5部目
第3章 地球までの道のり
半月後、自分達は荷物をまとめて惑星系外縁部にある第3宇宙ステーションといわれるところにいた。
ここは、軍と一般が共存している唯一の宇宙ステーションで、その巨大な容姿からは、人工小惑星といわれるほどだった。
「通常、この宇宙ステーションは軍の管轄下にあるが、それでも非常時には一般人を先に脱出させる手はずになっている」
「知ってる」
キガイ中尉の発言は、あっさりとギガルテによって否定された。
「まあまあ。とりあえず、ステーションの軍団長に挨拶しておこうよ」
自分は、そう言った。
なんとなく仲がいいようだが、なんとなく悪くもある。
微妙な関係が、彼らの間をつないでいるようだ。
第3宇宙ステーションは、軍務大臣の直轄にあった。
軍用宇宙ステーションは、一つの軍団として扱われており、その結果、この宇宙ステーションにも軍団長がいた。
「失礼します」
イサキ少佐が一番最初に入った。
全員が部屋の中に入り、軍団長に敬礼をした。
軍団長は、部屋の窓から宇宙ステーション全体の景色を見ていた。
「第39軍団309小隊、地球派遣の命を受け、本日参上いたしました」
「休め」
軍団長は、吸っていたタバコを灰皿にやさしく置き、振り返った。
第3宇宙ステーションの軍団長のあだ名は熊と聞いたことがある。
第103軍団軍団長の磐木信子少将。
容姿は極めて上品、その決め細やかな肌は、誰色にも染まらないという。
だが、一度怒らせると、相手が気絶するまで殴り続けるという伝説がある。
その姿を見たものから伝えられたのは、グリズリーの攻撃というのはあんな感じなのだろうかという話だけ。
自分達は、一切相手を怒らせないことに終始気を砕いていた。
きれいな人だ…
最初の印象はこうだった。
うわさと違わないほどの美しさがあった。
昔、お世話になっていたが、軍に入ってからは接触を絶っていた。
「地球派遣は、危険が伴う。それでもいくか?」
「無論です」
イサキ少佐が断言した。
「わかった。309小隊の船は、4番ドックにある。"大和"を使ってくれ」
自分はその名前を聞いたとき、ふと思った。
大和という宇宙船は、第1世代といわれる種別になっている。
第1世代とは、基本的な性能があるが、かなりぼろく、いつ壊れても不思議ではない機種だった。
元々は、日本が持っていた戦艦の名前だという話もある。
今となっては、まったく分からない話だ。
部屋を出て、ほっと胸をなでおろすと、すぐに磐木少将の部下が来て、ドックに案内してくれた。
一度、互いに敬礼をしてから相手が言った。
「イサキ・ミカガイ少佐ですね」
「そうです」
一言だけ言った。
相手も少佐の肩章をしていた。
「初めまして。イワ・ストール少佐といいます」
二人は握手をしてから、再び話した。
「第4ドックまでお連れしろとのご命令があります。どうぞ、こちらへ来てください」
彼についていくしかなかった。
船のところへ行くには、1階下がってから、専用のエレベーターに乗り込んで最下階へいく必要があった。
「深いんですね」
イサキ少佐が言った。
「そうです」
エレベーターの中は、動いているという感覚が無かった。
振動を起こさないようにする機器を取り付けているのだろう。
駆動音も聞こえないので、二人の話し声だけが響いていた。
「長径40km、短径28km。自転して重力を生み出す形になっているため、中心部は立ち入り禁止となっています。その中心部には、縮退炉と呼ばれるものが搭載されており、第3宇宙ステーション全体のエネルギーを担っています」
キガイ中尉がすらすらといった。
「さすが、中尉はよく覚えている」
エレベーターに乗り込んでいる最中、かなり暇だったらしく、そんな話ばかりしていた。
「縮退炉は、この宇宙ステーションで出されるごみをもとにしています。エネルギー効率は5割程度で、残りは回収不能のエネルギーはとして放出されます。廃艦になる周辺の船も、この縮退炉に投げ入れられ、エネルギーとして使用されます。現在、本ステーション以外は核融合炉を使用しており、縮退炉を使用したエンジンは本宇宙ステーションまたはそれぞれの戦艦自体にしかないです」
縮退炉の説明をしている間に、第4ドックに到着した。