知らないんだけどね」


 そんな話をしているときに、すぐ近くで破壊音と「きゃー! おばけがでたー」という悲鳴が聞こえた。


「児玉さん。また怪人が出たみたいですの。わたくしたちも避難誘導を手伝いましょう。わたくしとヨツバさんはあちらに向かいます」


「わかった。俺は向こうの避難を手伝おう。そっちも気を付けて!」


 サキとヨツバは、零司とは違う方に走り出した。


 イベント会場では槍の女フォークダンスが一本ヅノの怪人に命令を出していた。


挿絵(By みてみん)


「さあ、行くのだ。ユニコ・アズルー。あたり一帯を破壊するのだ。人間たちを恐怖のどん底に落とし、マイナスオーラを闇海王メグダゴン様にささげるのだ!」


挿絵(By みてみん)


「カークカク! スキカッテニカカナイデー! キャハハハハーー」


 サキとヨツバは、近くにあった出店のテントの陰に駆けこんだ。

サキの左手にスペードのような紋章が浮かんだ。

同様にヨツバの左手にはクローバーのような紋章が浮かぶ。


「ヨツバさん、変身ですの」


「……うん、サキちゃん。ウチ、頑張る!」


 ふたりは両手を前に出し、親指と人差し指の先を合わせて三角形を作った。


「マウンテンパワー・チャージアップ!」


「サバンナパワー・チャージアップ!」


 両手の間に三角形の光が現れた。三角形がクルリと半回転し、六芒星となる。

そこからあふれ出る光の奔流が、ふたりの身体を覆い隠した。


 挿絵(By みてみん)


 光の中から二人の魔法少女が飛び出した。

ひとりのカチューシャには龍の形の飾りがあり、もうひとりのカチューシャはライオンの形である。

そして二人は怪人の前に立った。


「そこまでです! セーラー服魔法少女キーシャポッポ、ここに参上!」


「同じく、ターンポッポ参上! この世の悪事をやめさせる。私たち……」


「「セラレンジャー!」」


 ふたりは両手を胸前でクロスしてポーズをとった。


「また出おったな、セラレンジャー。ふたりまとめて、このまま串刺しにしてやるのだっ。いくのだっ、ユニコーン型怪人ユニコ・アズルー!」


「カークカク! キャハハハハーー」


 怪人が突進してきた。

セラレンジャーたちは左右に分かれて、飛んでかわした。


「……ウチ、ユニコーンって馬の妖精のことだと思ってたんだけど」


「あれはイッカククジラの方のユニコーンですの。ユニは一つという意味で、コーンはツノという意味ですの」


 そう言うキーシャポッポを右手に、青く光る球が現れた。


「いきますの。ジャバウォック・スイング!」


 キーシャポッポは糸付きの光球を投げた。

が、その光球は怪人のツノで跳ね返された。


「カークカク! キャハハハハーー」


 怪人ユニコ・アズルーのツノがドリルのように回転を始めた。

そして、キーシャポットに突進した。


「速いっ……。きゃあああ!」


 よけきれずにキーシャポッポは弾き飛ばされた。


「……こんどはウチが相手だよ! ポッポロッド! シーサーボール!」


挿絵(By みてみん)


 ターンポッポの左手の上には黄色の網目状の光球が現れた。

ラケット型の杖でそれを打ち付けた。


 が、その光球は怪人のツノではじかれる。


「カークカク! キャハハハハーー」


 怪人はドリルのように回転するツノを地面に当てた。


「……え? まさか地面の中にもぐれるの?」


「カークカク! キャハハハハーー」


 怪人は回転するツノで、土を跳ね上げてターンポッポに目つぶし攻撃。

さらにシッポの一撃で彼女も飛ばされる。


「うわーっ」


「いいぞユニコ・アズルー! セラレンジャーを串刺しなのだっ」


 そのとき、複数の黒い(つぶて)のようなものが飛来した。

そして怪人ユニコ・アズルーの足元でパパパパン!と炸裂した。


「誰なのだっ! どこにいるのだ!」


 フォーク・ダンスが周りを見回すと、どこからかギターのゆっくりとした調べがきこえてくる。

その方向を見ると、近くの滑り台型オブジェの上に人影があった。


 黒の燕尾服に黒のシルクハットを被っている。

こちらに背を向けて、黒く長細い旅ギターを鳴らしていた。

黒いマントが風になびいている。


 黒衣の者は演奏を止め、振り返った。

帽子をかぶった顔は目も鼻も口もなし、つるりとした焦げ茶色の玉子型の仮面をつけている。


「スカッと参上、スカッと回復。さすらいの回復師ハティ・ダンディ、ここに推参!」


 黒衣の玉子仮面はオブジェから飛び降り、セラレンジャーたちの横に降り立った。


「しっかりしろ、セラレンジャー。本日の回復アイテムはこれだっ」


 黒衣の仮面は駄菓子の『水あめ棒』を二人に渡した。


「……はい。いただきます。ハティさん」


「ありがたく頂きますの。ハティ様」


 セラレンジャーは、それぞれ二本の棒を使って水あめを練りこんだ。

空気を含んで泡状になったところで口に入れる。

優しい甘さととろける食感。泡の舌触りが気持ちいい。


「……うわぁ、おいしい。ウチ、パワー全開です」


「こちらもですの。ターンポッポ、わたくしが援護しますの。やっつけてください。ポッポロッド!」


「セラレンジャー! 今の幸せな気持ちを光に変えて、あの怪人を闇から解き放て!」


「……はいっ! ウチやります!」


挿絵(By みてみん)


 ターンポッポの背中からチョウの羽根に似たオーラが広がった。

その左手の上に強い輝きの黄色の光球が現れた。


 キーシャポッポがラケット型の杖で青く光る玉を飛ばし、怪人をけん制した。

ターンポッポは左手の光の球を軽く放り、ラケット型の杖を振るった。


「アババイボール・フラッフ・シュート!」


 光球はタンポポの綿毛のように小さな玉に分裂し、怪人に向かって飛んだ。

そして、多数の光る玉が連続して怪人ユニコ・アズルーに命中した。


「カクカーク! なんだか気持ちよくなってきたかも……」


 怪人ユニコ・アズルーの姿がぼやけたようになり、どこかに走り去っていった。


「まつのだっ、ユニコ・アズルー。戦闘中にどこへ行くのだ! おのれ……。しかたないのだ。代わりにこの私の槍で、セラレンジャーどもを串刺しにするのだ」


 フォークダンスが槍を構えたその時、彼女の額の宝石が赤く点滅した。


「くっ…… こんな時にまた帰還命令なのだ。覚えていろよ、セラレンジャー。次こそキサマ達を倒すのだ!」


 フォークダンスの背後の空間が割れて、暗い闇の世界が広がっているのが見えた。

そこへ彼女が飛び込むと、割れた部分が何事もなかったかのように元に戻る。


「……はぁ、なんとか勝てた。ハティさん、行ったんだ」


「あの方は、戦いが終わるとすぐにいなくなりますの」


 ふたりは変身を解いた。


 * * *


 少し離れた屋台の陰で、黒衣の玉子仮面は高校生とおぼしき女性の話を聞いていた。


「私、学校の独自サイトで、根も葉もないウソのウワサを書かれて馬鹿にされているの。いくら『それは違う』って説明しても誰もわかってくれないの」


 ハティ・ダンディは女性の話をじっときいていた。

ときおり大きくうなずき、「大変だったね」「それはひどい」と短く声をかけていた。


「なるほど。学校の裏サイトか。君も理解しているようだが、悪口や中傷をしている者は誤解や勘違いで書いているのではない。そのサイトに君が釈明を書くのは逆効果だ。むしろ『何も書かない』ということをお勧めする。やり方がわかっていれば、書かれた内容を保存するか、画面を別のカメラで撮るのもいいぞ」


「でも、それだと悪口をいつまでも止められないよ」


「自分一人で止めるのは難しい。まずは気持ちを切り替えて、仕切りなおそうか」


 仮面男はスナック菓子の『串ドーナツ』の袋を女性に差し出した。


「君にあげるよ。これを食べて元気を出すがいい。駄菓子には人を幸せにする力があるんだ。甘いもので気持ちを落ち付かせれば、よい考えも浮かぶものだ」


 女性が菓子袋を受け取ると、仮面男は一歩下がった。

そしてどこからか黒い玉子を出し、頭上に掲げた。


挿絵(By みてみん)


「への字山のふもとに大きな駄菓子屋がある。いちど行ってみるといい。君の問題を解決する糸口がそこにある。ではさらばだ。君の人生に幸あれっ!」


 仮面男の右手の玉子が割れて、黒い煙がその姿を覆い隠した。

煙が晴れたそこには、もういなくなっていた。


 女性はしばらく煙のあとを見ていた。

そして手に持った袋に目を落とすと、封を開けた。


 * * *


 町の北側に広がるへの字山。

山のふもとにその駄菓子屋『射手舞堂(いてまうどう)』があった。


 駄菓子屋のレジに立つ青年、児玉零司は店の中を見回した。

馴染みの中学生四人組は、店の片隅にある卓球台でダブルスで遊んでいる。

イオリとノノはペンホルダー型ラケットで、サツキとヨツバはシェークハンド型を使っているようだ。


 店の奥ではドーナツの袋を持った女性と父親らしき人が、弁護士バッジをつけた紺のスーツの男性と話をしていた。

しばらくして、女性とその父親が弁護士に頭を下げているのが見えた。


 レジにいる零司に向かって、卓球台の方からイオリの声がきこえた。


「ねー、零司くーん。いつものギターのBGMやってー」


 零司はニコっと笑って答えた。


「ああいいよ。では一曲」


 レジ横に置いてあったミニギターをとり、零司は演奏を始めた。


  ライオンさんと ユニコーン

  王座をかけて ひと勝負

  町の周りを かけまわる

  町のみんなで 見物だ


  白パン黒パン さしいれて

  ぶどうのケーキで おびきだせ

  タイコを叩いて 追い出そう

  ケンカするなら よそでやれ


次回、『第10話 襲来ケンタウロス怪人の貫く槍』、良心の呵責に心沈むものに幸あれっ。


零司くんの歌うマザーグース"The Lion and the Unicorn"の原詩はこちらです。


The Lion and the Unicorn,

Were fighting for the crown,

The Lion beat the Unicorn,

All about the town.


Some gave them white bread,

And some gave them brown,

Some gave them plum cake,

And drummed them out of town.


零司くんのアレンジで、歌詞の意味がだいぶ変わってます。

著作権の切れているこいのぼりのフシで歌えるかも


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― 新着の感想 ―
[一言] 裏サイトかぁ……学校も怖いもんですわ。 いや、私はそういうサイトは見てなかったけど……学校ってのは、怖いところですよ(-_-;)
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