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6部目

「あれがそうです」

イワ少佐は、数あるピカピカに光り輝く船に見向きもせず、ぼろぼろのくすんだ旧造艦を指差した。

「…あれですか…」

「そうです」

イサキ少佐が聞き返すと、あっさりと答えた。

「燃料、食料、機材諸々。すべて詰め込み済みです。明日の1330(ひとさんまるまる)出発予定です」

それだけ言うと、イワ少佐は帰っていった。

「…とりあえず、乗り込んでおこう」

イサキ小隊長は、そう言って船に乗った。


船は案外広かったが、部屋は5つで、中央の玄関兼リビングキッチンみたいな部屋、トイレと風呂の部屋、運転部屋、倉庫、攻防部屋しかなかった。

攻防部屋というのは、戦闘指揮室のような位置づけで、もともとそう呼んでいたらしいのだが途中で攻防というようになり、それが正式名称になったのだ。

「…とりあえず、必要最低限ですね」

金川大尉が一目見て言った。

「でも、いつもみたくしていると大丈夫じゃないすか?」

スケース少尉が言った。

「そうだな…じゃあ、明日まで自由時間って言うことで」

イサキ小隊長がそう言った途端、全員が思い思いの場所でバックを開けた。

自分も、立っていた場所でバックをおいて、いろいろ見て回った。


第103軍団長の部屋では、その時、第39軍団長が来ていた。

「どうですか…」

磐木少将が聞いた。

アレハ中将は、出された紅茶を飲みながら、磐木少将に言った。

「あいつらは、いざとなれば強いですよ。軍人であるという、その名誉と誇りに対しては宇宙で一番だと思いますね。素行が多少問題だからといって、決議にも一貫して否定し続けてきたではないですか。我々は」

紅茶を一口すすり、アレハ中将は、少将の机の上に返した。

「それに、彼らは何かにつけていろいろと自力でして行く連中ですよ。心配することは無いですよ。たとえ、あなたの甥御さんが彼らと同行しようとも、きっと生きてきますって」

少将は座っていた椅子から立ち上がり、中将のところへ歩いた。

「…そうでしょうか。永嶋今宵の母親で、私の妹の永嶋伊代は、彼が15のときに死んでそれから私がずっと育ててきた。もしも死んだら…」

中将は、そんな落ち込み気味の少将の肩を叩いた。

「君らしくないな。自分の下で働いていたときを思い出してごらんよ。あの時は楽しかった…」

少将は、中将の手を握り涙をこらえるように天井を見た。

「そうよ…ね…」


翌日、13時30分。

船は静かにドックから離れた。

自分が昨日チェックしたときには、何も不調は無かった。

だから、問題があるとしたら、それ以降の行動だ。

「こちら、第39軍団309小隊特別隊員の永嶋今宵大尉。第4ドックを離れた」

「こちら司令塔。了解。目視確認中」

その確認が終わるまで3秒ほどの間が空いた。

「終了、確認完了。3番ゲート開けます、中央へ進んでください」

「了解」

運転は、自分がしていた。

他の人たちはそれを見守っていた。

「中央進入完了。各部最終確認。ハッチ閉鎖、確認。燃料ゲージ満タン、確認。各自シートベルト、確認。後部ハッチ閉鎖、確認。エンジン調子、確認……」

それからも、あちこちの必要と思うところを確認し続けていた。

1分ほどすると、自分から言った。

「すべて確認終了。出発準備完了。いつでも出れますよ」

「司令塔、了解。それでは御武運を祈ってます」

それだけ言うと、後ろのドアが閉められた。

すぐ横の副操縦席に座っているイサキ少佐が聞いてくる。

「なあ、さっきまでいたところの扉が閉められたんだが?」

「口閉めといてください。舌咬みますよ」

自分はそれだけ言った。

それから、安定するまで誰も話さない時間となる。

ただ、自分が読み上げていく速度計のモニターの声が、激しい音の中で聞こえる声になっていた。

「エンジン始動。10km/h、40km/h、60km/h…これより秒換算。30m/s、50m/s、100m/s、300m/s…」

それからしばらくして、自分は再び第3宇宙ステーションとコンタクトを取った。

「第1宇宙速度到達。なおも速度上昇中」

「了解、まもなく管制圏を離れる。そしたら、また会う日までサヨナラだ」

それだけ言って、司令塔からの通信は途絶えた。


3分後、第3宇宙速度まで到達。

さらに加速を続ける。

それから、自分は黙りこくっている人たちに言った。

「もう話してもいいですよ」

他の地点との回線を切ったのを確認してからいった。

「もう…いいのか?」

第3宇宙ステーションははるかかなたに見える。

すでに通常通信不能圏に到達しているため、これから通信をするときは、超空間通信を使うしかない。

「ええ、どうぞ」

イサキ少佐の質問に、あっさりと答える。

「これからは約1時間の間、この速度で航行することになります。その後、一気に再加速することになります。その加速を行いながら地球に向かいます」

自分は、これからの航路を頭に思い浮かべて言った。

「1時間後、超光速航行に切り替えます。詳しい説明はその時するとして、その状態が、約30分。1分で45光年ほど進む速さになります。トイレに行きたかったら、それまでに行ってください。一度入ると、解除が効きません。仮に解除すると、どこに飛ばされるか分かりません。超光速航行中は、席の移動を一切してはいけません。何が起こるか分かりませんので」

自分はそこまでほぼ一息に言ったが、誰一人として聞いている気配が無い。

なぜならば、全員すでにリビングに向かっていたからだ。

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