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最終話 絶望ドラゴン怪人のとどろく黒剣

「……っていうわけで、みんなでこれからヨツバちゃんを案内して、への字山の頂上まで行くんだ。ロープウェイに乗るんだよ」


 駄菓子屋の児玉零司に、中学生の空井イオリが知恵の輪をカチャカチャやりながら話していた。


「それは楽しそうだね、イオリちゃん。への字山の頂上なら、後で俺も仕事で行くかもしれないよ。もしかしたら、上で会えるかも」


「零司くんって、自転車であの山を登れるんだよね。すごいね」


「電動アシストがついたクロスバイクだから、それほど大変でもないよ」


 そんな話をしている零司に陰が差した。

駄菓子屋の天井に届きそうに思えるほどの大男が、レジの前に現れたのだ。

その男は、複数のダンボール箱を台車に積んでいた。

彼はハゲ頭で筋肉もりもりの白人であった。


「ピエールさん。いつもありがとうございます」


「オゥ。レイジサン。コノ店デシカ買エナイオ菓子、大好キデスヨ」


 地場の製菓で作られた宇須美町せんべいやフーセンガム、チョコでコーティングされた棒状のスナック菓子などを箱で買いにきたのだ。

イオリはその物量に目を丸くしている。


「いつもたくさん買ってるみたいだけど、今日は一段とすごいね。ねぇ、ピエールさん。この店って通販もやってると思うけど」


「ノンノン、イオリチャン。ココデ自分デ選ブノガ、楽シイデース」


 支払いをして、大男は台車を押していった。


「ありがとうございましたー」


「いつ見てもすごい人だね。あ、店のお手洗い借りるね。零司くん、ちょっと荷物見てて」


 イオリは全然外せそうにない知恵の輪を置いて、小走りで店の奥に向かった。

彼女の荷物の中に、モルモットのヌイグルミのふりをしている妖精マロンがいる。


 零司は妖精に一枚の紙を差し出した。


「マーロンケヴィア。ちょっとこのグラフを見てくれないか。神社の宮司さんに作ってもらったんだ」


「ケビ?」


 * * *


 宇須美町の北部に広がるへの字山には、ふもとから山頂までロープウェイが引かれている。

それは町のシンボルの1つになっている。


 ふもとのロープウェイ駅にイオリたち四人の中学生が揃っていた。

イオリがヨツバにきいた。


「ヨツバちゃん。ここのロープウェイを使うのは初めてだっけ」


「……うん。ウチ、前からずっと乗りたいって思ってたんだ」


 原科ヨツバが答えると、海堂ノノが言った。


「ちょうどよかったぜ。上がって頂上の茶店でお茶しようぜ。わたし、あの茶店の『への字焼餅』が好きなんだぜ」


「わたくしもその焼餅は大好きですの。それに上の展望台からの景色は最高ですの。宇須美町が一望できますの。川も海も空も、とってもきれいですの」


 山宮サキも楽しそうに言った。

四人はチケットを買い、乗り場に進んだ。


 建屋の山側が大きく解放されており、山頂までロープが張られている。

ロープには客を乗せたゴンドラがいくつも下がっており、その遠くに頂上駅が見えた。


 乗り場ではゴンドラが並んでおり、順番に客を乗せている。

ノノが不思議そうに言った。


「わたしは前から気になったんだけどよ。山に登っていくゴンドラは間隔をあけて並んでるよな。なんでここの乗り場ではゴンドラどうしがくっついて並んでんだ?」


「え? あ、ほんとだ。どうなってんだろ」


「……ふしぎだね」


 ノノの言葉にイオリとヨツバも首を傾げた。

それにはサキが答える。


「ゴンドラの上のロープにかかっている所をよく見てください。移動中はあそこで器具がロープをギュッと掴んでますの。ホームではロープを離していますの。だからホームでは、係の人が手でゴンドラを引っ張ってますの」


「「「なるほどー」」」


 残り三人も納得したようだ。

やがてイオリ達の番になり、四人がゴンドラに乗り込んだ。

他の客が少ないこともあって、彼女たち四人での貸し切りの状態だ。


「……わあ、イオリちゃん。いい眺めだね。」


「そうだね。ヨツバちゃん。でも、てっぺんの展望台からだと、もっときれいだよ」


「へへっ、ここでの楽しみかたはゴンドラから真下を見ることだぜ。結構迫力あるだろ」


「たしかにスリルがありますの」


 イオリに抱かれたモルモット型の妖精マロンは、窓の外を見て言った。


「マロンもこんなに高いところはこわいケビ」


「……あんた、空を飛べるのに今さら何を言って……。えっ、あれは何?」


 ヨツバはゴンドラの前の方を指さして行った。


「……あれを見て、ロープウェイの支柱に誰かいる!」


挿絵(By みてみん)


 支柱に槍の女がいるのを見たイオリは、驚いたように言った。


「フォークダンス! なぜここにっ。こっちを見てる!」


「やべえな。わたしらが乗っていることがわかってるみたいだな。どうする?」


 ノノが言うと、サキが少し考えて答えた。


「戦うしかないですの。万一、ロープを切られたら、私たちだけじゃない。他のお客さんにも死傷者が……」


 妖精マロンも困ったように顔をあげた。


「怪人を倒したときの奇跡の力でも、たぶん死んだ人は治せないケビ」


「でも、ロープの上では戦えないよ。降りるにしても、この高さじゃ……」


 ヨツバの言葉に、イオリは「だいじょうぶ」と答える。


「変身と同時にパワー全開にして光の翼をだせば着地できるよ。力の大半を失うから、フォークダンスに勝てないかもしれない。でも、ハティさんが必ず来てくれる。それまで頑張ろう。やるっきゃないない! みんな行くよっ」


「おうよっ、やってやるぜ。イオリ!」


「はいですのっ、イオリさん!」


「……うん。イオリちゃん。ウチ、頑張る!」


 四人の左手にトランプのマークに似た紋章が浮かんだ。

彼女たちはゴンドラの扉を開け、外に飛び出した。


 挿絵(By みてみん)


「スカイパワー・チャージアップ!」


「マリンパワー・チャージアップ!」


「マウンテンパワー・チャージアップ!」


「サバンナパワー・チャージアップ!」


 魔法少女たちは背中から光の翼を出して滑空し、山の斜面に降りた。

フォークダンスも彼女たちの前に降り立った。


「セーラー服魔法少女ハートポッポ、ここに参上!」


「同じく、イーカポッポ参上!」


「同じく、キーシャポッポ参上!」


「同じく、ターンポッポ参上! この世の悪事をやめさせる。私たち……」


「「「「セラレンジャー!」」」」


 四人は両手を胸前でクロスしてポーズをとった。


「ついに決着の時が来たのだ。セラレンジャーども。このフォークダンス様が直々に、真の姿で引導を渡すのだ」


 そう言ったフォークダンスの持つ槍が黒い剣に変化した。

そしてフォークダンス自身の姿も変化し、ドラゴンのような翼とシッポが生えていた。


挿絵(By みてみん)


 その姿に、まがまがしい気配を感じたハートポッポが叫んだ。


「みんな気をつけてっ。今までの怪人とは全然違うよっ」


「へへっ! 相手に取って不足はないぜ」


「竜の力なら、わたくしも負けるわけにはいかないですの」


「……だいじょうぶ。ウチも頑張る」


 イーカポッポとターンポッポがドラゴン型怪人に向かって駆け出し、二人が揃ってジャンプした。


「くらえっ!」


「……たあっ!」


 二人が同時に跳び蹴りを放つ。

しかし、フォークダンスの盾の一撃で、地面に叩き落とされた。


「ぐうっ」


「きゃっ」


 フォークダンスはターンポッポ目掛けて黒剣を振り下ろす。


「させませんのっ。ジャバウォック・スイング!」


 キーシャポッポが糸付きの光玉を放つも、盾に阻まれる。

黒剣の斬撃がターンポッポを襲った。あたりに激しい土煙が上がった。


「ターンポッポ!」


 ハートポッポは悲痛な声を揚げた。

ターンポッポは黒剣をなんとかポッポロッドで受け止めたようだが、地面が陥没してクレーター状になっていた。

土煙が晴れると、クレーターの底でターンポッポは倒れている。


「ポッポロッド! キャイガーボール!」


 ハートポッポは光玉を打ち出した。しかしその輝きは通常の半分程度であった。

フォークダンスは軽くかわし、斬撃を放つ。


「ポッポバリア……。きゃっ!」


 バリアで受け止めるも、衝撃は消しきれずにハートポッポは吹き飛ばされる。


「ちっ、こうなったらあれをやるぞっ! 合わせろキーシャポッポ! ポッポロッド!」


「承知しましたのっ。ポッポロッド!」


 イーカポッポ、キャーシャポッポはドラゴン怪人の周りを走り、光玉の合わせ技を使おうとした。

しかし、山の斜面では走るタイミングが合わせづらい。

打ち込んだ光玉は黒剣で斬られて、さらに二人とも黒剣の攻撃を受けてしまった。


 数分後、立っているのはフォークダンスだけになっていた。

セラレンジャーたちはかろうじて意識を保っているものの、立ち上がる力はなくなっていた。


 フォークダンスは倒れているハートポッポに歩み寄り、黒剣をつきつけた。


「これで終わりなのだ。あきらめるがいい」


「あきらめない。最後まで……いいえ、最後の最後になっても絶対にあきらめない。やるっきゃないない、くじけない!」


 ハートポットの目の輝きは消えなかった。

他の仲間達も何とか立とうとしている。


「そうか、ではここで死ぬのだっ」


 フォークダンスは黒剣をゆっくりと持ち上げた。

その時、複数の黒い(つぶて)のようなものが飛来し、フォークダンスの足元でパパパパン!と炸裂した。


「誰だっ! む…… 貴様はっ!」


 とっさに後ろにとんだフォークダンスは、礫の飛んできた方を見上げる。


 ロープウェイの支柱に人影があった。

黒の燕尾服に黒のシルクハット、黒いマントを風になびかせている。

帽子の下のその顔は、目も鼻も口もなし。

つるりとした焦げ茶色の玉子型の仮面をつけている。

腕組みをして、フォークダンスを見下ろしていた。


 仮面男の背後では、長いたてがみをもった鹿が宙に浮かんでいる。


「スカットと参上、スカッと回復。さすらいの回復師ハティ・ダンディ、ここに推参!」


 黒衣の仮面男は支柱から飛び降り、ハートポッポの横に立った。


「しっかりしろ、セラレンジャー。本日の回復アイテムはこれだっ」


挿絵(By みてみん)


 玉子仮面は平たい小判のような紙包みをハートポッポに渡す。

同じ包みを口にくわえた鹿が、他のセラレンジャーたちにも配っていった。


 ハートポッポは渡された暖かい包みが何かに気づき、目を見開いた。


「これ、駄菓子じゃないよ。への字山名物の『への字焼餅』だ! しかも焼きたてホカホカだぁ!」


 上質の米粉を薄く引き伸ばした二枚の生地で、薄く塗られたアンコを挟んで焼いたもの。

への字山から湧き出る清水を使ったその郷土菓子は、宇須美町の住民の大好きなお菓子であった。


 食べようとするセラレンジャーたちに、フォークダンスが迫る。


「馬鹿め。いつもいつも、おとなしく回復などをさせてやるとでも思ったかっ。そうはいかないのだっ」


 ハートポッポをかばう様に立つ、黒衣の仮面。

そこにフォークダンスの右手の黒剣が真っ向から振り下ろされた。


「お菓子の邪魔をするとは無粋だな。下がっていろっ」


 ハディ・ダンディは、左の裏拳でフォークダンスの右手首を打ちつけていなした。

そのままくるりと身をひねると、マントがひるがえって、フォークダンスの視界を覆う。


 そしていつの間にか、たてがみの鹿が間に入っていた。

鹿に後ろ脚で蹴られて、フォークダンスは斜面を転がり落ちた。


 焼餅を食べ終えたセラレンジャーたちは、元気を取り戻して立ち上がった。


「力が湧いてくる! おいしいって、幸せです! 大好きです、ハティさん!」


「行けっ、セラレンジャー! あいつを倒せば、当面はメグダゴンは沈静化するはずだっ」


「はいっ! みんな行くよっ」


 ハートポッポはポッポロッドを前に突き出した。

仲間達も横に並んでポッポロッドを合わせる。


「ひとりはみんなのために!」


挿絵(By みてみん)


「「「「みんなは一人のためにっ!」」」」


 セラレンジャー達のところに、翼を広げたドラゴン怪人が上空から急降下してきた。


「おのれ、キサマらまとめて地獄行きなのだっ」


 最初に飛び出したのはイーカポッポ。

黒剣をかわしつつ、連続パンチをフォークダンスに見舞う。


 フォークダンスは盾で受け止めるが、イーカポッポは止まらない。


「おらおらおらおらおらぁ!」


 彼女の様子を見て、黒衣の玉子仮面ハティ・ダンディがつぶやく。


「イーカポッポ……。弐野(のの)ちゃん。君はいつもまっさきに危険な場所に飛び込んでくれる。君の勇敢な行動力に仲間たちは助けられているんだ。ガサツなふりをしているけど、本当に優しい子なんだね」


 イーカポッポはジャンプして、フォークダンスを飛び越えた。

その陰からキーシャポッポの青い光球が飛ぶ。

光球はフォークダンスの顔の前を横切って、キーシャポッポに戻る。

いつもとは違い、光の糸は左手につながっていた。


「ポッポロッド! ニョイボールダンシング!」


 右手のポッポポッドで打ち、左手で軌道を変える。

フォークダンスは、不規則な動きの光球をかろうじて黒剣で(はじ)いた。


 ハティ・ダンディがつぶやく。


「キーシャポッポ……。三紀(さき)ちゃん。君はふだんは一歩控えているが、君の知恵と判断力はすばらしい。これからも君のアイデアでみんなをサポートしてくれ」


 戻ってきた青い光球をキーシャポッポが左手でキャッチし、急にしゃがみこんだ。

その背後からターンポッポが跳んでいる。

上空からフォークダンス目掛けて飛び込んでいく。

空中で二回転し、カカト落としを放つ。


「うりゃーっ!」


 フォークダンスは盾で受け止めるが、ターンポッポはそこを踏み台にして飛んだ。

後方宙返りをして、フォークダンスの右腕を蹴る。

フォークダンスは黒剣を落としかけた。


 ハティ・ダンディがつぶやく。


「ターンポッポ……。四葉(よつば)ちゃん。怪人にされていた心の傷からよく立ち直った。他の三人についていくため、懸命に努力しているのを知っているよ。君の頑張りを俺は賞賛する」


 そして、ハートポッポがドラゴン怪人めがけて飛び込んでいく。


挿絵(By みてみん)


 ハートポッポはドラゴン怪人の振う黒剣を空中でかわし、前蹴りを放った。


「セラレンキック!」


 たまらずフォークダンスは吹き飛んだ。


 ハティ・ダンディがつぶやく。


「ハートポッポ……。一織(いおり)ちゃん。可憐で勇敢な女の子。昨年うちの店で会った時、君は俺にすぐに懐いてくれて驚いた。ずっと前に君は俺と会っていたんだね。本当に大きくなった。そして強くなったんだね。もしかすると、いつか君には俺の本当の姿を見せるかもしれない。ハティ・ダンディの正体はもちろん、俺の本業を……」


 仮面の男はマントをひるがえした。


「イオリ。俺のギターを好いてくれて、本当にうれしかったんだ。君には、いや君たちにはこの歌を贈ろう。ツマエルスペース!」


 玉子仮面の横の空間が割れた。

そこに右手を差し込み、細長い真っ黒の旅ギターを引き出した。


迦久(カク)、全開で行くぞっ。これが俺たちの癒しのパワーだっ」


 カクと呼ばれた鹿が高い声でキューンと鳴いた。

ハティ・ダンディはギターを構えて、弦をつま弾いた。

力強い歌声が響きわたる。


  すべての悪事を 逃がしはしない

  輝く太陽が 照らしだすんだ

  どんな試練も 困難も

  勇気と知恵で くぐりぬけ


  闇にしずんだ 悲しき者も

  愛の輝きで 引き上げろ

  光の道を 進む者よ

  君たちのゆくてに 正義あれ


  壁に当たっても 諦めはしない

  必ずそれを 乗り越えるんだ 

  どんな試練も 困難も

  仲間とともに 迎え撃て


  友とのきずなは とぎれはしない

  力を合わせろ 最後まで

  光の道を 進む者よ

  君たちのゆくてに 希望あれ


 黒衣の玉子仮面ハティ・ダンディの歌とともに、セラレンジャーたちの身体が輝き始めた。


「やるっきゃないない! みんな行くよっ! キャイガーボール・マックス!」


挿絵(By みてみん)


 ハートポッポの背中から、鳥の翼に似た赤く輝くオーラが広がる。


「おうっ! やってやるぜ! シトラスボール・マックス!」


挿絵(By みてみん)


 イーカポッポの背中から、トビウオのヒレに似た緑に輝くオーラが広がった。


「了解ですの! ニョイボール・マックス!」


挿絵(By みてみん)


 キーシャポッポの背中から、トンボの羽根に似た青く輝くオーラが広がった。


「……ウチ、がんばるっ! シーサーボール・マックス!」


挿絵(By みてみん)


 ターンポッポの背中から、チョウの羽根に似た黄色に輝くオーラが広がった。


 セラレンジャー達はポッポロッドを振るい、同時に光球を打ち出した。


「「「「アババイボール・クインテット・シュート!」」」」


 四色の光球が、らせん状に回転しながら飛んだ。

そしてドラゴン型怪人フォークダンスの身体に命中した。


「ぐぅ……。力が、闇の力が抜けるのだ! メ……メグダゴン様……」


 フォークダンスの黒剣が槍に戻り、翼とシッポも消えた。

背後の空間が割れて、暗い闇の世界が広がっているのが見えた。

そこへ彼女が飛び込むと、割れた部分が何事もなかったかのように元に戻る。


「勝った。ハティさん。あたし達、勝ちましたよっ! ……って、いるはずないか」


「……あれ? 今日は相談する人はいないから、消えなくてもいいと思うんだけど」


 ターンポッポは小声で意味不明なことをつぶやいた。

四人は変身を解いて元の姿に戻った。


 サキは、ふよふよと浮いている妖精マロンに声をかけた。


「マロンさん。先程メグダゴンが沈静化すると、ハティ様がおっしゃってましたの。どのような意味ですの?」


「海からくる闇の気配が消えかかっているみたいケビ。フォークダンス以外の怪人がこなかったのは、渦潮の下にいるメグダゴンのエネルギー切れだと思うケビ」


「あん? それだとうれしいぜ。もう戦わなくっていいってことかよ」


「それはわからないケビ。だけど、しばらく怪人はでてこれないと思うケビ」


 四人の顔がほっとしたような表情になった。

しかし、妖精マロンが不満そうな声を出す。


「それはいいけど、さっきのお餅はどうしたケビ。マロンも食べたいケビ」


挿絵(By みてみん)


「おうっ、わたしもお代わりを食べたいぜ。山頂の茶店まで歩こうぜ」


 ノノが明るく言うと、イオリがげっそりした顔になる。


「えー……。ここから登るの? みんなも疲れてるよね。山を下りて、もっかいロープウェーに乗ろうよー」


「……まあまあ、イオリちゃん、ウチが手を引っ張ってあげるから、行こ」


 そこで、サキが「あら?」と声を出した。

さきほど玉子仮面が立っていた支柱の下のところに、サキたちの荷物が置いてあった。


「これはゴンドラの中に置いていた荷物ですの。なぜここに?」


 それにはヨツバが自分の荷物を拾い上げながら答える。


「……きっと黒衣の玉子様のしわざだね。じゃ、行こっか」


 四人は荷物を持って、山道を登り始めた。


 * * *


 山頂まで着いた四人組。

へろへろになったイオリが、弱弱しい声を上げた。


「はぁー。やっと山頂に着いたよー。死ぬかと思ったよー。フォークダンスと戦ったのと同じぐらいきつかったー」


「……いやいや。ウチはどう考えても、フォークダンスの方がやばかったけどね」


「へへっ。じゃあ、さっそく茶店に焼餅をくいにいこうぜ」


「そうですの。あと一息ですから行きましょう」


 少し歩いて茶店に着くと、イオリは店前に停まっているクロスバイクに気が付いた。


「あれ? これって零司くんの自転車だ。そういえば零司くんは、仕事で山頂に来るかもって言ってたっけ」


 茶店に入ると零司が座敷に座っていた。

すでに焼餅とお茶が届いており、これから食べるところのようだ。

イオリたちはそちらに向かい、同じ座卓テーブルの座布団にすわった。


「零司くん、あたし達も相席していいよね。仕事って言ってたっけ」


「そうだよ、イオリちゃん。この焼餅をうちの駄菓子屋でも置こうか、って案があったんだ。結論から言うと、やめておくことにした。焼餅は冷めてもおいしいけど、ここで焼きたてを食べるのが一番おいしいと思うから」


「えー……、ちょっと残念。あたしは冷たい焼餅も好きだよ。お姉さーん! 焼餅セット5つ分お願いしまーす」


 ちゃんと妖精の分も注文していた。

やがて彼女たちのところに焼餅が届けられた。

イオリがこっそりカバンに1つ焼餅を入れていた。

中に妖精マロンが入っている。


 おいしそうに焼き餅を食べる少女たちを見ながら、零司は思う。

図らずも、邪悪に立ち向かう力と義務を持ってしまった者たちだ。

彼女たちの厳しくつらい戦いは、まだ続くであろう。

でも今だけは、つかの間の休息を楽しんでほしい。


「イオリ……。それにノノ、サキ、ヨツバ。君たちの未来に、幸あれ!」


これにて終了です。拙作にお付き合いいただき、感謝します。

すべての読者に幸あれ!


もうひとつ、蛇足な裏話を書いて完結設定にします。


ハティ・ダンディが歌う『魔法少女隊セラレンジャーのテーマ』は

マザーグース"For every evil under the sun"をモチーフにしています。


原詩はこちら。

For every evil under the sun,

There is a remedy or there is none.

If therebe one, seek till you find it;

If there be none, never mind it.


アレンジというより、全然違うオリジナルになってます。

原詩の意味は「悪をただす方法を探し出せ、もし見つからなくても気にするな」という感じです。


下のリンク先で音楽データを載せています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 四人とも窮地の戦いお疲れ様。まだまだ続いていくけと、頑張れ。 零司はいつもひっそりと見守ってくれているんですね(*´艸`)ウフフ どの回の駄菓子も美味しいやつですね✨
[良い点]  本日読了しました。最初は玉子とか〇〇ポッポとかのネーミングから、笑いを取りに来ているのかと思っていましたが、なかなかどうして。本格的な連続ヒーローものとして楽しめました。  また、駄菓子…
[一言] 最終回!! 更新お疲れ様でした!! 最後の最後までニチアサ好きな私にはたまらないドキドキハラハラな大好きな展開でした!! あとがきも読ませていただきます!! にしても、これで、一応第一部…
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