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第10話 襲来ケンタウロス怪人の貫く槍

 宇須美中学の校門から、中学二年生の海堂ノノと山宮サキが出てきた。

当然、二人とも制服姿である。


「すっかり遅くなりましたの。急に先生の資料作成のお手伝いを頼まれて大変でしたの。でもノノさんも手伝ってくださって助かりましたの」


「へへっ。いいってことよ。イオリとヨツバはとっくに帰ったみたいだな。今日、イオリはヨツバを海の方に案内するって言ってたぜ」


「このところ町で怪人がでる頻度が多くなってきましたの。イオリさんたちの方は大丈夫でしょうか」


「なあに。ヨツバも戦えるようになったんだ。問題ないと思うぜ」


 そう言ったノノは、歩きながらはラムネシガレットをくわえた。

サキに向かって、一本どう?とばかりに箱を差し出す。


「ノノさん、また学校にお菓子を持ってきたんですの? 先生に見つかったら没収されますの。でも、せっかくですからいただきますの」


 そう言って、サキも1本もらってくわえた。


「サキ。前から気になってんだけど、怪人をやっつけるとフォークダンスはすぐに逃げるよな。わたしらより強いのに変だぜ。それにフォークダンスが怪人と共闘してれば、もっとヤバイと思わねえか」


「マロンさんの推測では、フォークダンスさんが退却するのは怪人を倒したからではなく、時間制限があるみたいですの」


「ん? ってことは、わたしらが出なくても、ほっとけばあいつらは帰ってくってことか?」


「おそらく。ただし、その場合は奇跡による破損物の修復やけが人の回復はありませんの。それに、被害が大きくなれば闇の力も増すみたいですの」


「あちゃー。そりゃ問題だぜ。結局わたしらが戦うしかないってことか」


 ノノは、やれやれと肩をすくめた。


「フォークダンスさんが怪人と共闘しない理由は、2つ可能性が考えられますの。1つはフォークダンスさんが闇エネルギーの回収に専念していること。もう1つは、怪人を操るために集中が必要と思われること」


「そっか。そういえばヨツバが怪人になったときも、正気に戻りかかったって言ってたな。ってことは、戦闘中にフォークダンスを攻撃できれば怪人を解放できるかもな」


「ヨツバさんの場合は、闇海王との距離が離れていたことも関係していると思いますの。カッパの怪人がわたくしたちの前に現れたとき、フォークダンスさんと別行動をとっていたみたいですの」


 二人が歩く通学路の横には、サツマイモの畑が広がっている。

今の時期は植えつけ前なので、畑に芋はない。

農家の人が畑の土を盛り立てて、サツマイモを植えるための(うね)を作っていた。


 畑の先の方に、サツマイモの苗を育てる温室が何棟か見えている。

その向こうから「うわー…… なんだお前はー」という叫び声が響いた。

さらに破壊音と「きゃー」という悲鳴が聞こえる。


 ノノとサツキは一瞬顔を見合わせ、走り出した。

温室の向こう側には槍を持ったフォークダンスと半人半馬の怪人がいた。


挿絵(By みてみん)


「わーっはっはっはっ! ゆくのだ、ノマウマ型怪人ケンタ・アズルー! 人間たちのマイナスオーラを闇海王メグダゴン様にささげるのだ!」


挿絵(By みてみん)


「パーカパカー。ウマクイカナイヨー。キャハハハハーー」」


 馬人型怪人は槍を振ってサツマイモの温室を破壊した。

槍に貫かれたらしき雨水タンクからは水が噴き出している。

ノノが左手を見るとダイヤのマークが浮かんでいる。

サキの左手にもスペードのマークが出ていた。


「サキ、変身だぜっ!」


「はいですのっ、ノノさん!」


 ふたりは両手を前に出し、親指と人差し指の先を合わせて三角形を作った。


「マリンパワー・チャージアップ!」


「マウンテンパワー・チャージアップ!」


 両手の間に三角形の光が現れた。三角形がクルリと半回転し、六芒星となる。

そこからあふれ出る光の奔流が、ふたりの身体を覆い隠した。


 挿絵(By みてみん)


 ひとりのカチューシャにはイルカ型の飾り、もう一人のカチューシャには龍の飾りがついている。

光の中から二人の魔法少女が飛び出し、怪人たちの前に立つ。


「待てぇい! セーラー服魔法少女イーカポッポ、ここに参上!」


「同じく、キーシャポッポ参上! この世の悪事をやめさせる。私たち……」


「「セラレンジャー!」」


 ふたりは両手を胸前でクロスしてポーズをとった。


「出たな、セラレンジャー。蹴散らしてやるのだ! ケンタ・アズルー!」


「パーカパカー。キャハハハハーー」


 馬人型怪人がイーカポッポを目掛けて、槍を振るった。

イーカポッポはそれをかわしつつ、頭部を狙ってハイキックを狙う。


 が、怪人はイーカポッポよりさらに高く跳んでかわした。

さらに空中から、鋭く槍を突き出してきた。


「くっ……。こいつ強いぜ」


 イーカポッポは、なんとか右手のパリィの動きで槍を受け流した。


「ジャパウォック・スイング!」


 キーシャポッポは糸付きの光玉を投げた。

怪人は跳んでかわし、そのままセラレンジャーの周りをグルグルと走る。


 セラレンジャーたちは背中合わせとなった。


「く……。やっかいだぜ。速いし強い。これまでの怪人と一味違うぜ」


「これまでに戦ってきた怪人は、着ぐるみに似てましたの。マロンさんがおっしゃてましたの。闇の力で怪物化が進むと、容姿も人間離れして、より強くなるそうですの」


「そういうことか。でもやることは一緒だぜ。合わせろキーシャポッポ! ポッポロッド!」


「あれをやるんですね。了解ですの。ポッポロッド!」


 セラレンジャーたちはその場で空高くジャンプした。

空中で互いの足裏を蹴り、左右に分かれた。

怪人を挟むようにして着地し、今度はセラレンジャーたちが怪人の周りを走り出した。

 

「む? 何をするつもりなのだ?」


 槍の女フォークダンスは怪訝な顔になった。


「いくぜっ! シトラスボール!」


 イーカポッポは走りながら緑に光る玉を打ち出した。

光る玉は怪人の横を通り過ぎた。

反対側から、キーシャポッポが走りながら打ち返す。


 セラレンジャーたちが打ち合うたびに光玉の輝きが強くなっていく。

そして、ついに動きが停まった怪人に命中した。


「パカカッ!」


「いまだっ! くらえ!」


 イーカポッポは高くジャンプし、怪人の顔に正拳突きを放つ。

しかし怪人は打撃をかわしつつ、槍を振るって弾きとばした。


「うわっ!」


「きゃっ!」


 跳ばされたイーカポッポはキーシャポッポを巻き込んで倒れる。

それを見てフォークダンスが命令を出した。


「よし、ケンタ・アズルー! セラレンジャーにとどめをさすのだっ」


 その時、複数の黒い(つぶて)のようなものが飛来した。

礫は怪人ケンタ・アズルーの足元でパパパパン!と炸裂した。


「誰なのだっ! どこにいるのだ!」


 フォーク・ダンスが周りを見回すと、どこからかギターのゆっくりとした調べがきこえてくる。

その方向を見ると、近くの温室の上に人影があった。


 黒の燕尾服に黒のシルクハットを被っている。

こちらに背を向けて、黒く長細い旅ギターを鳴らしていた。

黒いマントが風になびいている。


 黒衣の者は演奏を止め、振り返った。

帽子をかぶった顔は目も鼻も口もなし、つるりとした焦げ茶色の玉子型の仮面をつけている。


「スカッと参上、スカッと回復。さすらいの回復師ハティ・ダンディ、ここに推参!」


 黒衣の玉子仮面は温室から飛び降り、セラレンジャー達の横に立った。


「しっかりしろ、セラレンジャー。本日の回復アイテムはこれだっ」


 黒衣の仮面は駄菓子の『パックわたあめ』を二人に渡した。


「おう、玉子の兄ちゃん。今日のお菓子もうまそうだぜ。いただきまーす」


「ありがとうですの、ハティ様」


 ふたりは袋から、わたあめをつまみだして口に運んだ。

口の中でさっと溶け、さわやかな甘さが広がる。


「力が湧いてくる! うまいっ! やっぱりこれだぜ!」


「こちらもですの。イーカポッポ、わたくしが援護しますの。仕上げはお願いしますの。ジャバウォック・スイング!」


「セラレンジャー! 今の幸せな気持ちを光に変えて、あの怪人を闇から解き放て!」


「おうよ! わたしの力を見せてやるぜ」


挿絵(By みてみん)


 イーカポッポの背中からトビウオのヒレに似たオーラが広がった。

その左手の上に強い輝きの光球が現れた。


 キーシャポッポが糸付きの光球を飛ばし、怪人の足に巻きつけて動きを封じた。

イーカポッポはラケット型の杖を左わき腹の下に移動させ、両腕をクロスさせる構え。


「アババイボール・ドルフィンターン・シュート!」


 左手の光の球を軽く放り、ラケット型の杖を右斜め前に振る。

球の横をこするように杖を振り上げた。

光球は大きく空中にあがり、横にカーブを描いて飛んだ。

そして、光球は怪人ケンタ・アズルーに命中した。


「パーカパカー! なんだか気持ちよくなってきたかも……」


 怪人ケンタ・アズルーの姿がぼやけたようになり、どこかに走り去っていった。


「おいっ、ケンタ・アズルー! そんなに急いでどこへ行くのだ! おのれセラレンジャー……。こんどは私が相手なのだっ」


 フォークダンスが槍を構えたその時、彼女の額の宝石が赤く点滅した。


「くっ……。またしても時間切れなのだ。覚えていろよ、セラレンジャー。次こそキサマ達を倒すのだ!」


 フォークダンスの背後の空間が割れて、暗い闇の世界が広がっているのが見えた。

そこへ彼女が飛び込むと、割れた部分が何事もなかったかのように元に戻る。


「手ごわい敵でしたの。何とか勝てましたの。……あら、ハティ様は?」


「いっちゃったみたいだ。あの兄ちゃん、すぐいなくなるんだぜ」


 二人は変身を解き、袋に残ったわたあめをつまんだ。


 * * *


 壊れていた温室は不思議な力で再生されていく。

隣には元から無事だった温室があった。

その温室の中で、黒衣の玉子仮面は女性の話を聞いていた。


「私、親友に嘘をついたんです。私のお父さんは公務員だって。本当は汲み取りトイレの汚物を集める仕事なのに」


 ハティ・ダンディは女性の話をじっときいていた。

この町には昔から代々続く屋敷も多く、トイレが水洗化されていない家もまだまだ残っている。


 女性は嘘をついた罪悪感、それ以上に自分自身が父を侮辱したように感じたこと。

嘘つきの自分の責める気持ち。

バレたことを想像する恐怖などをとつとつと話す。


「我に言わせれば、君の父上は立派な人だ。だれかがその仕事をせねば、苦しむ人が出てくることも想像できよう。そもそも市から委託された公共の仕事だ。公務員と言っても、当たらずとも遠からずであろうよ。君は自分の父親を誇りにするべきだと、我は思う」


「そう……なのかな?」


「それにだ。悪意の嘘は問題外だが、世のため人のためになる嘘だってあるんだ。嘘をつく覚悟のない人間は、人を導くことはできない。もし君が嘘をつくのが苦手なら、韻を踏んだジョークから始めればいい。君にこれをあげよう」


 仮面男は駄菓子の『揚げイカスナック』の袋を女性に差し出した。

袋には、学ランのヤンキーが『イカす、うまさだ!』と言うセリフが書かれている。


「駄菓子には人を幸せにする力があるんだ。これを食べて元気を出すがいい」


 女性が菓子袋を受け取った。

仮面男は一歩下がり、どこからか黒い玉子を出して頭上に掲げた。


挿絵(By みてみん)


「への字山のふもとに、町で一番大きな駄菓子屋がある。その親友と行ってみるといい。ではさらばだ。君の人生に幸あれっ!」


 仮面男の右手の玉子が割れて、黒い煙がその姿を覆い隠した。

煙が晴れたそこには、もういなくなっていた。


「ありがとう、玉子さん」


 菓子袋を胸にかかえて、女性はつぶやいた。


 * * *


 町の北側に大きく広がるへの字山。

そのふもとに大きな駄菓子屋『射手舞堂(いてまうどう)』があった。


 駄菓子屋のレジに立つ青年、児玉(こだま)零司(れいじ)は店の中にある『わたがし製造機』を見た。


挿絵(By みてみん)


 いつもの四人の女子中学生がそこにいた。

空井イオリが海堂ノノの袖を引っ張っている。


「ちょっと、ノノちゃん。そんなのあり? ズルい。家から持ってきたザラメを機械に入れちゃだめだよ。ちゃんとお金払って作らなきゃ」


「ちっ。バレたぜ。せっかく大玉を作ろうと思ったんだけどよ」


 二人のやりとりを見て、山宮サキがくすりと笑う。


「お金を2回分入れればいいですの。パックのよりおいしいですの」


「わかってないなぁ。このスリルでうまさが増すんだぜ」


「……ぜったい零司さんにバレると思う」


 原科ヨツバは半眼になってつぶやく。


 レジに立ってる零司のもとに女性客が二人来た。

ひとりは『揚げイカスナック』、もうひとりは色々なフルーツ味の仁丹をカゴに入れている。

仁丹を持った方が零司にいった。


「すみません。この店でギターのリサイタルがあるって聞いたのですけど」


「結論から言うと、それはデマです。おそらく一部の女子中学生が流行らせたデマです」


 すると、わたあめを食べていたイオリが声をかけた。


「零司くん、いいじゃない。いつもやってんだし。やるっきゃないない!」


「しかたないなあ。では一曲だけ」


 零司はミニギターを持ち、『アルプス一万尺』のメロディーで弾き語りを始めた。


  キザな男が こうまにのって 羽根さし帽子で やってきた

  ランラララララララ ランララララララ

  ランラララララララ ラララララ へいっ


  キザな男は パスタがだいすき マカロニ、ラザニア スパゲティ

  ランラララララララ ランララララララ

  ランラララララララ ラララララ へいっ


  キザな男が 誰かと勝負だ 「あんたは2番」と 指摘して

  ランラララララララ ランララララララ

  ランラララララララ ラララララ へいっ


 歌の最後の「ランラララ……」はイオリ達との合唱になっていた。


次回、『第11話 悪夢ザリガミ怪人の巨大なハサミ』、罪悪感に苦しむ者に幸あれっ。


零司くんの歌うマザーグース"Yankee Doodle come to town"の原詩はこちらです。


Yankee Doodle come to town,

Riding on a pony;

He stuck a feather in his cap

And called it macaroni.


歌詞は零司くんがだいぶアレンジしていて、原詩と意味が違っています。

マカロニの意味も違います。

原曲のYankee Doodleおよび和訳アルプス一万尺の著作権は切れています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 親友に嘘をついた後ろめたさ、父親の仕事の事うまく言えないこともありますよね。笑われるかもしれないから。汚れる仕事を頑張るお父さんは立派ですわ! イカスナックも美味しいですよね(๑>؂<๑…
[一言] 誰かがやんなきゃいけない。 そういう仕事をしてる人って、素敵だと思う。
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