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第八話 僕が幸せになった話

「ただいまー」

 今日もつかれた。

 玄関を開けると、すぐにパタパタとスリッパの音がする。


「おかえりなさい。オミさん」


 そうして顔を見せたのは、愛しいひと。


 僕の、かわいい奥さん。




 あれから、僕達は正式に結納を交わし、婚約者となった。


 明子さんは千明さんと同じ短大に進学。

 僕も一条さんの事務所に正式に就職した。


 お互いに新しい生活に慣れるのは大変だったけど、忙しい時間を何とかやりくりして、少しでも会えるようにがんばった。

 デートをしたり、指輪を決めたり、時には互いの両親と食事をしたり。


 少しずつ、結婚に向けて歩いていった。




 少ない時間の中でも、会えば必ず彼女が言ってくれる言葉がある。


「大好き」


 愛しい彼女が「大好き」と言ってくれるのならば、少しは僕にも価値があるのかもしれない。


「オミさんは『役立たず』じゃないですよ」


 かしこい彼女がそう言うならば、そうなのかもしれない。


「オミさんといられて、しあわせ」


 かわいい彼女がそう言って笑うから、僕もしあわせだ。




 自分でも単純だと笑えるくらいに前向きになった。

 自信がついた。

 少しでも彼女にふさわしい男になりたいと、より一層がんばった。




 そうして、彼女が短大を卒業するのを待って、僕達は結婚した。


 二年くらい独身のまま社会人を経験したら? ともおもったが、「よその男にアキちゃんが声かけられてお前は平気なのか?」とタカに指摘されたらダメだった。


 自分がこんなに心の狭い男だとは思わなかった。


 明子さんは千明さんの会社に入った。

 学生時代の延長のように、千明さんと組んで仕事をしている。

 学校に行っていた時間も仕事に使えるとあって、千明さんも明子さんも活き活きと働いている。


 仕事は順調のようで、タカが色々と企んでいるようだ。



 タカと千明さんも結婚した。

 結婚しても、僕達四人の関係は変わらなかった。

 

 タカは僕の親友で。

 千明さんは明子さんの親友で。

 千明さんはタカの大事な女性(ひと)で。

 明子さんは僕の大事な女性(ひと)




 そして。




「おー。おかえりー」

「おつかれー」


 リビングに入ると、ソファでだらんとしている二人に迎えられる。


 タカと千明さんだ。


 二人の家は一乗寺の目黒家の山にある。

 一階を会社の事務所、二階を二人の住居にしている。

 しかし、市内の納品や打ち合わせで遅くなるとウチで夕飯を食べる。

 そしてそのまま泊まっていく。

 元タカの部屋が、そのままタカと千明さん夫婦の部屋になっていて、着替えその他日常生活に必要なものがおいてある。


 月の半分以上はウチにいる。


 困ったことに、それが僕も明子さんも嫌じゃない。

 大人四人が暮らしてもせまくるしいわけではなし。

 僕はタカが、明子さんは千明さんがいてくれる空間が心地よい。


 結果、四人で暮らしているような状況になっていた。


 明子さんが家事全般を引き受けてくれているので、タカが「ものすごく助かる!」と喜んでいる。


 ちなみに目黒家の家事はタカがやっている。

 あんなに芸術的な花を活けるくせに、千明さんの家事は壊滅的だった。

 目玉焼きを作ろうとして炭を錬成する人なんて、マンガだけの存在だと思ってた。

 千明さんは明子さんがいないとだいぶポンコツな人だった。

 なのに仕事はデキる。不思議だ。



 タカは『目黒(めぐろ) 隆弘(たかひろ)』になった。

「『赤』から『黒』になった!」と笑っていた。

 千明さんの両親にもかわいがられ、家族が増えたと喜んでいる。



 家族。


 そう。

 僕達は、家族だ。




 ずっとひとりだと思っていた。


 何をしても認められない。

『霊力なし』の僕は存在することすら許されない。


 暴風雨の吹き荒れる中を、わずかなくぼみに身をひそめるような状況に、ひとり耐えていた。


 あの頃の僕は、世界に立ち向かうのに疲れていた。


 それを、タカが救ってくれた。

 僕の親友に、家族になってくれた。


 そして明子さんに出会った。

 僕の奥さんに、家族になってくれた。


 千明さんはタカの妻になり、僕も家族として迎えてくれた。




 家族のおかげで、僕は強くなった。




 一族の中には変わらず僕を(さげす)む連中もいるけど、気にならなくなった。

 ヘンに媚びへつらう連中が増えたせいかもしれない。


 結局、あの山奥には帰らなくてすんでいる。

主座(しゅざ)様がお出ましになるのは数年後」と父が『先見(さきみ)』をしたとかで、それまでは放置されることとなった。

 

 おかげで一族と関わることもなく、のびのびと暮らしている。

 先のことはわからないが、明子さんが「先のことは今は考えなくていいです!」と言うので従っている。


 強くてかしこい奥さんのおかげで、僕はしあわせだ。



 仕事では相変わらず一条さんにこき使われているが、そのほうが『役立たず』でないと思えてうれしい。

 



 朝起きて。

 仕事をして。

 家族とごはんを食べて。

 他愛もない話をしてじゃれあって。

 今日もおつかれさま。おやすみ。と眠りにつく。



 今の僕って、かなり幸せ者だなぁ。




「? なぁに?」

 ベッドの中。

 フフッ。ともれた笑いに、隣の明子さんが問うてくる。

 かわいい、僕の妻。


「――僕、しあわせだなぁ。って思って」


 そう言う僕に、明子さんがにっこりと笑う。


「私の言ったとおりでしょう?」


 そして僕の頭をやさしくなでてくれる。


「『オミさんも、生まれてくる息子も。

 みーんなまとめて私が幸せにしてあげます!』って」


「――うん。ありがとう」


 ああ。強くてやさしくて頼もしくて。

 最高の妻だ。



「今後とも、よろしくおねがいします」

「どんとこいです」

 



 こうして、『霊力なし』『役立たず』と一族でうとまれていた僕は、親友と奥さんを得て幸せになった。




 数年後に生まれる息子達に翻弄(ほんそう)させられることになるのは、また別のおはなし。

これにて完結です。

ありがとうございました。


この数年後に生まれる息子達が、拙作『霊玉守護者顛末奇譚』に出てくるハルとヒロです。

こちらもお読みいただけるとうれしいです。

霊力を使って少年達が仲間と共に戦う、ベタベタのお話です。

説明の長い初投稿版と、説明をバッサリ斬って短くした改訂版があります。

内容は同じです。


このおはなしの登場人物もちょっとだけ出てきます。

四十代になったオミとタカが子供達をかわいがる様子を読んでいただけるとうれしいです。


 明日からはこの『霊玉守護者顛末奇譚』の番外編というか、本編の裏側の話を投稿していきます。

 この世界のお話をしばらく続けるつもりです。

 よかったら今後ともお付き合いくださいませ。

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