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第12話 絶叫デュラハン怪人のわらう生首

 宇須美町(うずみまち)は、山と海に挟まれた美しい港町である。

町の北部に広がるへの字山には、山頂までロープウェイが引かれている。

そのロープウェイは町のシンボルの1つになっている。


 ふもとのロープウェイ駅の近くには観光案内の建屋がある。

この建屋では、毎年夏に開催される祭りである『宇須美よさこい』が紹介されていた。


 そこに地元の中学生、空井イオリと海堂ノノ、それに原科ヨツバの姿があった。

ヨツバが『宇須美よさこい』をよく知りたい、というので連れてきたのだ。


 モルモット型のヌイグルミを抱いたイオリは、展示されている宇須美よさこいの小道具を指さした。

しゃもじに似た黒い木の板に、色付きの棒がついている。


「ヨツバちゃん。これが宇須美よさこいで使う鳴子(なるこ)だよ。みんなでこれを持って踊るんだ」


「……これ、なんとなく卓球のラケットにも似てるよね」


「ほんとだぜ。わたしもこれを持って卓球の素振りのマネしたことあるぜ。(れん)の人に怒られたぜ」


 話しながら三人は展示物をみて歩いた。

編笠を被ったたくさんのマネキンがある。

薄い色の浴衣の集団と、派手な法被(はっぴ)の集団が踊る様子である。


 ヨツバを珍しそうにマネキンを見て言った。


「……いろんな衣装があるんだね」


「そうだぜ。『(れん)』っていうグループごとに踊るんだぜ。衣装も踊り方も、連によって違ってんだぜ」


「踊り方のルールは1つ、リズムに合わせて右手と右足、左手と左足を交互に出すだけ。他は連によって違うよ」


「……それだけなの? ウチでもできるかな」


「できるぜ。今度の夏は、わたしと同じ連で出てみよう」


 そこでイオリは「あ、そうだ」と声をだした。


「ルールじゃないけど、女の子は背筋をのばして上品に踊るんだ。男の子は姿勢を低くして派手な動きをするのが多いみたい」


「へへっ、ルールじゃないからな。わたしはいつも男子にまじってハデにやってるぜ」


 そんな話をしているとき、建屋の外で大きな破壊音が響いた。

甲高い悲鳴や怒号のような声も聞こえてくる。


 ヨツバが音の方を見た後、イオリたちの方に振り返った。


「……イオリちゃん、ノノちゃん。今の音ってまさか」


「そうね、怪人がでたのかも」


「行ってみようぜっ」


 三人が建屋の外に出ると、近くのバス停に無残に破壊されたバスがあった。

お客さんや運転手らしき人が逃げていくのが見える。


 槍の女が怪人に命令を出していた。


挿絵(By みてみん)


「行くのだっ、アンデッド型怪人デュラ・アズルー。人間たちのマイナスオーラを闇海王メグダゴン様にささげるのだ!」


 怪人の頭部は身体から外れており、右手の上にその頭があった。


「デューラデュラー。アタシハクビヨー。クビニナッタンダヨー。キャハハハハーー」


挿絵(By みてみん)


 イオリがため息をついて言った。


「はぁ……。つらい目にあった人が、怪人にされちゃうことがあるみたいだけど……」


「おう。あの怪人も悲しいことがあったってか。ずいぶん怪人化が進んでいるな」


「……ウチの時より心のダメージが大きいみたいだね。かわいそうに」


 イオリはぎゅっと拳を握った。

彼女の左手の甲にハートのマークに似た紋章が浮かんだ。


「あたし、あの人の心も助けてあげたい。いくよ、ノノちゃん、ヨツバちゃん」


「おうよっ、やってやるぜ!」


「……うん。ウチ、頑張る!」


 三人は両手を前に出し、親指と人差し指の先を合わせて三角形を作った。


 挿絵(By みてみん)


「スカイパワー・チャージアップ!」


「マリンパワー・チャージアップ!」


「サバンナパワー・チャージアップ!」


 光の中から三人の魔法少女が飛び出し、怪人たちの前に降り立った。


「お待ちなさい! セーラー服魔法少女ハートポッポ、ここに参上!」


「同じく、イーカポッポ参上!」


「同じく、ターンポッポ参上! この世の悪事をやめさせる。私たち……」


「「「セラレンジャー!」」」


 三人は両手を胸前でクロスしてポーズをとった。


「出たなセラレンジャー。また邪魔をするのだな。ちょうどいいのだ。ここでまとめて始末してくれるのだ。行くのだっ、デュラ・アズルー!」


「デューラデュラー。キャハハハハーー」


 怪人デュラ・アズルーは剣を振り回しながら、セラレンジャーに迫る。

イーカポッポはポッポロッドを出した。


「くらえっ! シトラスボール」


挿絵(By みてみん)


 打ち出した緑の光球は、怪人の剣で斬られて消滅した。

その隙にイーカポッポは怪人に接近した。


 間合いをつめて怪人の剣をかわしつつ、胴を狙って回し蹴り。

しかし、怪人もヒザをあげて蹴りをさばき、逆にハイキックを放つ。


 イーカポッポが後ろに跳んでかわした。

怪人の背後に回ったハートポッポとターンポッポがパンチを放つ。


 が、怪人はくるりと反転し、回し蹴りで迎撃。

ふたりは後ろに跳んで距離をとった。


 怪人はさらに身体を反転し、近づいてきたイーカポッポに剣を振るう。

なんとかかわしたが、斬られた前髪が数本中を舞う。


「くっ……。こいつ、やっぱし強いぜ。いったん離れて同時攻撃だ」


 イーカポッポの合図で、セラレンジャー達はパッと散開した。


「ポッポロッド! キャイガーボール」


 ハートポッポの左手の上に、赤く光る玉が浮かんだ。


「シトラスボール」


 イーカポッポの左手の上に、緑に光る玉が浮かんだ。


「ポッポロッド! シーサーボール」


 ターンポッポの左手の上に、黄色の網目状の光球が浮かんだ。


「「「トリプルアタック!」」」


 三人が同時に光球を打ち出した。

すべての光球が命中し、怪人は吹き飛んだ。

怪人の身体は地面で何度かバウンドし、動かなくなった。


「決まったぜっ。わたしたちの勝ちだぜ」


 イーカポッポの言葉に、ハートポッポは首をかしげた。


「なんだか変だね。怪物化が進んだら強くなるんじゃなかったっけ。たしかに今までと比べると、少し強かったみたいだけど」


「……みんな、ちょっと待って。怪人の頭ってどこ?」


 ターンポッポが指摘したとき、セラレンジャーたちの背後から「キャハハハハーー」と声が響いた。

三人は思わず飛び上がる。


 彼女らの背後で、怪人の生首が宙に浮いて笑っていた。


「そんなのあり? ズルい」


 怪人の首から伸びる髪の毛の束がセラレンジャー達にからみついた。


「きゃっ! なにこれ」


「くっ……。はなせっ」


「……ウチも油断した」


「デューラデュラー。キャハハハハーー」


 怪人の首が回転し、セラレンジャーたちは飛ばされた。

そのままビル壁に激突する。壁に亀裂が入った。


 怪人の首が胴体の手の上に戻った。

槍の女フォークダンスが命令を出す。


「いいぞデュラ・アズルー! セラレンジャーを切り刻んでやるのだっ」


「デューラデュラー。キャハハハハーー」


 怪人は剣を振りかぶり、セラレンジャーに近づいていった。


 その時、複数の黒い(つぶて)のようなものが飛来し、怪人デュラ・アズルーの足元でパパパパン!と炸裂した。


「誰なのだっ! どこにいるのだ!」


 フォーク・ダンスが周りを見回すと、どこからかギターのゆっくりとした調べがきこえてくる。

その方向を見ると、近くの電信柱の上に人影があった。


 黒の燕尾服に黒のシルクハットを被っている。

こちらに背を向けて、黒く長細い旅ギターを鳴らしていた。

黒いマントが風になびいている。


 黒衣の者は演奏を止め、振り返った。

帽子をかぶった顔は目も鼻も口もなし、つるりとした焦げ茶色の玉子型の仮面をつけている。


「スカッと参上、スカッと回復。さすらいの回復師ハティ・ダンディ、ここに推参!」


 黒衣の仮面男は電柱から飛び降り、セラレンジャーたちの横に立った。


「しっかりしろ、セラレンジャー。本日の回復アイテムはこれだっ」


 黒衣の仮面男は駄菓子の『はったいこ棒』をセラレンジャーたちに渡した。


「わかりました。いただきます。ハティさん」


「おう、玉子の兄ちゃん。今日のお菓子もうまそうだぜ。いただきまーす」


「……はい。いただきます」


 はったい()は大麦を()って()いたもので、きな粉に似ている。

その粉と黒糖と水あめを、練って棒状にしたお菓子だ。

やわらかい食感と優しい甘さ、高級和菓子のような上品な香りが口に広がる。


「力が湧いてくる! おいしいって、幸せです! ついでに好きです!」


「セラレンジャー! 今の幸せな気持ちを光に変えて、あの怪人を闇から解き放て!」


「はいっ! やるっきゃないない! 気合いだー」


 ハートポッポの背中から、鳥の翼に似たオーラが広がった。

イーカポットとターンポッポが光る玉を打ち出し、怪人をけん制した。


 ハートポッポの左手の上に、強い輝きの光球が現れた。


「アババイボール・オーバードライブ・シュート!」


挿絵(By みてみん)


 ハートポッポはラケット型の杖を下から上に大きく振り、光の球に叩きつけた。

光球は大きく空中にあがり、獲物を狙うハヤブサのように怪人目掛けて急降下した。

そして、光球は怪人デュラ・アズルーに命中した。


「デューラデュラー! なんか気持ちよくなってきた……」


 怪人デュラ・アズルーの姿がぼやけたようになり、どこかに走り去っていった。


「まてっー! どこにいくのだ、デュラ・アズルー! 今回ばかりは逃がさんぞー」


 フォークダンスも怪人を追いかけていった。


「はぁはぁ……。危なかった。ハティさん、いつもありがとうございます……。って、またいない」


「あの兄ちゃん、すぐいなくなるんだぜ。なんでだろ」


「……たぶん、大事な用事があるんだよ。とっても大事な」


 三人は変身を解いて、残ったお菓子を袋から取り出した。

モルモット妖精が「マロンも食べるケビー」と飛んできた。


 そんな少女たちの様子を、物陰から見ている女がいた。

その額の宝石が赤く点滅していた。


 * * *


 少し離れたところの物陰で、黒衣の玉子仮面は女性の話を聞いていた。


「私、三月に大学を卒業して、今年入社したばかりなの。慣れない仕事で叱られるばっかりだったけど、それでも一生懸命働いたんだ。でも先輩のミスで会社が大損したのを全部私のせいにされて、会社をやめさせられたの。私はその仕事には全然かかわってないのに」


 ハティ・ダンディは女性の話をじっときいていた。

ときおり大きくうなずき、「大変だったね」「それはひどい」と短く声をかけていた。


「なるほど。事前の解雇予告も予告手当金もなかったと。しかも退職の名目は本人都合とされたか。それが本当だとすれば、逆に辞めた方が正解のブラック企業かもしれぬな」


 仮面男はスナック菓子の『おさかなソースカツ』の袋を女性に差し出した。


「君にあげるよ。これを食べて元気を出すがいい。駄菓子には人を幸せにする力があるんだ。おいしいもので気持ちを落ち付かせれば、よい考えも浮かぶものだ」


 女性が菓子袋を受け取ると、仮面男は一歩下がった。

そしてどこからか黒い玉子を出し、頭上に掲げた。


挿絵(By みてみん)


「への字山のふもとに大きな駄菓子屋がある。一度行ってみるといい。ではさらばだ。君の人生に幸あれっ!」


 仮面男の右手の玉子が割れて、黒い煙がその姿を覆い隠した。

煙が晴れたそこには、もういなくなっていた。


 女性はしばらく煙のあとを見ていた。

そして手に持った袋に目を落とすと、封を開けた。


 * * *


 町の北側に広がるへの字山。

山のふもとにその駄菓子屋『射手舞堂(いてまうどう)』があった。


 駄菓子屋のレジに立つ青年、児玉零司のところに『おさかなソースカツ』の箱を持った女性が来た。

支払いを済ませると、そっと顔を近づけて言った。


「弁護士さんに連絡してくれたんですよね。おかげで元の勤め先の親会社で再雇用させてもらえました。このご恩は一生忘れません」


 女性は深々と頭を下げて、駄菓子の箱をかかえて帰っていった。

入れ替わりに、ヨツバが零司に近づいた。


「……零司さん、不思議そうな顔をしてるね。でもウチだけじゃくて、怪人になってた人はみんな知ってるからね。零司さんが玉子様だってこと」


「えー……。まさか、それはないだろう。誰も何も言ってこないよ。ユツバちゃんとさっきの人は別だけど」


 零司は笑ったが、ユツバは軽く首を振った。


「……それは、イオリちゃんがいるから」 


「そういうことか、なるほど。この店にセラレンジャーがくるから気まずいのかな」


「……全然違う。この人わかってないよ。零司さんって人の相談には乗るのに、自分のことには鈍いね」


「えー。そうかな?」


 そんな零司の様子を見て、ヨツバは「この分じゃ、玉子ファンクラブのことも知らないんだろうなぁ」とつぶやいた。


 サキとノノは拳銃のオモチャを見ている。

火薬で音がでるものや、銀色の粘土球を出すもの。

両方に対応しているオモチャもあった。


「零司さーん、この五円玉みたいなの何ー?」


 ノノがプラスチックの円盤が入った小箱を持っていた。


「結論から言うと、それもオモチャの鉄砲で撃ちだす玉だよ。ほら、そこに『円盤ピストル』があるだろ」


「あ、ほんとだ。こんな鉄砲もあったんだ。知らなかったぜ」


 その時、ヌイグルミを片手で抱いて『はったいこ棒』や『きなこ棒』を物色していたイオリが、零司に声をかける。


「零司くーん。いつものギターやってー。あたし零司くんのギター、大好きー」


「くすっ……。ああいいよ。イオリちゃん。では一曲」


 零司はミニギターをとり、演奏を始めた。


  小さなクモが でてきたよ

  濡れた雨樋(あまどい) のぼってく

  雨ですべって おっこちて

  あきらめないで まだのぼる


  濡れてる所を またのぼる

  おひさま(とい)を かわかした

  小さなクモが (とい)のぼる

  あきらめないで がんばるよ


 拍手するイオリと、それに手を挙げて答える零司。

鈍感すぎる二人を見ながら、ヨツバはやれやれと肩をすくめた。


次回、『最終話 絶望ドラゴン怪人のとどろく黒剣』は5/20(金)に投稿予定です。

戦い抜いた乙女たちに幸あれっ。


零司くんの歌うマザーグース"Itsy bitsy spider"の原詩はこちらです。


Itsy bitsy spider climbed up the water spout.

Down came the rain and washed the spider out.

Out came the sun and dried up all the rain.

And itsy bitsy spider climbed up the spout again.


零司くんがアレンジしてて、歌詞の意味が変わってます。

著作権の切れているおたまじゃくしは蛙の子のフシで歌えるかも


前回の後書きでも書きましたが、

下のリンクで『魔法少女隊セラレンジャーのテーマ』を公開しています。

音楽再生ができる方はぜひ聴いてみてください。


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― 新着の感想 ―
[一言] ブラック企業……嫌ねぇそういうのって(*´Д`) そしてそして……なんだか不穏な幕引きな戦いでしたね(゜Д゜;) 最終回も楽しみです!!
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