7部目
自分がドアを開けてはいると、全員が私服に着替えていた。
「…何やってるんですか?」
「大体1時間の間、何もすることが無いんだろ?だからこうやって時間を潰してるんじゃないか」
イサキ少佐がさらっと言った。
「…好きにしてください。でも、自分が言ったらちゃんと座ってくださいよ。座らないと命の保障は無いですからね」
「分かったよ」
風呂から金川大尉が出てきた。
短いピンク色のフリルのスカート、上は半そでシャツの白地に"勇"と黒字で書かれていた。
「どう?」
「…どうやって持ってきたんだよ」
ギガルテ大尉に突っ込まれていた。
「いいじゃないの。そんなこと」
スケース少尉がポカーンとした表情で見ていた。
「かなり…いいです」
その途端、金川大尉のチョップがスケース少尉の脳天を直撃した。
「あんたは、どんな視点で見てるのよ」
それでも、顔は笑っていた。
少しはなれたところからその騒ぎを見ていたキガイ中尉のところへ、自分は行った。
「ここ、いいですか?」
「どうぞ」
キガイ中尉は少し動いて、自分が座れる場所を作った。
自分は、その場所に座り、彼と話した。
「いつもこうなんですか?」
「たいていは、ね」
自分のすぐ横に、イサキ少佐も座った。
「やれやれ、これじゃいつもの変わらんな」
そういって、スコッチウイスキーの瓶をあおっていた。
「アルコール中毒になりますよ」
キガイ中尉が言った。
「大丈夫だよ。ちゃんと調節してるから」
そういって、再び一口飲む。
「僕の実体験から言わせていただきますと、その飲み方は危ないです。自分も初期のころはそうやって飲んでました」
「どういうこと?」
自分は二人に聞いた。
「…この309小隊には、いろいろな人が来る。俺も含めてな」
ウイスキーの瓶を傍らに置き、足を伸ばして語りだした。
「キガイ中尉、これからお前の話をしたい。だが、それは本人から直接聞けばいいと思う」
そう言った。
キガイ中尉は、一拍おいてから、話し出した。
「僕は、もとアル中なんです」
「え?」
そういえば、周りが酒を飲んでいるときでも、彼はお茶しか飲んでいなかった…
「昔、彼女に振られて、それから徐々に酒びたりの生活になりました。最初は、このぐらいでいいだろうと思っていたんですが、その歯止めもきかなくなり、ちょっとでも酒が切れたと思ったら暴力を振るってでも手に入れたいと思うようになりました。今から10年も前の話です」
それから、自分のほうを向いていった。
「精神病棟って、行った事ありますか?」
「いや…」
キガイ中尉は、ふぅと短く息を吐き出して続けた。
「僕が行った精神病棟は、かなり危険なところだといわれていたところだったんです。今はその病院は無くなって、住宅地になってますが、その病院を生きて出れたのは僕を含めて2人だけ。そんなところだったんです。僕が行ったところが特別だったんだと思うですが、それでも、そんな経験をしていると周りが信用できなくなる。でも、稼がないことには何も食えない」
「それで、軍に入ったのか」
自分が聞く。
彼は、一回うなづいて続けた。
「稼ぎたいから軍に入った。理由はそんなものです。でも、今はそれで正解だと思います。こうやって無事に更正できているのも、皆さんのおかげだと思います」
彼は笑っていった。
「ですから、今はそんな記憶と決別したいんです。恋はまたするかもしれませんが、今度はそうやって酒におぼれることは無いと思います…いいえ、ないんです」
そういうと、彼は立ち上がり、ギャアギャア騒いでいる人たちのところへ動いた。
「…ところで、彼と一緒に出てきた人は?」
イサキ少佐に聞いた。
「やつとは仲良しさ。しょっちゅう会ってる」
それだけ言って、再びウイスキーを飲んだ。
ウイスキーの瓶を軽く振りながら、イサキ少佐は言った。
「…あいつ、彼女に降られたって言っていたが、本当は死別したんだ。正確には自殺だな」
「…そうだったんですか」
自分は、笑っているキガイ中尉を見る。
「…人には知られたくない過去がある。その過去とどうやって付き合っていくか。それが人間としての価値を決めるんだ」
イサキ少佐は、そういってウイスキーを通して、彼らを見ていた。
25分後、軽く軽食を取ろうということになり、金川大尉が台所に立った。
そういっても、目の前で料理がどんどん作られていく。
リビングと台所が同じ部屋にあるため、作られる片っ端からテーブルに並べられる。
3分ほどで、テーブルいっぱいにご飯がおかれた。
「いただきます」
そして、食べ始めた。
5分ほどでそのすべてを食べつくすと、自分は超光速航行の準備を始めた。
その周りで、荷物を固定していく小隊の皆さん。
「何してるんですか?」
トイレから出てきたのは、金川大尉だった。
「ああ、超光速飛行って言うから、荷物が飛ばないように固定してるの」
そういって、次はギガルテ大尉がトイレに入った。
「後30分ほどで超光速航行に移ります。それまでに、トイレを済ませておいてください」
自分が、そこにいた人たちに言った。
「はーい」
そのときには、私服から軍服に着替えていることを願った。
30分後、全員が軍服を着て椅子に座っている。
「自動シークエンス起動。目的地、絶対座標原点。惑星名、地球」
それから、パスワードを求められた。
「パスワード、"patrig planed"」
ちょっとした間が空いた。
その隙に、すぐ横に座っていたイサキ少佐が聞いた。
「聞きなれない言語だな」
「エスペラント語です。母なる星という意味になるらしいのですが、本当かどうかは知りません」
「なるほど…」
少佐がなにやらうなづいていると、コンピューターが返答した。
「パスワード承認」
短く言った。
それからカウントダウンが始まった。
「30秒前…」
「みなさん、いいですか?絶対に動かないでください。話さないでください。絶対ですよ」
自分は全員に言った。
「了解…」
「シートベルト確認」
自分のを確認しながら、全員に向かって言う。
「確認終了」
「20秒前…」
コンピューターの冷たい声が、自分達に突き刺さる。
「席の固定確認」
「固定確認終了」
一斉に答える。
「15秒前…」
自分は操縦桿の位置を確認し、スピードメーターの位置を確認し、バックのスプリング具合も確認した。
「10秒前…」
バックで9、8…といっているとき、自分は最後に言った。
「絶対に、何も話さないでくださいね」
「了解」
「3…2…1…ゼロ!」
自分達は、ものすごい重力で引っ張られる感覚を深く味わった。




