8部目
29分43秒後。
1300光年近く離れた地球近辺に到着した。
「ここからは、再び通常航行に切り替わります」
自分が操縦桿をいったん握ってから離した。
「何をしてるんだ?」
ギガルテ大尉が自分の手元の動きを見て言った。
「こうしないと、この船は自動操縦にならないんですよ」
そういって、後ろを見た。
強大なGは、彼らを気絶させるのに十分だったらしい。
そろって眠りについている。
「そのまま眠り続けたらどうしましょうか」
「それもまた一興…と、普段だったら言ってるが、無理にでも起こすしかないさ」
大尉はそういって、彼らを無視して、一人でリビングに向かった。
彼らがおきたのは、それから5分ほどしてからだった。
自分達は、荷物を整理し、着陸したときに備えていた。
「ありゃ、お二人とも早いですね」
金川大尉が眠い眼をこすりながら出てきた。
「そんな話ではない。前を見てみろ。地球だ」
金川大尉はそれを聞いて、すぐにシャキッとした。
「調査は…」
「今は出来ない。そこまで近づいていないから。でも、地球周辺の調査は可能だ。すぐに準備をしてくれ。それと、イサキ少佐をたたき起こして来い」
ギガルテ大尉はそう言った。
その途端に、頭にフライパン攻撃を食らっていた。
「もうおきてます。後は行うだけの状態にしてますよ」
フライパンを持ったままで言う。
下では、頭を抑えてもだえている上官の姿があった。
「普通の隊でやったら、即座に殺されますよ…」
「そうなんですか?」
ギガルテ大尉はけらけら笑った。
「大丈夫ですよ。ここは他の隊とは違いますから」
そういって、口笛を吹きながら、いろいろな機器を取り出した。
「周囲の探査を先にするのと平行して、ロボットの探査もする」
イサキ少佐はいまだにいた無頭を押さえながらそう言うと、自分のほうを向いた。
「準備は?」
「完了です」
自分が持ってきていたのは、ロボットが出す予定の周波数帯にセットした、探査機だった。
「これを船外放出すると、自動的に探すことが出来ます」
「今すぐ出せ」
自分は、それを聞いて少しくぼんでいるところに機械をおいた。
「いってらっしゃい」
一言声をかけた。
それから、薄いビニールのようなものに覆われ、そのまま船外射出された。
皮膜は、瞬時に蒸発し、そのまま機械が順調に起動した。
「起動シークエンス、終了確認。無事に起動しました」
それから、自分は他の機械も持ち出してきた。
「何に使うんで?」
金川大尉は、その機械の数々を見て驚いて聞いてきた。
「これらは、修理部品とかだよ。自力で修理がいるかもしれないから、必要だと思うもの全部持ってきたんだ」
「すごい量ですね…」
起きてきたキガイ中尉とすぐ横に立っているスケース少尉が言った。
「大丈夫、どうにかなるさ」
自分のすぐ横に立っていたギガルテ大尉がつぶやいていた。
その目を見たとき、人それぞれに秘密があるのだと確信した。
第4章 調査
全員がおきたところで、ミーティングが開かれた。
テーブルを囲んで、まず隊長が言った。
「さて、とりあえず、ロボット調査、地球自体の調査、地球周辺の調査を開始したわけなんだが…」
「どうしたんですか?」
イサキ少佐は、一度ため息をついてから言った。
「どのような方法を試しても、ステーションと交信が取れない」
自分はそれを聞いて、立ち上がった。
「…あの」
ミーティングを聞きながらの作業を終わらすと、イサキ少佐に言った。
「確かに駄目でした。外界との通信手段は、いっさい無いですね」
「そうか…」
自分は、分かったことを簡単に報告した。
「地球ー火星間に、地球を含む内側全体を取り囲むように電波防御壁があるようです。どうやら、それが電波を妨害しているようです」
「突破する方法は…」
「電波防御壁外にロボットを送り、それを経由させることですが…」
自分はその問題点を言った。
「ロボットを送っても、内側と相互通信が出来るかが問題ですし、何より部品がありません。それが一番の問題ですね」
イサキ少佐は、少し考え込んだ。
その間に、ギガルテ大尉が周辺の調査と称して、武器がある攻防室へ入った。
それから30分後までに、現状確認が終了した。
「現在、我々は惑星連合と一切の情報の疎通が出来ない状況にある。それに、連絡を取るためには、本船ごと地球ー火星にある電波防御壁を超えないと出来ない」
「周囲の状況は、とりあえず人間が再入植することは可能であり、地表面も少々汚染されている地域はあるが、その地域を避けることによって入植することは可能である」
「先遣隊ロボットの電波はいまだに見つからず。攻撃用ロボット、防御用ロボットを、船壁につかしています」
「了解、ではそれぞれ現在出来ることに当たってくれ。2時間後、夕食を兼ねてのミーティングを開始する」
イサキ少佐は、何度かうなづいて言った。
全員が、それぞれの荷物のところに散った。
1時間半後。
自分が打ち上げた衛星が、微弱な電波をとらえたといってきた。
「イサキ少佐、ちょっといいですか」
自分は、イサキ少佐を呼び、そのことを伝えた。
「何の電波か分かるか?」
「先遣隊ロボットのはずです。ただ、その映像の先がちょっと問題が…」
自分は、その映像を見せた。
その映像には、この場所には無いはずのものが見えた。
「…縮退炉…」
「そうです」
自分は、縮退炉の原理を思い出そうとしていた。
しかし、うまく思い出せない。
「キガイ中尉、すまないが来てくれないか」
自分はキガイ中尉に助けを求めた。
「何でしょうか」
すぐに来てくれた。
「縮退炉だと思うんだが、どう感じる?」
キガイ中尉は、その映像を見て驚いている。
「確かに、縮退炉ですが、これは見た中で一番進んでいると思います」
「どういうことだ」
イサキ少佐は、少し困ったような顔をしていた。
「縮退炉の原理は、ブラックホールに物を吸い込ませ、そのときに発生するマイクロ波、赤外線、紫外線をエネルギー変換するものです。基本的にはそれ以外の電波からはエネルギー変換の機械がまだ作られていません…」
そのとき、自分に聞いてきた。
「すいませんが、この縮退炉の総質量は測定できますか?」
「えっと…」
自分は計算機にそれぞれ必要なものを打ち込んだ。
「2×10^98(kg)だな」
「この縮退炉、どこでエネルギーをとってると思います?それに、なんで地球にこんなに近いのに、地球自体が吸い込まれないんでしょう」
「そういえば…」
確かに、言われれば不思議だった。
太陽がブラックホール化しても、実質意味が無いといわれている。
地球にかかる重力が変わらないためだ。
だが、この縮退炉は違う。
今まで無かったところに突然ブラックホールが出来ている。
その重力は、無視できないほど大きい。
「だが、ラグランジュポイントだったら…」
イサキ少佐が言うが、キガイ中尉は首を振った。
「ラグランジュポイントの原則が成り立つのは、この場合、地球ー月間の重力を無視できるほどの質量を持つことが条件に挙げられます。今回の場合、重力は無視できません。さらに、太陽よりも重いんです。この縮退炉は、1.9891×10^30(kg)なので、単純に、2×10^30としても、軽く10^68倍ですね」
「桁が分からんが…」
キガイ中尉は、自分の発言を聞いていった。
「昔の日本の単位ですと、10^64で、1無量大数と言ったらしいです。だから、言うならば、1億無量大数…ですかね」
「いや、俺に振られても」
イサキ少佐を見たキガイ中尉に、そう返した。
「とにかく言えるのは、あの縮退炉と思われるものは、これまで存在している縮退炉、実験炉を含めて、最も古いと言うことなんです」
自分がイサキ少佐に言った。
「それは本当なんだね」
イサキ少佐が答えた。
「そうです」
自分は即答する。
それからイサキ少佐は少しばかり考えさせてくれと言い残して、ウイスキーボトルを持ってトイレに行った。
「…なんでトイレ?」
「ひとりになれて、安心するからじゃないですか?」
自分達は、勝手な妄想…もとい想像ばかりしていた。